溶連菌感染症は、子供から大人まで幅広い年齢層に見られる感染症であり、その治療と予防は非常に重要です。
この記事では、溶連菌の基本的な情報から、感染時の症状、診断方法、治療法、さらには合併症について詳しく解説しています。
ぜひ、お子さんやご家族の健康管理に役立ててください。
溶連菌とは何ですか?
「溶連菌(ようれんきん)」は正式には「A群β溶血連鎖球菌」という医学名です。これを略して「溶連菌」と呼びます。
実は、医学的には他にも溶連菌は沢山いますが、ここでは省略します。
溶連菌と喉の風邪について
溶連菌は喉に寄生するため、感染してしまうと喉の痛みや発熱が生じます。
急性咽頭炎とは、いわゆる「喉の風邪」のことをいいますが、溶連菌は「喉の風邪」の15%〜30%程度と考えられています。
溶連菌以外の「喉の風邪」は、ウイルス感染が多く、ライノウイルス(20%)、コロナウイルス(5%)、単純ヘルペスウイルス(4%)、パラインフルエンザウイルス(2%)、インフルエンザウイルス(2%)、EBウイルス(頻度不明)が代表的です。
喉に溶連菌が感染した場合の症状
溶連菌は3歳以上に感染しやすいです。基本的に3歳以上に感染し、学童での流行が多いです。冬〜春にかけて流行しやすいですが、どの季節でも溶連菌は一定数います。
特に、家族やクラスメートの間で広がるケースが多いです。
これは、溶連菌が唾液などを介して感染が拡大する「飛沫感染」のためです。
典型的な症状について
喉に溶連菌が感染し、咽頭炎の症状が出るまでの期間(潜伏期間)は1日〜5日です。
急激な発症が多く、以下の症状を伴います:
- 38℃以上の発熱
- 首のリンパ節を押すと痛い
- 咳・鼻水がない
- 扁桃腺が腫れ、軟口蓋や咽頭に小さな赤い斑点(点状出血)がある
3歳未満でも溶連菌に感染します
「溶連菌は3歳未満には感染しない」と根拠なしに乱暴な議論をする医師もいますが、3歳未満でも感染します。
3歳未満に感染した場合、症状は非典型的で見分けが難しいですが、鼻水・鼻閉・微熱・首のリンパ節の腫れがヒントになります。
さらに1歳未満の乳児が感染すると、機嫌不良・食欲低下・微熱などを起こすことがあります。
特に、家族内で溶連菌の子供がいる場合は注意が必要です。
溶連菌の診断方法について
溶連菌感染の診断方法は複数あり、迅速検査、培養検査、血液の抗体を測定する方法があります。
3歳以上で典型的な溶連菌の症状がある場合や、3歳未満でも家族内で溶連菌の発症がある場合は、検査をしても良いと考えています。
逆に、咳、鼻水、声が枯れる、口に小さな潰瘍がある、下痢があるなどはウイルス感染を示唆するため、検査の必要性は乏しくなります。
溶連菌の迅速検査
これは、クリニックでも行える簡便な検査です。咽頭スワブで喉をこすり、専用の薬液につけて反応を見ます。
検査の特異度は95-99%と高いのが利点ですが、感度は60%〜90%とばらつきがあります。
特に、検査前に抗生剤が使用されていると、検査の正確性はかなり落ちます。
また「保菌」しているだけなのか、咽頭炎の原因であるのかの区別も、この検査だけでは分かりません。
培養検査
迅速検査より、培養検査のほうが精度は高く、最も信頼できる検査です。
ですが、検査結果には数日ほど時間がかかるため、外来で使用することは少ないです。
抗体検査
検査結果の判明には最低でも数日以上の時間がかかります。採血が必要なため、痛みを伴うのも大きな欠点です。
溶連菌感染の治療法
実は、溶連菌は無治療でも数日くらいで自然軽快することが多いです。
それでも抗生剤を使って治療するのは、発熱・咽頭痛などの不快な症状の期間が短くなる、急性リウマチ熱の合併を予防できる、周りの家族・友人へ感染するリスクを減らせる、という3点のメリットがあるからです。
残念ながら、抗生剤を飲んでも、溶連菌感染症後の腎炎やPANDASという合併症は予防することができません。
使用される抗生剤について
抗生剤を使った標準治療はペニシリン系(ワイドシリン、サワシリンなど)です。
ペニシリン系抗生剤の代替薬として、セフェム系(ケフレックスなど)があります。
マクロライド系(エリスロシン、クラリスなど)などもありますが、近年、マクロライド系の耐性化が進んできているので注意が必要です。
たまに、ST合剤(バクタ)、キノロン(オゼックス)、テトラサイクリン(ミノマイシン)が処方されているケースをみます。
しかし、溶連菌はペニシリン系かセフェム系の薬で十分に治療できる細菌であり、これらの広域抗生剤を使用する理由はほとんどありません。
これらの抗生剤を使用することで常在菌の耐性化を促してしまったり、その結果として除菌に失敗してしまうこともあるので、使用はオススメしていません。
治療期間について
ほとんどの抗生剤は10日間の内服が必要です。セフェム系の一部の薬は5日間でも大丈夫です。
溶連菌は耐性化しづらいのですが、第3世代セフェムは腸内や皮膚、鼻腔の常在菌が耐性化する恐れがあるため、あまり使用はオススメできません。
症状が良くなっても、抗生物質は最後まで飲みきって、しっかりと除菌しましょう。
登園・登校について
抗生剤による治療開始から24時間以上経過し、全身状態が良ければ(発熱がなければ)登校・登園が許可されます。
主治医の先生やクリニックの看護師さんともよく相談しましょう。
何で溶連菌を繰り返すのですか?
