伊藤貫さんの核武装についてのお話です。今から13年以上も前の西部邁氏とのテレビ対談(西部邁ゼミナール)ですが、伊藤貫氏の話に古いということはないので、お勉強のためにここに載せます。

なお、前回と同じ「japanloverのブログ」というブログの文字起こしから引用させてもらいました。

 

少し前に雑誌「クライテリオン」で、伊藤貫氏と藤井聡氏が核戦略理論について対談をしていました。

その最初の部分

核武装論は核戦略の基本理論を踏まえよ

伊藤「僕は西部さんに大変親切にしていただいたので、今 でも本気で感謝しています。でもあの本は失敗だったの。」

藤井「西部先生の書籍「核武装論」ですね。」
伊藤「うん、講談社新書。何で失敗かっていうと、核武装を唱えたから失敗だったわけじゃなくて、言っちゃ悪いけど西部先生、核戦略理論に関して質の高い専門書を七~八冊読んでから「持つべきか、持つべきでないか」っていう議論をすべきなのに、あの本は全部、西部さんの思いつきを書いただけなのね。」 
藤井「なるほど、基礎理論がなかった、というご指摘ですね。」

伊藤「西部先生は大秀才だったけど、でもやはり核戦略の基礎理論を理解してから本を書かなきゃまずいよね。やはり思いつきは駄目です。基礎理論を習得してから、「僕はこの立場から論じる」というふうに書くべきだったと思う。何で西部さんがあの違いをやってしまったのかっていうと、日本国内の「核を持つべきか否か」という議論は、真の核戦略理論とは何の関係もない口喧嘩にすぎないものだからです。つまり「好き嫌い」レベルの議論にすぎない。「あんな残酷なもの、持ちたくない」とか、「シナ人やチョーセン人が持っているから、俺たちも持つべきだ」とかいう、感情的な議論に終始している。そんな「好き嫌い」レベルの議論は、核戦略理論のパラダイムとは何の関係もないのです。運の悪いことに西部さんも、そういう議論に参加してしまった。西部先生のように深い思考力を持つ方が、左翼と保守の不毛な口喧嘩に参加してしまった。」

藤井「与してしまった、というご主旨ですね?」

伊藤 「そう、それが残念だったわけ。」

(引用終わり)

 

伊藤貫氏の核戦略理論について、この後出てくるんですが、その文字起こしはしばらく後に載せるつもりです(まだ出来てませんので)。その前に、核武装についてのお二人の対談をどうぞ。

 

『核』が日本を沈没から救う 

2010年10月16日「西部邁ゼミナール」TOKYO MX

 


    伊藤貫&西部邁

西部「今日はワシントンDCに25年在住しておられて、国際政治学、とくに軍事問題に関して色んな発言をなさっている伊藤貫先生をお呼びしました。ワシントンDCの丘はどれくらい高いかしりませんけど多分アメリカ全土は見渡せ、時々は日本もウォッチされている立場から核武装が中心になるかもしれませんが、日本人が国際軍事を見誤っているかということを話していただきたいと思ってお呼びしました。広島の原爆の平和祈念集会が行われて、今年は65年ということもあったのか、大いに盛り上がって、各新聞が見出しに『核なき世界平和へ向けて日本が先頭で頑張るんだ』と信じている人が8割くらいいると思うんだけど、小さい声でいいますが、そうとうおバカさんにみえるでしょ」

伊藤「核をなくそうとアメリカが言い出したのは2回目です。1回目は第二次世界大戦直後に言い出した。バルク案というんですが、アメリカはロシア、イギリス、フランスが核を持つことを邪魔しようとしたわけです。「最終的にはアメリカも核兵器をギブアップするからお前たち、核を持つな」と。ところがヨーロッパ人とかロシア人は騙されやすいほうじゃない。「アメリカはそういうこと言って、自分たちだけ持つんだろう」と。

今回の核廃絶プランというのも5,6年前にシュルツ元国務長官と、ペリー元国防長官とサムナーン元上院軍事委員会委員長とキッシンジャー元国務長官が言い出したことで、この4人で少しは正直なのはシュルツ元国務長官だけ。あとの3人は海千山千、煮ても食えない。彼らが核廃絶プランを言い出したのは、アメリカが核を独占したいからです。そのためにはアメリカが核兵器を増やして、ミサイルディフェンスも増やす。核を持つなと言っても、他の国はいうことを聞かない、じゃあアメリカが核廃絶運動の先頭に立っているフリをすれば、イランとか北朝鮮にお説教しても少しはクレディビリティがあるんじゃないかと考えた。

