ゆみちゃんは、ゆみこちゃん。初めて好きと言ってくれた女の子。でも、多分、ゆみちゃんは恋に恋していただけだろう。五年生の冬に転校してきた僕に、同じ小学校ということのほかに何の接点もないひとつ年下のゆみちゃんが告白してくれた。おとなしく真面目な小柄でかわいらしい女の子だった。うれしくて、付き合うことになった。でも、デートの記憶がない。文通とプレゼントのやり取りだけだったような気がする。女の子とまともに話すこともできない僕が書く手紙はきっと、しょうもない照れ隠し満載の赤っ恥ものだったはずだ。中学校も一年遅れて一緒だったから、二年くらい続いたのだろうか。いつの間にか自然消滅したような気がする。高校も別々になった。僕が20代後半で結婚準備をしていた頃、立ち寄った貸し衣装屋のスケジュールに、ゆみちゃんの名前を見つけた。幸せになるんだなと、素直にうれしくなった。あとから思い出した(忘れていた)ことだが、転校してきたクラスで気になる女の子がいた。おとなしいが朗らかな、ともみちゃん。六年で広島へ行った修学旅行の写真の笑顔を今でも覚えている。でも、なにもなかった。四つ目の小学校は、さすがに人間関係がある程度出来上がったところに入っていくわけで、隅っこでおとなしくしていた。それでも、クラスの男子はガキ大将二人の派閥に二分され、なかっつ組とパンサー組のどちらに入るのか選択を迫られた。僕は、なかっつ組の組員になった。別にお互い仲が悪いわけでもなく、一緒に遊ぶこともあったと思う。普段行動するのに、それくらいの人数が適当だったようだ。何をして遊んだのか、覚えていない。あまり遊ばなかったのかもしれない。スポーツ少年団で野球をすればよかったのかもしれないが、小学校もあと一年ちょっと。もういいやと思ったのだろう。ひとりの時は、やはり虫とりをしていた。虫とりは中学生になってもしていた気がする。そろそろ、地味な生き方が確立されてきた。