小説家予備軍への模範解答その1『ラブアンドポップ』 村上龍
小説家予備軍への模範解答その1
【設問1】渋谷の雑踏を、描写しなさい。
こんな問題が出題されたとして、いったいどう答えれば
いいだろう?人称は?設定は?ていうか読者は?文章が
上手な人はちょっと書いてみるのも良いかもしれない。
「人ごみでいっぱい」を表すのに、そのまま書いてしまう
のはちょっとマズイ。自分の日記ならばまだしも文章を書
けというテストでいい点はもらえそうも無い。例えば人とぶ
つかって、「何だよ」って思ったところに人がまたぶつかっ
てくるシーンはどうだろう?
この問題にモチロン正解なんてない。が、プロの作家の
文章は少なからず正解に近いはずだ。さて、それではこの
問題を村上龍がどう解いたのか見てみよう。
えーと、リストは出ておりませんでしょうか、はい、はい、どうもすみません、はい、はい、はい、はい、そういうことで間違いありません、はい、はい、はい。
何?どこ行く?
ロフト、西武だね。
西武だね、西武の地下行こうか。
西武の地下。
映画を見る?
じゃ、そうしよう。
そうか、付き合ってたのか。
―――本文より
どうだろう?読んでの通り、渋谷の街にいたら聞こえて
きそうな会話の羅列だ。その間に、ト書きや登場人物の
会話は一切無い。カメラで機械的に音を拾っただけのよ
うなこの手法、あなたもわたしも彼らも関与しない、言
うなれば0人称である。
本書『ラブアンドポップ』ではこの0人称が状況描写
の為に多用される。例えばファーストフード店、例えば
雑誌の内容。どう考えたって機能しそうに無いのだが、
現代カルチャーを表すのにぴったりとはまっている。
情報の洪水。ノイズの洪水。言葉で表すと陳腐だが、
そのものを全部書いてしまうことで場面がイメージにな
り脳裏に鮮明に浮かんでくる。せわしなさやまぶしさや
忙しさを見事に表現しきっているのだ。吉本ばななをし
て「龍さん、ずるい」と言わしめたゆえんであろう。
「だって、みんなでカラオケとかしてもらったお金だから
みんなで分けたほうがいいよ。」
―――吉井裕美
この本が好きな理由はもうひとつある。それは、援助
交際をテーマに選んでおきながら、説教色が全く無い
ということだ。書く人が書けば、精神論や、宗教論を持
ち出して、貞操を説きそうなものだが、本書にそれはな
い。ありていな説教など、不要だと村上氏は分かってい
る。
善悪を別にして、「援助交際っていったい何?それを
してるのはどんな女の子達?」という目的が貫徹される
この本は、取材もきっちり行われているのが分かる。
物事の良い悪いにこだわると、その時点で思考は停止
する。それを許さずにただただ当初の志を忘れず、安易
に当事者を見下すことなく現場に飛び込み空気を吸う。
これをやったからこそ本書に価値があると思うし、著者
からの忠告ともいえるエピソードが俄然説得力を持つの
である。
【設問1】渋谷の雑踏を、描写しなさい。
こんな問題が出題されたとして、いったいどう答えれば
いいだろう?人称は?設定は?ていうか読者は?文章が
上手な人はちょっと書いてみるのも良いかもしれない。
「人ごみでいっぱい」を表すのに、そのまま書いてしまう
のはちょっとマズイ。自分の日記ならばまだしも文章を書
けというテストでいい点はもらえそうも無い。例えば人とぶ
つかって、「何だよ」って思ったところに人がまたぶつかっ
てくるシーンはどうだろう?
この問題にモチロン正解なんてない。が、プロの作家の
文章は少なからず正解に近いはずだ。さて、それではこの
問題を村上龍がどう解いたのか見てみよう。
えーと、リストは出ておりませんでしょうか、はい、はい、どうもすみません、はい、はい、はい、はい、そういうことで間違いありません、はい、はい、はい。
何?どこ行く?
ロフト、西武だね。
西武だね、西武の地下行こうか。
西武の地下。
映画を見る?
じゃ、そうしよう。
そうか、付き合ってたのか。
―――本文より
どうだろう?読んでの通り、渋谷の街にいたら聞こえて
きそうな会話の羅列だ。その間に、ト書きや登場人物の
会話は一切無い。カメラで機械的に音を拾っただけのよ
うなこの手法、あなたもわたしも彼らも関与しない、言
うなれば0人称である。
本書『ラブアンドポップ』ではこの0人称が状況描写
の為に多用される。例えばファーストフード店、例えば
雑誌の内容。どう考えたって機能しそうに無いのだが、
現代カルチャーを表すのにぴったりとはまっている。
情報の洪水。ノイズの洪水。言葉で表すと陳腐だが、
そのものを全部書いてしまうことで場面がイメージにな
り脳裏に鮮明に浮かんでくる。せわしなさやまぶしさや
忙しさを見事に表現しきっているのだ。吉本ばななをし
て「龍さん、ずるい」と言わしめたゆえんであろう。
「だって、みんなでカラオケとかしてもらったお金だから
みんなで分けたほうがいいよ。」
―――吉井裕美
この本が好きな理由はもうひとつある。それは、援助
交際をテーマに選んでおきながら、説教色が全く無い
ということだ。書く人が書けば、精神論や、宗教論を持
ち出して、貞操を説きそうなものだが、本書にそれはな
い。ありていな説教など、不要だと村上氏は分かってい
る。
善悪を別にして、「援助交際っていったい何?それを
してるのはどんな女の子達?」という目的が貫徹される
この本は、取材もきっちり行われているのが分かる。
物事の良い悪いにこだわると、その時点で思考は停止
する。それを許さずにただただ当初の志を忘れず、安易
に当事者を見下すことなく現場に飛び込み空気を吸う。
これをやったからこそ本書に価値があると思うし、著者
からの忠告ともいえるエピソードが俄然説得力を持つの
である。