「大人の学び直し書道」
今回の漢字は「円」です。
円は、略された形でもともとは「圓」という漢字でした。
円
キレイな円が描ける人
「いぬとびさんは、綺麗な円が描けるね」
これは、私が中学生のときに美術の先生から何気なく言われた一言です。
円…?
「キレイな円が描ける人は、絵が上手な証拠なのよ」
続けて言われたことに、驚きながらも、とても嬉しかったのを覚えています。
先生はその円が大きければ大きいほどいい、と言ってました。
当時は書道への関心は皆無。
美術や漫画、アニメが大好きな、いわゆる「オタク女子」でした。
大人になって書道をやって思うことは。
書道も美術も共通点が多いこと。
やはり、芸術はすべて繋がっていますね。
意外かもしれませんが、とくに「円」に関しては、書道でも頻繁にスキルを問われます。
書道のお稽古を始める前に、執筆の基本練習をすることをお薦めしています。
これは、縦線、横線、ジグザグ線、ぐるぐる線を太さ・スピードを一定に意識して肩を使い書いていきます。
いわば、運動前のストレッチのようなものです。
この際に出てくる「ぐるぐる線」はまさに円の練習です。
書道は直線だけの練習ではなく、かならず曲線の練習も入ります。
芸術を表現するにあたり、やはり「曲線の美」というものはかかせません。
特に日本人の私たちが誇る「仮名文字」では、ほぼ曲線でできており、円のスキルを求められます。
この直筆の練習をお稽古前にするのは、野球で言えばピッチャーがアップをしているようなイメージです。
身体があったまっていた方が、すぐに良い結果を出せるのは書道も同じです。
円心(えんしん)
円心とは「円やかな心」と書きます。
これは、心の中に静かな穏やかさを追求し、物事に対して冷静かつ調和のとれた態度を保つことです。
私たちの人生は、良いことばかりではなく、当然悪いことも受け入れて行かなければならない時もあります。
どのような状況になろうとも、感情や状況に振り回されずに、冷静かつ穏やかな心境をもつことができるようにする。
内面的な静けさや心の平和、調和を追究することでもあります。
書道は「円心」を追求するときに役立ちます。
書道は心境に左右されやすい水のような芸術。
イライラしていたり、悲しみに暮れている時、または喜び勇んで興奮している時など、筆運びに感情がのってしまいます。
そんな浮き沈みのある感情をニュートラルな状態にします。
書道には多くの手順があります。
順番は個々で違いはしますが、イチロー選手がバッターボックスへ立つまでのルーティンがあるように、それぞれの書道にもそのルーティンを決めている人がほとんどです。
この順番でないと、これをしないとしっくりこない、というものです。
どれだけ感情が騒いでいたとしても、決めた自分のルーティンをこなしていくうちに、感情がニュートラルになってきます。
感情や状況に左右されない。
「今、この瞬間に集中する」
このように書道には瞑想効果も兼ね備えているのです。
素晴らしいですよね。
円と輪
似たような言葉で「輪」があります。
違いは以下の通り。
均等な半径を持つ形状が「円」。
環状の形状であることが「輪」。
円は完全な丸ですが、それに対して輪は必ずしも完全な円である必要はありません。
輪は、環状の形状や物の周りを囲むような形状を表現することがあります。
円のイメージとしては、数字的な広がりと、調和といった意味でつかわれることが多く、輪のイメージは連なっている形や、強い結びつきの意味で使われたりもします。
どちらの言葉も「つながり」を表現したいときにも使います。
夫婦円満、輪廻転生など。
切れない「つながり」。
円という形状は、温かみがあり、すべてを包んでくれ、そして、繋げてくれる。
日本政府が、通貨を両から円にした理由の一つに、円の形から商業や経済の安定性を意味するとともに、円熟した状態を表現していたと考えられています。
この一つの漢字から、人と人の繋がり、日本と世界との繋がりをを感じますね。
ああ、漢字って面白い。