でも世界中どこの国も本気にしないわけです。なぜかというとアメリカが中東政策でなにをやってきたか、東アジア、ラテンアメリカで何をやってきたか他の国は知っていますから、「まーたアメリカがあんなことを言っている」と。北朝鮮も相手にしない、中国もどんどん核ミサイルを増やしている。ロシアも新型の核ミサイルを作っていますし、イランだって相手にしていない。日本だけアメリカの言うことを本気にして、「核の廃絶に協力しよう」と。これは非常にアメリカに都合がいいわけです。

アメリカの対日政策は1941年8月にルーズベルトとチャーチルがニューファンドランド島のそばに泊めていた船の上で会議をした。第二次世界大戦が終わったら日本は永遠に武装解除しようと。真珠湾の4ヶ月前に決めているんですよ。その次の年の5月にモルト外相とルーズベルト大統領がワシントンで会議した時も戦後の世界はアメリカ、中国、ソ連、イギリスだけが軍事力をもって、日本は永遠に武装解除しようと。アメリカ軍事史や外交史の本を読んでいると、1942年から2010年まで一貫して『日本は絶対に自主防衛をできない国にしよう』と。

国務省とか国防省の日本部長とかCIAの日本部長とか国務長官とかCIA直属のアジア担当官とかと議論したことがあるんですけど、彼らの本音は、『たとえ朝鮮人、中国人、ロシア人が東アジアにおいてどれほど核を持っても、日本人だけには持たせたくない』というものです。今年になって突然ルース大使があそこに行ったり、アメリカ政府がバックアップするために韓国人まで送り込んできたでしょ。最初はイスラム教諸国と北朝鮮に核を持たせたくないからということで、先ほどの4人が考えだしたんだけど、上手く行かなくて最終的には日本にだけ効果を持っていて、やはりアメリカ政府の基本的方針は日本が自主防衛をできないようにすると。で、日本は先ほど言ったロシア、中国、北朝鮮の3ヶ国に包囲されていますから、核を持たないと本当の抑止力、自主防衛能力を持てないわけです」

西部「1972年2月キッシンジャーが周恩来と会って、日中国交回復の前の話しだけど、 二人の当時の対談が今世紀のはじめに30年ルールにより公開された。それを日本の雑誌で、翻訳で読んだんだけど、周恩来が「日本は変な国なんだから、核を持たせることはやめてくれ」と言ったら、キッシンジャーは「仰るとおりで、日本は変な国だから、まかり間違っても日本には核を持たせない」と」

伊藤「CIAの日本部長経験者とか、現役のペンタゴンの日本部長から、『朝鮮人、中国人、ロシア人が核を持っても、あんた達日本人だけには核を持たせないからね』と面と向かって言われてます」

西部「NPT、核不拡散条約だって、1968年頃に条約が締結されるんだけど、それだって主たる目標は日本でしょ」

伊藤「ドイツと日本です。たとえばドイツの場合は、アデナウアー首相はナチスに反対したんでパージされてたくらいの立派な民主主義者なんですが、ケネディ政権がものすごい圧力をかけて、ドイツの兵隊の数を増やせと。アデナウアーは財政的に持たないから、数十発なり、戦術用の核弾頭を持たせてくれたらそんなにお金使わなくても陸軍の兵隊を増やさなくても自主防衛できるんだと言った途端にCIAと国務省が動き出した。それでアデナウアーを追い出せと。それでアデナウアーは数カ月後に追い出されちゃったんですよ。それを見ても分かるように、敗戦国の西ドイツと日本にだけは絶対に自主防衛能力を持たさないというのがケネディ政権の考えで、次のジョンソン政権も。そこからNPTはでてきたんです。」

西部「昭和期の自民党はまぁまぁ良かったと思うのは、NPTが1968年として、日本の国会がNPTを批准したのは1976年。8,9年日本は粘った。批准をしなかった」

伊藤「1960年代の末までは、あの外務省にも、そんなことをやっちゃいけない、日本は自主防衛できるオプションを残しておかないといけないと言って頑張る人が数人いたんですよ」

西部「自主防衛の話なんだけど、イラク戦争の頃、僕がアメリカのくそったれみたいなことを言っていた時の話なんだけど、日本の外交に詳しいと言われている岡崎久彦さんとか、田久保忠衛さんとかが、『世界で自主防衛できるのはアメリカだけだ、日本の自主防衛を訴えたら、日本の自主防衛なんていうのはおこがましい』という感じの話になったんだけど」

伊藤「それは岡崎さんと田久保さんが核戦略理論の基本的な著作とか論文を読んでないからです。例えばコロンビア大学のジャービス、ベッツ、コロンビア大学の名誉研究員ウォルツ、ハーバードのミラーとか、ウォルト、ハンティントンとかは『100発か200発の核弾頭を持てば、絶対に他の国は手を出せない、だから自主防衛できる』と。だから田久保さんとか岡崎さんがそういうことを言っておられるとしたら、それは核戦略理論をご存知でないか、日本の国防よりもアメリカ様のご機嫌を損ねたくないというつもりで言っておられるかどっちか知らないですが、とにかくそれはおかしいです」

