介護を語る、狂人伝道師-『介護入門』モブノリオ | 「非現屋」

介護を語る、狂人伝道師-『介護入門』モブノリオ


「断じて言おう。決して、スカしたライターがシャレたつもりで書く
ルポタージュの世界ではない。「真夜中の動物園」とかさ。よっ、シャレてるぅ。」

 ―――石丸元章(石丸元章『スピード』より)

 テレビでいわゆる“評論家”と呼ばれる人達が、例えば
ヤマンバギャルを評しているのを想像してほしい。彼は最
新の学説と、分かりやすい具体例を交えながら、したり顔
で、断定口調で話す。はっきり言って、腹立たしい。それ
でいてちょっと滑稽な感じがするのは何故だろう?

 答えは簡単。彼は若者ではないからだ。語弊があるなら
言い直そう。彼はヤマンバギャルと直接、プライベートで
話したこともないだろうし、彼女らの遊び場でハメをはず
しまくった事もないはずだ。つまり、ブラウン管越しや、人
づてに情報を得ているだけで、実際は彼女らが生きている
場所に対して、全くの無知だ。

 彼からにじみ出るのは、そういった類の滑稽さなのだ。
「多分こんな感じじゃないかなぁ?」という必死な推測。
そこから導き出される見当違いの結論は、知らない人間
だけを頷かせる。同様の過ちをしばしば大衆ジャーナリズム
は犯すし、その度に現場に生きる人間をイラつかせてきた。


「同情するだけでウンコがかたづくんなら、私みんなの50倍くらい同情しちゃうわよ。」
 ―――みどり(村上春樹『ノルウェイの森』より)

 今日紹介する『介護入門』はそうしたイラつきを、狂人
(失礼。ヤク中って言うべきかな?)の独白という異常な
フィルターで濃縮し、ぶちまけた傑作だ。テーマは介護。
善良な 親戚や週刊誌の常識を向こうに回し、介護の
現場とはなにか?そこを生き抜く術は何かを彼は語る。

 なにせ独白してくる相手が相手だから、最初の3ページ
くらいは読むのがちょっとつらいかも知れない。そういっ
た向きは、石丸元章の『スピード』を先に読むことをオス
スメする。ハシシどころか覚せい剤でぶっ飛んだ人間の文
章を読めば、免疫がつくはずだ。

 ただし、その口調を除けば彼の言うことは、誰もがそう
思った事はあるけど、世間体で決して口にはできない、ある
意味で真っ当なことばかりだ。例えば虐待を受けて育った
子供には「親に復讐し、お前の子供は犠牲にするな」とアド
バイスする。

 また、介助ヘルパーには疑いもせず感謝してしまいがち
だが、狂人たる彼は「プロに徹しないで仕事半分なヤツだ
っている。まずはヤツラを監視しろ」と警鐘を鳴らす。


<<盲信>>じゃないぜ、<<狂信>>だ
 ―――本文より

 “今日”の話からいろいろなエピソードを交えつつ徐々
に過去にさかのぼるこのストーリーは、決してお涙頂戴の
話ではない。涙や同情ではなく、疲労と執念で著者が獲得
した介護に必要なこころ構えの指南書だ。

 それでも、おばぁちゃんに赤ちゃん言葉で話しかけ、彼女
が泣いたことをいみじくも自慢する親族を尻目に、どう笑わ
せるかに苦心し、寝る間も惜しんで尽くすが時には叱るこ
とも必要だと説く「俺」には胸が熱くさせられる。きっと
「俺」は嫌がるだろうが、その姿が感動的なのは間違いな
いのだ。

 同情を捨て、覚悟を持て。介護に必要なのは執念と体力。
親族の血筋ではなく、本当に相手を思いやる愛だ。「俺」
の言葉を聴いて、リアルな介護現場が分かるだろう。

 さてと、もうテレビは消そうか?