地下から噴出した黒い霧の正体 -「アンダーグラウンド」 村上春樹 | 「非現屋」

地下から噴出した黒い霧の正体 -「アンダーグラウンド」 村上春樹

地下から噴出した黒い霧の正体

 村上龍氏の著作活動には賛否両論ある。批判されるのは
主に社会、経済関係の本かな。実際、「作家の値うち」という
本では見事に酷評されていた。「小説家たるものが何やっ
てんだ」と。意見は人それぞれだけど、小説を必要以上に
神聖視するのは好きじゃないな。

 ここまでで分かるとおり、僕は龍氏の最近の活動が好きだ。
「最近の活動」がなんのことやら分からない人はコチラを参照。
少なからず共感できると思う。リンク先でも触れられている
けど、新聞は最も不親切なメディアだからだ。

 「ナルホド、ひどいもんだ」と言ってはみるものの、結局
のトコロ何がどうなっているか良く分からない。バブルの時
もそう。住専の時もそう。ひどいのは分かった。悪いヤツが
いそうなのも分かった。でも、結局、根本的なことを新聞は
伝えてくれない。

「そもそも何が原因で、何が実際に起こり、そして、何がなされるべきか?」

1995年3月20日の朝に、東京の地下で
本当に何が起こったのか?

 ―――筆者あとがきより

 日本を代表するもう一人の村上、村上春樹氏に1995年
去来したのもこの想いだろう。日本を襲った最悪のテロ、地下
鉄サリン事件。メディアは狂ったように最新情報を報道し、犠
牲者の数と、テロリスト=悪をけたたましく叫ぶ。

 そして、彼は決意する。何が悪い、どれくらいひどいではなく、
地下鉄テロとは結局なんだったか?コレを追求しよう。著者初と
なるノンフィクション、700ページ超の本書が誕生に向けて動
き出した瞬間だった。

 本書の大部分を構成するのは地下鉄テロの被害者の証言だ。
彼らの名前、人となりが紹介された後、事件に関するインタビ
ュー。それが淡々と並べられている。作者の主観や、感情は一切
そこに存在しない。

あの人は確かサリンで濡れた上を歩いてきたと思いますね。
 ―――管崎広重氏

 被害者達に過大な同情なんて示さず、加害者たちに無用な怒り
を振りまわさない。事実を知るのにこれほど有効な手法もない。
おかげで、このテロを知り、考える貴重な機会が得られる。

 読後、僕を襲ったのは恐怖感だった。単純に何が悪い、ひ
どいという「答え」をこの本は提示してなんてくれない。だか
ら考え続けないといけないのだ。何故こんなことが?目的は?
考えるうちに思考は深い溝にはまってゆき、結局、恐怖だけが
頭の中に残った。

 その日のうちに消えてゆくような情報はキャッチアップの為に
存在する。一方、こういう類の情報は振り返る為に重要だ。