なかには、溶連菌感染を繰り返すお子さんがいます。
これを「反復感染」といいますが、原因として、抗生剤の服用が不十分だった、口の中の常在菌が抗生物質の効果を邪魔した、家族・友人間での交互感染(ピンポン感染)が挙げられます。
再発した場合も、基本的に同じ治療を行います。
治療後にも検査は必要ですか?
治療後に、迅速溶連菌検査を除菌の確認として施行したり、腎炎のチェックのために尿検査をしているクリニックもあるようです。
溶連菌は基本的に素直な菌で、治療すれば解熱するので、治療後に除菌できたか確認のため検査はしなくても良いでしょう。
「溶連菌感染後に腎炎を起こすことがあるため、3週間後に尿検査しましょう」と説明された方も多いと思います。
最近では、この尿検査も不要と考えられています。
理由として、腎炎の頻度はとても低く、1回の尿検査では早期発見につながらない、腎炎の症状は浮腫・体重増加・褐色尿など、検査する前に明らか、わずかな血尿を認めた場合、過剰な精査が必要となる、病院に頻回受診する手間、病院での感染のリスクなどから「尿検査はいらないのでは?」と考えられています。
私個人としても、患者さんに腎炎の症状をしっかり説明して、3週間後の尿検査は希望がない限り行わない方針でいます。
溶連菌感染症の合併症について
溶連菌には様々な合併症があります。
代表的なものは急性リウマチ熱、溶連菌感染後の糸球体腎炎、PANDAS(溶連菌に伴うチック・強迫神経症)です。これらは、溶連菌に感染してから数週間以降に起こることがあります。
溶連菌感染後の糸球体腎炎について
溶連菌にもいくつか血清型がありますが、腎炎を起こしやすい血清型は、2, 6, 12, 49, 55, 57, 60といわれています。
腎炎が起こりやすいのは、溶連菌に感染した後、2週間〜3週間です。
症状としては、おしっこの量が減る、おしっこが茶色、顔や手足が浮腫む、などです。
これらの症状がある場合は医療機関へ速やかに受診しましょう。
急性リウマチ熱について
溶連菌感染から2−3週間後に発症します。溶連菌の血清型として、1, 3, 5, 6, 14, 18, 19, 24がリウマチ熱の原因となります。
抗生剤で十分に治療した場合は、リウマチ熱を起こす確率は0.05%、と非常に低いです。
無治療だとリウマチ熱になることがあります。
溶連菌にかかっても無治療だったり、途中で抗生剤を終了した場合、0.4%〜3.0%の確率でリウマチ熱を発症します。
急性リウマチ熱が発症すると、心臓、関節、神経に炎症性変化がでたり、弁膜症の原因になります。
日本のような先進国ではリウマチ熱の頻度はとても低いです。
しかし、発展途上国では未だにリウマチ熱はありふれた疾患で、小児の心疾患の大きな原因ですので、とても注意が必要です。
急性リウマチ熱にならないよう、抗生剤は決められた期間、しっかりと飲みましょう。
PANDAS(チック・強迫症状)について
チックを中心として不随意運動や強迫性障害を来す、PANDASという疾患があります。PANDASは「Pediatric Autoimmune disorders associated with Streptococcal infection」の略語で、溶連菌に感染した後、脳に炎症が発症して、チックや不随意運動、強迫神経症を起こしてしまうことをいいます。
人食いバクテリアについて
人食いバクテリアは、劇症型A型溶連菌感染症、連鎖球菌性毒素性ショック症候群(STSS)と呼ばれています。
溶連菌の外毒素がスーパー抗原となり、Tリンパ球を刺激して炎症性サイトカインを引き起こすといわれています。
分かりやすく説明すると、溶連菌感染を起こした後、溶連菌の毒素に体が過剰に反応して、全身で炎症が激しく起こった状態をいいます。
咽頭痛・筋肉痛が先に起こり、急激に発症し、病気が進行します。
壊死性筋膜炎といって筋肉の膜に炎症を起こし、急激にあちこちの臓器が壊れる多臓器不全を起こし、最終的に死亡してしまうことがあります。
中高年に多く、小児では少ないといわれています。
しかし、母子感染により新生児で起こった報告例が散見されています。