記憶はあなたを裏切る-『目撃証言』エリザベス ロフタス(共著) | 「非現屋」

記憶はあなたを裏切る-『目撃証言』エリザベス ロフタス(共著)


記憶はあなたを裏切る
 刑事1「ヤマさん。ホシを現場で目撃した人を見つけました!」
 刑事2「本当か?よーし。やつをすぐに逮捕しろ。」

 以上のやりとりに違和感を覚える人はいるだろうか?私は
覚える。その理由を述べる前に、ちょっと記憶について話そう。
人の記憶は変化する。しかも、ちょっとしたことで。ワシントン
大学で教授を務める認知心理学者エリザベスロフタスは、人の
記憶が変容することを実験で証明した。

 簡単に説明すると、参加者は事故のフィルムを見て、後に
それに関して紙による質問を受ける。質問のひとつに「車が
停止 の看板を通り過ぎた時、どれくらいの速度で走ってい
ましたか?」というのがある。その後には「あなたは停止の看
板を見ましたか?」という質問が控えている。

 さて、参加者のなかには見た人と、見ない人がいるわけだが、
重要な事実がある。それはフィルムに「徐行」の看板は存在す
るが、「停止」の看板は存在しないということだ!

 ある人は、似ている看板を混同してしまったかもしれない。
また、ある人は実験者の質問を鵜呑みにして、あるはずだと考え
たのかもしれない。ただ、どちらにしろ似ているだけのものを
「そのものだ」と言っているのには代わりが無い。さて、そこで
私が冒頭に覚えた違和感が分かるだろうか?

 その人は、本当に「容疑者本人」を目撃したのか?

「彼は強姦犯じゃない。被害者が時間を巻き戻したんだ。」
 ―――弁護士 ヒラー(第3章「暗黒の司法」より)
 実は、上述の実験は「事後情報効果」と呼ばれる現象に関し
ての実験で、認知心理学の世界では有名な実験だ。これを行
って、大論争を巻き起こしたのが本書の著者、エリザベスロ
フタスである。

 その大論争を逐一説明すると、一冊本が書けてしまうので
やらない。ただし、記憶が何らかの影響を受けると分かった
後で、こう想像して欲しい。それでは、実験室の外ででコレ
が起こってしまったらどんな影響があるのか?

 その「どんな影響」を記憶の第一人者として、また、法廷に
立ち証言をし続けた専門家として記したのが本書だ。目撃証言
だけで裁かれてしまう「冤罪者」達。心理学的にみて記憶にのみ
に証拠を求める裁判がどれほど危ういか警告する。


「あなたは彼が裁判にかけられる前から、有罪であることを決めてしまっているわ。」
 ―――ロフタス(第9章「イワン雷帝」より)
 記憶の専門家として法廷に立つ上で、もっともつらいのは
形上は犯罪者の肩を持つように見えてしまうところだろう。
実際に、本書の9章ではユダヤ人でもある彼女が、ナチス体
制下で悪名高かった「イワン雷帝」とおぼしき男の裁判に関
わる。

 友人知人が彼女を非難し、目撃者たちは感情的になった
挙句、偏った情報のバイアスにさらされ証言を変化させて
ゆく。ユダヤ人と専門家。2つの立場でゆれる著者は、
しかし冷静に仕事をしてゆく。

 心理学が科学ではないと言う皆さん、心理学はセラピー
やカウンセリングだけをさす言葉ではありません。