電車男よりも、もっと頑張れ日本のお父さん! -『fly,daddy,fly』金城 一紀
電車男よりも、もっと頑張れ日本のお父さん!
団塊の世代ってかわいそうな世代である。戦後のベビーブームに生まれた彼らは
モノのない時代に ハングリーに育ち、学生時代は学生運動の渦に巻き込まれ、かと
思えば会社に入社しバブルに踊ら され、そのバブルが崩壊した直後は日本初の大
リストラのメインターゲットになってしまう。
しかも、定年後に引退した彼らが平穏である約束はない。なにしろ彼らは「日本初
の高齢化」を 養われる側から経験するからである。私はふと、「団塊の世代が年金
受給開始前に全員死ねば、 日本の目下の問題は解決する」と思ったことがあるが、
日本の高度成長を支えた世代への仕打ち としては、あんまりである。
現代の日本では「オヤジ」という言葉は肉親、友人に使うのではない限り、総じてネ
ガティブな 意味を含んでいる。オヤジの権威が失墜したのはいつからなのか、これは
良く分からないけれど も、時代によっては無条件で尊敬され得た年齢になったのにも
関らず、アンラッキーな団塊の世 代はダサい呼ばわりされる羽目になったわけだ。
「こんなことが人生に起こるとは思わなかったろ?せいぜい自分の半径1メートルの
ことだけ考えて 死んでいけたら幸せだったのにな。」 ―――朴 舜臣
さて、今日はそんな団塊の世代への応援書として、この「fly daddy fly」を推薦したい。
タイトルを直訳すれば、「飛べ!とうちゃん、飛べ!」ダサい呼ばわりされている日本の
オヤジさん達、あなたは飛べるんですよ!
舞台は日本。主人公は47歳のサラリーマン、鈴木一。平凡に暮らしていた彼の箱入り
娘が ある日突然強姦魔に襲われてしまう。相手の顔も名前も分かっている。なのに警察
も、学校 も、病院も協力してはくれない。なぜなら、犯人はとある高校のスタースポーツ
選手だったか らだ。
ジリジリと焼け付くような日々を送っていた彼は、とある行動がきっかけで、これまたと
ある落ちこぼれ連中と知り合い、最終的には「犯人」とバーリートゥードで対戦することに
なる のであった。
恐らく、上述のあらすじを読んで「この作者、頭おかしいんじゃないか?」と思った方も
いる だろう。こんなムチャクチャなプロット成立するか、と。そう、確かにこの本のストーリ
ーは距離を置いて見ると不可能だが、入りこんで見ると見事に成立する。
自分が父親としてカッコイイって思えた瞬間て、あるか?
―――鈴木 一
その「入り込む」のを助けてくれるのが、魅力的なキャラクターであろう。
まずは主人公の 鈴木 一。はっきり言って、本書冒頭の彼は間違いなくダサイオヤジである。
が、決意を固め 修行を重ねることによって、彼は少しずつ成長(若年退行かな)してゆく。
そのもどかしさとい うかなんというか。思わず「頑張れよ!」って言いたくなってしまう。
因みに重要なキャラクターである朴 舜臣は在日という設定である。仲間に優しく、そして
強い彼の、「俺が殺せるかよ、日本人」というつぶやきはなんともいえない魅力を持っている。
他にもチワワに襲われる山下。マニーとペニスが武器だと公言するアギー等々、底なしに 陽
気ながら、どこか独特の影を持つキャラクターを描くことにおいて、著者は突出している。
皆さんは、「俺はやれば出来る」とかつて思った分野がいくつあるだろう?多分、この本を
読んだあとはちょっぴりそういう事を思い出すと思う。この本は、「やればできる」と思ったま
ま腐った人間が、一念過去へのリベンジを果たす物語だからだ。ファンタジーをファンタジー
と思えないのなら、次はあなたの番になる。
滑走路は、いつでも空いてますよ。