院内感染をめぐり、医療機関の法的責任が問題となるケースにおいて、近時は、医療機関の法的責任が厳しく問われる傾向にあります。

 裁判になるケースとしては、大学附属病院をはじめとする高度医療機関での事案がその大半を占めていますが、それ以外の医療機関の方々も、自らの医療機関においても起こりうる問題として、他人事とは考えずに問題意識を持っておいていただきたいと思います。

 ここ20年くらい前までは、院内感染をめぐり医療機関の法的責任が問われた裁判においては、感染経路が不明であるということで、医療機関の法的責任が容易に認められることはありませんでした。

 そのような裁判においては、患者さんの側で、自らの負った損害が院内感染によるものであったという感染経路を立証をする必要があり、その立証の困難さも一因であったと考えられます。
 しかし、院内感染のメカニズムの解明などが進んだことによって、次第に感染経路が特定されることが増え、それに伴って、医療機関の法的責任が認められることも増えてきました。

 ただし、医療機関の院内感染防止対策の不十分さを過失として医療機関の法的責任を認めた裁判例はさほど多くはありません。

 医療機関の法的責任が認められたケースとしては、担当医師の感染症防止措置が不十分であり、これを過失としたものや、担当医師の感染症発症後の治療が不十分であり、これを過失としたものがほとんどです。

 以下で、詳しく見ていきたいと思います。

 

 執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)