「これからの話をしましょう」

僕が飼い主さんからご相談を受けたとき、結構言うことが多い言葉です。

色んな飼い主さんからご相談を受けていると、結構な割合で「子犬の頃からしつけをしてなかったから」とか、「あのときに、ちゃんと私が対応しておけば」とか、「もっと早く相談しておけば」とか、そういう言葉を聞いたりします。
そのときに、僕は言うわけです。

「これからの話をしましょう」

これは別に、「済んだことにくよくよせずに、前向きに頑張っていきましょうね」という意味だけで言っているわけではありません。

行動分析学が考える(受け入れると言ってもいいかもしれない)「行動の原因の説明」は、以下の3つがあります。

 「遺伝的要因による説明」
 「これまでの学習による説明」
 「現在の環境との関係による説明」

「遺伝的要因による説明」というのは、たとえば私たち人間は、二足歩行というものができるわけですが、それはそのように進化してきたからというのは、確かに大きな要因としてあるわけです。
魚に二足歩行は無理ですしね(そもそも足がないし)。
カエルの舌が長いのも、そういった遺伝子を持ち、そのように進化してきたからです。
つまり、親、祖父母、先祖代々から脈々と続くものが、「今の行動に影響を与える」わけです。
このあたり、どうも「行動分析学は、生物学的、遺伝的、進化的な要因を無視している」と考えている人もいそうですが、そんなことはないんですね。

「これまでの学習による説明」というのは、たとえばあなたがAというラーメン屋には行くのに、Bというラーメン屋には行かないのは、過去にAというラーメン屋で食べたラーメンがおいしくて、Bというラーメン屋で食べたラーメンはまずかったからということが、影響しているかもしれません。
あるいは、新しく付き合い始めた女性に花をプレゼントするのは、過去に違う女性にお花をプレゼントしたら、とても喜んでもらったからということが影響しているかもしれません。
このように、私たちの「今の行動」に、「過去の学習」が影響を与えていることは間違いありません。

「現在の環境との関係による説明」というのは、夜にあなたが部屋の電気のスイッチを入れるのは、そのままでは暗くて何も見えないからです。
冬場にTシャツ一枚だけではなく、ダウンジャケットを着るのは、Tシャツ一枚だけでは寒いからです。
でも、暖房のきいた部屋に入ってダウンジャケットを脱ぐのは、そのままでは暑いからです。
「現在の環境との関係」によっても、私たちの行動は大きく変わります。

さて、大きく分けて3つの要因について書きましたが、この中でもっとも重視するのは最後の「現在の環境との関係による説明」です。
特に、いわゆる「行動の問題」と向き合うためには。

たとえば、イヌという動物は吠えます。
ですが、だからと言って「吠えるのはなぜか?そりゃあ、イヌだからでしょ。そういう風に進化してきた生き物だし、そういえばこの子の親も、その親も、そのまた親も、よく吠えるイヌだった。遺伝だね」と言われたら、それはまあ確かにそうなんだろうけどさ、ってなりますよね。
話がそこで終わってしまいます。
あるいは、「過去に、吠えることで何か良い経験をしたんでしょう。だから吠えるんですよ」だけで終わってしまうのも、はてさてどうしたもんだろうとなっちゃいます。
そりゃまあそうなんだろうけれども、もうちょっと、ほら、あるでしょうってなりますよね。
これもまた、話がそこで終わってしまいます。

話をそこで終わらせないためには、「今、ここ」の話をする必要があります。

 「このイヌが吠えるのは、確かに遺伝的な要因も絡んでいるだろうし、
  過去にそういった学習をしてきたんだろうというのもあるでしょう。
  でも、『今、ここで』吠えているのは、『今、ここに』吠えることで
  得られるメリットが存在しているからです」


これが、行動分析学が持つ、ある種独特な行動観です。

「今、ここ」に、「その行動を維持する何かが存在している」と考える。
つまり、「今のこの環境は、その行動を成立させる条件がそろっている」と考えるわけです。

そして、このように考えることで、私たちは「行動の問題」と向き合いやすくなります。
もっと言えば「勇気づけられる」わけです。

イヌだから、○○という犬種だから、過去の飼育環境がアレだったから、これまでの散歩の仕方がまずかったから…そういったところに「行動の原因」を持っていくのではなくて、「今、ここ」のことを考える。
すると、「ひょっとしたら、何か工夫すれば何とかなるかもしれない」「今、確かに問題は起こっているけれども、それはたまたまそういう問題が起きる条件が揃っているだけで、問題が起きない条件がきっとあるはずだ」と、前向きに考えることができます。

だから、「これからの話をしましょう」なわけです。


 これまで、色々あったんだろうと思います。
 
 これから、色々あるだろうと思います。

 でも常に、考えることは「今」と、「これから」です。

 行動分析学は、「今」と「未来」の学問です。


とかって言うと、きれいにまとめようとしてすべってる感ありありですねー。

まー、4月に「脱トレーナー宣言」かましてですね、相変わらず「あー、あたしって何者なのかしらー」という感じで(正の強化師は相変わらず不評)、前回のエントリも「なるほどと思いましたー」といったとてもありがたいお言葉から、「言いたいことはわかるし、まあきっとそうなんだろうけど、で?どうすんの?」と「なんか大丈夫?ちょっとダメっぽくね?」っていうのを言外に含んだありがたいお言葉から、「なんか意味わからんこと書いてはるわーって思いながら読みました(笑)」というどストレートなありがたいお言葉まで頂戴して、本当にありがたいことです。
そんなわけで、「これからの話をしましょう」と、自分に言い聞かせながら「サンデル教授のパクリじゃねーかって突っ込みくるかなー」とか思いつつ、このエントリを書いてます。
これから、僕はどうなっちゃうんだろうと、わくわくしつつ、不安もありつつ。

まあ、僕は常に、飼い主さんとわんこの、「今」と「これから」を、サポートしていきたいと、そう思うわけです。

「これからの話をしましょう」

あなたと、あなたのわんこの、これからの話をしましょう。