ヌイグルマー

 

 

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

 

「さやかあ、だいじょ〜〜ぶ」

 

 

「…はあ」

 

 

「ごめんね、掛橋さん?矢久保、すごいペースで飲むからさあ」

 

 

「い〜や、慣れてることだから、どうも連絡ありがとう」

 

 

「どういたしまして。あっ、お金は…」

 

 

 

 

私は5000円札をその人に渡して、潰れかけの人を担いで店を出た。

 

 

大学の合コンなんてくだらない。

 

 

その席に男がいるのはもっとくだらない。

 

 

無慈悲に、無自覚に、無差別に、矢久保は愛を振りまく。

 

 

その愛に勘違いする奴だっている。

 

 

そう何度も伝えていた。

 

 

 

 

「ポチッとな」

 

 

 

 

そう言って私はオートロック式の鍵を開錠し、玄関ドアを開いた。

 

 

 

 

「ポチッとな、とか笑っちゃうねえ〜〜」

 

 

「うるさいな、酔っ払い」

 

 

「ひどーい」

 

 

 

 

茶番もそこそこに、私は水を飲ませた。

 

 

ゆっくりと矢久保は水を飲んだ。

 

 

私はコクコクと動く、その喉元をじっと見つめていた。

 

 

若干赤みがさした細くて白い首。

 

 

 

 

「ありがと、落ち着いた」

 

 

「いい人はいた?」

 

 

「いないなあ」

 

 

「へー」

 

 

「正直、沙弥香を超える人なんていないと思うよ」

 

 

「なんで?」

 

 

「だって、一番精神的に不完全な中高時代を一緒に過ごしてきたから」

 

 

「不完全」

 

 

「うん、心の未熟さが徐々に洗練されて、成熟に近づく姿を沙弥香は見てきた」

 

 

「つまり誰よりも沙弥香はわたしのことを知ってるんだ」

 

 

 

 

そう言いながら矢久保はソファーにダイブした。

 

 

スローモーションのように、柔らかな髪がヒラリと広がる。

 

 

そして天井を見上げ、側にあったぬいぐるみを抱きしめながら言った。

 

 

 

 

「だから、早く抱いて欲しい」

 

 

 

 

わがままなお姫様を抱き上げ、寝室にまで運ぶために、私の腕は存在する。