「闇金ウシジマくん」が暴く、日本社会のウソ | A View of dogbutt

「闇金ウシジマくん」が暴く、日本社会のウソ

現代の日本人の心の闇を描かせたら桐野夏生が文句なしに最強だと信じていたけれど、
たまたま手に取った『闇金ウシジマくん』は、一連の桐野夏生作品と双璧をなすぐらい、すばらしい作品だった。
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タイトルのとおり、この作品の登場人物は超悪質な闇金業者と、その周辺で地をはうように暮らす
パチンコ中毒、暴走族、イベサー、風俗嬢、フリーターといった、いわば日本の底辺をなす「下流」の人たち。
なかば自業自得とはいえ、
それぞれの人生には同情すべき事情も抱えた「奴隷」と呼ばれる客たちの背景を丁寧に描きつつも、
けっきょくは彼らを容赦なく突き放す、まるで救いのない展開。
読後感は最悪だ。

この作品で圧巻なのは、なによりもキャラクターそれぞれの人物造形のすばらしさ。
この作品の登場人物たちは多くの場合、絶対的な悪人ではなく、
たいていは少しだけ邪悪なごくふつうの人間だ。
いい部分も悪い部分も持った、ありふれた登場人物たち。
そんな彼ら彼女らが、読者の多くもおそらくは持っている、ありがちな弱さを拡大された結果、
人生を壊され心を破壊されていく。
「悪いやつがひどいめに遭って、読者はそれ見たことかと溜飲を下げる」的な
ありがちな勧善懲悪ストーリーからは距離を置き、
ちょっとだけ人間性に問題を抱えた、でもありふれた登場人物たちが墜落していくさまを、
心のひだまで圧倒的なリアリティで描ききっている。
ちょっとキリスト教的だ。

「努力すれば、きっとうまくいく」なんて、高度成長期をドライブするためにねつ造された神話にすぎない。
そんなことはもう、みんな気づいている。
どんなに努力したって、一生報われないやつはそこらじゅうにいる。
でも希望がなければ前には進めないから、みんなウソだと知っていながら信じたフリをしてるだけだ。
ヘドが出そうな「ナンバーワンより、オンリーワン」だって、
おなじように、世の中の役に立つ意味があるウソだ。

『ウシジマくん』も一連の桐野夏生作品も、このウソを冷徹にかつ徹底的に暴いた
とてつもなく完成度の高い作品だと思うけど、それにしても現実は苦すぎる。
砂を噛むような先の見えない「終わりなき日常」のつらさをごまかすために、
「努力すれば、きっとうまくいく」ことを支えに生きてる人たちに向かって、
「そんなのウソだよ」とツバをはくことに意義はあるのか。
でも、そんなことを考えながらも、
『ウシジマくん』に描かれる、キレイごとじゃない、苦すぎる現実が面白すぎて夢中で読んでしまう。

これまであまりに苦すぎた反省なのか、あるいは作者が歳を重ねて少しだけ丸くなったのか、
最近の『ウシジマくん』には少しだけ光が射してきたようだ。
「前の方が面白かったよ」派のほうが多そうな気はするけど、
ぼくはこっちのほうが読んでて気持ちいい。
いずれにしても、『ウシジマくん』は大傑作だとおもう。

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