西部「自主防衛は、例えば一段階目、日本がどこかから攻撃された時、一ヶ月か、一年か、十年か状況によるけど、当座、日本単独でも徹底的に侵略に対して戦う、徹底的には核も入ってくるんだけど、仮に核を入れなくても、そういう体制を整えて頑張ると。二段階目は友好国なり同盟国なり、あるいは侵略は不当だということでいずれは少々なりとも援助はくるだろうと。そのうちに三段階目、国連がパワーで動いているのは確かだけど、一応現代社会の国際法の死守部隊ですから、日本列島に対する侵略は世界秩序として許されないという。こういう三段階で動いていくと思うんだけど、最初の段階は単独で侵略に対して徹底的に戦うという体制を整えていないと。そういうことを日本人が真剣に考えていないということなんだね」

 

伊藤「自主防衛に関して2つ言わせていただきますと、そもそもネーションステート、国民国家というものができはじめたのが15世紀から17世紀のヨーロッパなのですが、最初の動機は自分の国は自分で守らないといけないと。それやらなきゃたまったもんじゃないと。だからそもそも近代国家、ウェストファリア条約以降、ネーションステートができた最初の必要条件が、自分の国は自分で守らないといけないというのが最初の動機です。ホッブスをもちだすと、自然状態というのは万人の万人に対する戦いだと。じゃあなんで国家に存在理由があるのか。国家は国民を守ってやるから、初めて国民は国家に忠誠心を持つと。だから政治思想の面から見ても、自分の国を他の国から守らない国なんて、国民が忠誠心を持つわけ無いんですよ。」

西部「ワシントンDC在住のかたに英語を講義するわけじゃないけどstateはもともと状態という意味です。今日本列島周辺のステートはこう言う状態にあると、それを相手にも承認させる。しかしステート、状態は時間とともに変わる。だからこの状態を守るというのがステートの中に入っている。だから自主防衛も物事の原理原則。そういうことをなんで忘れたのか。平和のせいだね。ピースと言うのは平和だけど、もともとはパックス。パックスというのは僕と伊藤さんが喧嘩して伊藤さんが勝ったとする。僕はこれ以上抵抗したら傷つくだけだから、負けましたと言う。僕が伊藤さんに平定されるということ。平定のための条約がパックス。そこからピースが来ている。日本人は平和というと犬もネコもネズミもみんな仲良く暮らす天国みたいに思っているけど、そうじゃなくて、強者が弱者を平定して、弱者もそれを受け入れるという協定の状態。日本人は65年平和だけど、その意味は強者の平定に素直に服しているということ。小沢一郎氏がアメリカの海兵隊はいらないと。僕もいらないと思っているけど、いらないならいらないで自分たちで自主的に日本軍の海兵隊を作らないといけない。それ一言もなしに『出て行って』と言っている」

伊藤「本当のことを言うと、アメリカに完全にバカにされていて、日本国内の外交議論は5才と10才が口喧嘩をしていると言われてます。5才は護憲左翼で、あの連中はダダをこねればなんとかなると。戦争は嫌だ、核のない世界へ行きたいと。朝日新聞とかNHKですね。ちょっと上なのが読売とかサンケイとか日経。親米保守と言われる人たちで、世の中には狼、クマもでる。お化けも出るかもしれない。その時どうしたらいいか、あそこに強いパパがいる。強いパパは正義のパパだと。アメリカという強いパパがいると。5才の護憲左翼と10才の親米保守が罵りあっているだけですからね。池田内閣、佐藤内閣の時からいつまでたっても外交議論の質があがらないんですよ。ほとんど議論が無駄なんです」

西部「正義のパパだと言えたのは、古き冷戦の時代。自由主義アメリカと社会主義ソ連と比べたら、少々アメリカの方が相対的正義があったという理屈は成り立つけど。ソ連ないでしょ」

伊藤「最近の国際政治学で一番理論的貢献をしたウォルツが論文を書いて、ソ連と対抗している間はアメリカに対して、他の自由主義諸国も従ってくれた。ソ連がひどすぎるから。だけど我々は絶好の敵役を失った。これからはアメリカは世界中で嫌われ者になるよと書いているんですよ。その時は僕もさすがにウォルツは酷いこというなと思ったけど、それから17,18年経ったらそのとおりになっているんですよ。20ヶ国くらいのまともな国が核を100発とか200発持てばお互い戦争をしなくなるから、マイナスではない。まともな国が核を持つということは戦争を予防する抑止力として働くから、核拡散だと騒ぐことはない。日本が持っても構わないと彼は言う」

