東京は夏日の予報だけれど、

意外に風が爽やかで気持ちがいい。

 

 

こんな日は一年のうちに何日もない。

せっかくだからテラスのあるカフェに行って

読みそびれていた本でも読もうか。

 

 

と、思った直後、待てよ、と思う。

着替えて化粧してどこのカフェに行くか考えて

たぶん電車にも乗って街に出て……。

やめた。めんどうくさい。

 

 

外でお茶を飲みながら本を読むなら、

そうだ、ちょうどいい場所があるじゃない。

ひらめいたのは、窓の外のベランダ。

人ひとり座るにはちょうどいい日陰ができている。

 

 

家には使っていないアウトドア用の椅子が2脚ある。

犬を連れて芝生の広場に行くときに、と思って買ったのだが、

その広場には立派なベンチが設置され

椅子は不要になってしまったのだった。

 

 

 

 

ようやくこの椅子も日の目を見るときが来た。

テーブルには園芸道具を入れている四角い箱がちょうどよかった。

ランチョンマットを乗せる。

いただきものの美味しい紅茶でアイスティーを入れる。

座ってみる。おお、思ったより上出来。

 

 

ページを開いたのは

山本文緒『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』新潮社

 

 

2021年10月に58歳の若さで逝去された、

山本文緒さんの最後の日記。

同年5月から亡くなる10日ほど前まで、

ほぼ毎日、たぶん毎日書かれている。

 

 

一気に読もうと思えば読めてしまう。

それほど読みやすい文章。

けれどあえて、休み休みゆっくり読むことを心がけた。

だからまだ全部は読めていない。

 

 

読んだのは半分程度。

それでもすごく影響を受けているのがわかる。

ときどきドキリとする文章に揺さぶられる。

そして、もし自分が山本さんと同じ立場になったら、

と、何度も何度も考えずにはいられない。

 

たとえばこんな一文。

 

 

うまく死ねますように。

 

 

重病になっても、さまざまな相談先があると知って書かれた言葉だ。

そのあとに実際に相談先を訪れたときの言葉もすごい。

 

 

よかった。本当によかった。

私はクリニックの方々に助けてもらうだけではなくて、

私の経験が、彼らや彼らがこれから出会う患者さんの役に

少しでも立ちますようにと思った。

私、うまく死ねそうです。

 

 

ほかにもたくさん、心を打つ言葉が出てくる。

私が最も泣いてしまったシーンもあるが、

あえてここには書かないことにする。

読んだ方によって、受け取り方も感じ方も違うと思うから。

 

 

代わりに本好きの方なら

きっと共感するであろう言葉を抜粋します。

 

 

もうすぐ死ぬとわかっていても、

読みかけの本の続きが気になって読んだ。

金原ひとみさんの『アンソーシャル ディスタンス』。

死ぬことを忘れるほど面白い。

 

 

また、別の日にはこんなことも。

 

 

私の枕元には未読本が積んであるコーナーがあって

毎晩その中からその日の気分に合わせて本を選んでいる。

未来はなくとも本も漫画も面白い。とても不思議だ。

 

 

わかる。

本好きならたぶんみんなわかる感覚。

 

もし私が山本さんと同じ立場になったとしたら。

なったとしても、私もきっと

好きな本を読むだろう。

そして、死ぬと分かっていても、

読みかけの本の続きが気になるだろう。

 

 

人は必ず死ぬ。だから嫌なことにばかりに時間をとられたくはない。

そんなことみんなわかっている。

けれど日々の生活は、やりたいことだけをやらせてはくれない。

やらなきゃいけないことに追いかけられて、

本当は何がしたかったのか、見失ってしまうこともある。

だからこそ。

限られた時間なら、好きなことに多くの時間を使いたい。

やりたくないことより、やりたいことを。

嫌なことより、楽しいことを。

苦手な人より、好きな人と。

 

自分はいったい何を優先したいのか。

生きている限り、いつもそれを思い出したい。

 

 

※文中、緑色の文字すべて

山本文緒『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』新潮社より引用

 

 

<おまけ>

こちらも激しくおすすめ。続きが気になって仕方なかった物語。

山本文緒『自転しながら公転する』新潮社

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