ギャロ、RZAとテリー・リチャードソンのこと | A View of dogbutt

ギャロ、RZAとテリー・リチャードソンのこと

LVMHグループのブランド、ベルヴェデール・ウォッカのTVCMがおもしろい。
いや、CM自体は別におもしろくもなんともないんだが、狙いが。

カリスマフォトグラファー、テリー・リチャードソンが監督し、
出演もヴィンセント・ギャロ、RZAという、カルチャー好きならばたぶん気に止めてしまう、
言うまでもなくニッチ狙いの特盛りメンツ、
でも多くの人は一人もおそらく名前が分からない、特殊豪華メンツ揃えてみました、
というのがアウトライン。それだけ。



さすがテリーというべきなのか、お得意のNYダウンタウンフレイバーが存分に発揮されるんだけど、
でもやっぱり「なんでテリー?」という唐突感は残る。

種を明かすと
「ターゲットが絞れていればいるほど、そのメッセージは刺さるべき人に深く刺さる」
というのがこのキャンペーンの教えだ。
「みんなに好かれよう」と思ってつくられた表現は、
凡庸で既視感の強い、ようするに誰にも意識されない当たり障りないノイズとして、
いつの間にか天寿を全うしていくわけだ。奇跡でも起きない限り。
トヨタ車のCMとか、覚えてないでしょ?

このベルヴェデール・ウォッカのキャンペーンは、その対極にある。
多くの人にとっては興味がない、どころか知りもしないキャストを使って、
でもブランドが意図したニッチのターゲットに対しては
「ぼくには君たちの気持ちがわかるよ。だからぼくのことも仲間だと思ってほしい」
と語りかけるわけだ。
カルチャーセレブの持つ「クリエイティブ感」をブランドに吸い込んで、
その代価として出演者はそれなりのフィーと、「メインストリーム感」を受け取るわけだ。

このキャンペーンを目にした、意図されたターゲットの多くは
「こんなキャスト使ってるんだ、おもしろそうなブランドだね」と思うだろうし、
サブカル業界には多い、アンチ志向&インディペンデント志向の強いターゲットならば
「大企業に自分の庭が荒らされた」と不快に思うかもしれない。
そして大多数の一般人は、いったい何が起きているのかもわからない。

ユニクロのTシャツブランド<UT>もテリー・リチャードソンを起用したけれど、これも狙いは同じ。
佐藤可士和じゃあターゲットには支持されないだろう、という見込みのもと
テリーの持つ「クリエイティブ感」を取り込もうとしたわけだ。

ようは、マスにアピールする従来のタイプの広告が機能しにくくなっているから、
母数=リーチを増やし低い打率で稼ぐよりも、リーチは少なくても高い打率を出すほうが
経済合理性に適う(こともある)、という状況になりつつあるわけだ。
その時代背景には、「みんなで紅白を見る」ことに象徴されるような
いわゆるマスカルチャーの衰退があり、
おそらくマスカルチャーの衰退というこの趨勢は、もう覆ることはないだろうと思う。

吉永小百合とか渡辺謙といった大御所を擁し、
ブランドにメジャー感を付与する、という種類のコミュニケーションは
まだまだ必要だし、これからも残り続けるだろうけど、
今後確実に減っていくと思う。

ベルヴェデールのUS版サイトはキャンペーンと連動し、グラマシーパークホテルっぽいタッチで作られていて、
なかなかのデキ。
GalloとRZAのCMソングも太っ腹に配布してるし!

US以外のサイトはトラディショナルなゴージャス路線のコミュニケーションが残ってて、
USとそれ以外の違いもおもしろいよ。