西部「ウォルツは、日本は20のまともな国に入っていると。日本にやったら日本人は怖がって持った核を捨てる。それが北朝鮮に行っちゃうこともあるから。冗談でいっているんだけど」

伊藤「なんで日本人の思考能力がここまで幼稚になったのか。奈良時代から明治30年くらいまで、日本人はバイリンガルだったんですよ。トップ3%くらいの教養階級は漢書を日本語と同じように読んだ。読めないやつは教養人じゃない。和漢両方揃っていないと駄目だと。5才のころから四書五経を暗唱させられたわけですよ。こういうと中国嫌いのひとは怒ると思いますが、日本人と中国人とどっちが思考能力が大人かと言うと、中国の方が大人なんですよ。日本人の少なくともトップ3,4%は和漢両方読めて、明治の30年頃までは自宅にある蔵書も半分くらいは漢書だったんですよ。それが普通だったんですよ。明治時代と比べても今の日本人て凄く幼稚でしょ

西部「大東亜、太平洋戦争のころもアメリカは日本と中国を比べたら、中国贔屓が多かった。それは歴史的な慣習とか習慣とかないわけじゃないんでしょ。中国人を一人前として扱うけど、日本人は5才の子供みたいな」

伊藤「それは過去100年変わっていないです。アメリカ人が日本人を毛嫌いするというのは。同じアングロサクソンでもイギリス人は毛嫌いしないんです。これは相性が悪いというのがあると思います。もう一つは言っちゃ悪いけど、中国人の方がコミュニケーション能力とか戦略設定能力が上なんですよ。だから中国人はアメリカ人をよく読んで、アメリカ人の思考パターンはこうなのか、それならこう持っていけば説得できるなと考えた上でバンバン説得していくわけです。ところが日本人はアメリカ人の思考パターンはこうなんだなというふうに考えて自分たちに都合のいいようにアメリカの世論を誘導していこうとか、そういうことはできないんですよ」

西部「日本の外交官たちがアメリカを中心とする国際舞台で徹底的に子供扱いされていることにとうとう外交官の一部がヒステリーを起こし始めて、日本よ、本国よ、頑張ってくれ、核武装するしか無いんじゃないかということが、あの日和見の外務省から出てるっていう話を伊藤貫という人からちょっと聞いた覚えがあるんだけど」

伊藤「まず『村田良平回想録』が上・下出されていますが、この『村田良平回想録』の下巻を読んでください。そうすると村田良平さんの切々たる思いが書いています。今の日本は独立国じゃない、こんなのは安全保障政策として失敗であるだけでなく、国家の在り方が最初からおかしいと。アメリカがどんなに反対しても、日本に制裁を加えても、日本人は核を持つべきだと。これは『村田良平回想録』に堂々と書かれています。また、非常に温厚な加藤良三前駐米大使、彼も最近、アメリカとくっついているだけじゃ駄目で、日本は日本の国家戦略、国防政策を持たなければ駄目だと言っています。その国防政策のシナリオのいくつかには核武装もいれるべきである、実現すべきオプションとして考えておくべきだと。加藤さんはアメリカがそれに文句をつけてきても日本人は独自の国防政策をきちんと考えるべきとおっしゃるんですね。課長レベルで僕と仲の良い奴にもいるんですよ。課長レベルでそんなこと言ったら左遷されちゃうんで、だまってますけど」

西部「テレビをボーっと見てたら、伊藤貫さんと同じでアメリカ在住が長い日高なんとか((トラ注 日高義樹 NHK出身のジャーナリスト)っていう人が出てた。途中から見たのであれだけど、それがアメリカの国務次官補かなんか、それも忘れたけど、中堅どころにインタビューしていて、日本が憲法改正するしかないんじゃないかと。9条の非武装非交戦のことでしょう。そしたらその中堅どころがね、そんなことしたら中国人からバッシングを食らうよと。具体的に言うと、日本企業よ、出て行け、日本の品物を買うなという不買運動ね。今の日本人はね、中国に行って金儲けをすることが最大の関心事で、僕も核武装論者でやって欲しいと思っているんだけど、核武装どころか国防軍を持とうという憲法改正をしただけで、中国から叱られると。これまでアメリカから叱られたけど、最近は中国人から叱られることにある種の被虐的趣味を覚えつつあるんですよ。望むらくは、そろそろ覚悟を決めて亡命して、ワシントンDCで伊藤貫さんに食わせてもらうと、そんな冗談を言いたくなるようなところまで来てしまっているんです。また帰ってきたらお呼びしますので、是非日本の視聴者の皆さん、5才だか10才だか、幼稚園か小学校は卒業していただきたい。立派なおとなになれとは言わないけど、二十歳にはなってもらいたいと」

(終わり)