みなさん、稀な疾患ですが傍腫瘍症候群って聞いたことありますか?
問
傍腫瘍症候群を簡単に説明してください。
答
癌患者で、免疫学的異常から腫瘍に対して自己抗体や細胞傷害性T細胞ができてしまう。
そして、これら異常な免疫が中枢神経、末梢神経、神経筋接合部に作用して、機能を阻害し様々な神経症状が出現します。
原因となる癌、神経症状、自己抗体には一定の関係があることが多いです。
癌では肺小細胞癌、乳癌、卵巣癌などです。
ちなみに自己抗体は血液や髄液中に見つかります。
癌が発見されるよりも先に、神経症状が出る場合が多いとされています。
神経症状が出てから、数ヶ月や1年位も経ってから癌が見つかることもあります。
一番よく知られているのが、ランバートイートン症候群です。
ランバートイートンと言えば、肺の小細胞癌ですね。
実際、肺の小細胞癌はランパートイートン筋無力症の原因の60%を占めます。
肺の小細胞癌で、神経筋接合部に対する自己抗体ができてしまいます。
詳しくは、電位依存性カルシウムチャネル VGCC に対する抗体です。
この抗体により、神経からの信号が神経筋接合部でうまく筋肉に届きません。
ここから嚥下障害や呼吸筋麻痺、外眼筋麻痺が出ます。
治療はどうでしょう?
もちろん原因となる腫瘍の治療です。
その他には、抗体を除去するための血漿交換療法、γ-グロブリン療法などがあります。
ランバートイートン以外の傍腫瘍症候群には、
辺縁系脳炎、脳脊髄炎、小脳変性症、感覚正運動失調型ニューロパチーがあります。
この中で覚えてほしいのが、傍腫瘍症候群による辺縁系脳炎です。
傍腫瘍性辺縁系脳炎と呼ばれます。
辺縁系とは脳の中で海馬などの部分を指します。
側頭葉の内側のあたりです。
ここがMRI T2強調画像やFLAIR ( 水の部分の信号を抑制して脳脊髄液と接する脳の表面を見やすくしたT2強調画像のこと ) で高信号を示します。
自己免疫的機序で炎症が起こり、水っぽくなっているのですね。
この傍腫瘍性辺縁系脳炎は、小細胞癌や卵巣奇形種に起こりやすいです。
症状としては、認知機能障害や、人格変化、精神症状がでます。
急にぼけたり、人が変わったり、意識レベルが低下します。
ではここで問題です。
問
外来フォロー中の小細胞癌の患者が、意識障害で搬送されてきました。鑑別診断はなにでしょうか?
答
脳転移
骨メタによる高カルシウム血症
SIADH
傍腫瘍症候群 もありえます。
一番頻度は少ないと思いますが・・・。
これら4つが鑑別に上がるでしょうか。
肺の小細胞癌では、抗Hu抗体などがみられます。
余裕があれば名前だけ覚えておきましょう。
卵巣奇形種では抗NMDA受容体抗体ができます。
NMDA受容体は脳神経にある受容体です。
若い女性が、急に精神症状やレベル低下をきたします。そして奇形種を摘出すれば改善します。
まとめ
傍腫瘍症候群はつかみ所のない疾患ですが、次のことだけ押さえておいてください。
まず原因となる腫瘍がある
→ 腫瘍細胞が抗原として認識されある ( ベースには免疫系の異常があるのでしょう )
→抗体が作られたり、細胞傷害性Tリンパ球が活性化
→ 神経が障害され神経症状がでる。
ランバートイートン症候群 → 肺小細胞癌 電位依存性カルシウムチャネル抗体
若い女性の傍腫瘍性辺縁系脳炎 → 卵巣奇形種 NMDA受容体抗体