今回の伊藤貫は、少し古い11年前(2012.11.03)の、TOKYO MXテレビ番組西部邁ゼミナールにおける西部邁氏との「アメリカの自滅と日本の自殺」と題した対談の文字起こしです。

そこでは伊藤貫氏が書かれた「自滅するアメリカ帝国」(文春新書)をめぐって語られる。

 

       伊藤貫氏と西部邁氏

 

TOKYO MXが放映していたテレビ番組西部邁ゼミナールは、知的水準では稀有のものであり、大手テレビ局では放送できない内容、いかがわしい番組しかやっていないTOKYO MXならではの真実を語る番組でした。

対談相手も日本における優秀な学者・評論家が出席しており、伊藤貫氏も来日すると必ずこの番組に呼ばれて素晴らしい話をしてくれていました。今ではYouTubeでも見ることができます。

 

私はこの西部邁ゼミナールの多くを録画していますが、怠惰なものであまり真面目に見ていませんでした。

今回「japanloverのブログ」というブログに伊藤貫氏の講演や対談の文字起こしが沢山あったので、その中から引用させてもらいました。

今後も継続して伊藤貫氏のものをブログに載せていきたいと思っています。

 

今回の対談もアメリカの政治から国際政治の歴史と動向が分かりやすく解説されています。

対談相手の西部邁氏はさすがに伊藤貫氏の話をより深く導いてくれていて、チャンネル桜の水島社長とは失礼ながら雲泥の差があります。

西部氏は自死されてしまいましたが、今のウクライナ戦争についても大いに発言してくれたら面白かったと思うと残念でなりません。

 

「アメリカの自滅と日本の自殺」前編 2012.11.3

 

 

西部邁ゼミナール (2012.11.03)

アメリカの自滅と日本の自殺 前編
伊藤「ワシントンのポトマック川を超えるとアーリントン墓地があります。ペンタゴンやCIAはアーリントンにあるんです。僕もアーリントンに住んでます。アーリントンは住んでいる人の3分の1が外国人なのでアメリカという感じがしないんです。」
 

西部「最近は滅多に本を読まないけど伊藤さんの本(「自滅するアメリカ帝国」)は丹念に読ませていただきました。アメリカの歴史的な特性として、自分に敵対する国を悪魔視する、デモナイズするという特性があります。
アメリカは、昔と違って多人種混合ですが、ピューリタニカルな一種の純血主義、『自分は神に導かれている。導かれないものはみんな悪魔だ』という感じが今も残っているということですか?」

  

 

伊藤「ピューリタン自体はいいんですが、要するに17世紀の新興宗教でしょう。新興宗教の人たちってお話を作るのがうまくて、自分達がいつも正しく、ケチをつける奴は徹底的に悪いと思っている。新興宗教の団結心を強めるために『お話』が必要なわけです。
 メイフラワー号でアメリカに渡ってきたイギリス人自身が『自分たちは特別で、反対する奴は神に背いている悪いやつ』と思ってる。プリマス・ロックにメイフラワー号で渡ってきた時からそういう連中ばっかりでした。ただバージニアとか、ノースキャロライナ、サウスキャロライナに移ってきたイギリス人はそうじゃないんですよ。あの連中は単にタバコのプランテーションをやってお金儲けしたい連中で、どっちかというとアングリカンで穏やかです。悪い奴は悪魔の味方だとデモナイズする連中じゃない。でもペンシルバニア、ロードアイランド、特にマサチューセッツに移ってきたイギリス人は、自分たちに反対する奴をデモナイズする」
 

西部「アングリカンてのは、イングランド国教会というイギリスの正統な教会ね」
 

伊藤「アングリカンの連中はルーズというか、カソリックの儀式とかもいっぱい入っているし、あんまり宗教宗教言うなと。南部行ってプランテーション作ったアングリカン連中と、北部に行ってインディアンをいっぱい殺して神の国をつくると言ったピューリタン連中は違うんです。
もっとハッキリいうと、英語でセルフライシャス、独善的ってあるでしょう。北部のマサチューセッツあたりに行ったピューリタン連中は独善的なんです。その独善性が今のアメリカ外交に脈々と流れているんです」

西部「ライシャスは正当化ね」

伊藤「アイムライシャスは、私は正しい。セルフライシャスだと、私はいつも正しいということです。田中真紀子さんみたいな感じです。あともうひとつ、1648年にウェストファリア条約っていうのがありまして、ここから1910年の第一次大戦がはじまる前までは、『外交で対立する相手をデモナイズ(悪魔化)しちゃいけない』という一種のジェントルマンズルールがあった。外交もしくは軍事的な争いっていうのはお互いに俗物どうしがやっているんだから、相手をデモナイズしちゃいけないということです」

西部「ウェストファリア条約っていうのは、ドイツで30年戦争があって、各国が介入したりしてグチャグチャになった。そこで落ち着かせるためにヨーロッパで国境が確定された。それから始まったって言われている。これ以上戦争やったらどうしようもないから、お互い覇権的に相手を悪いとか自分が良いとかっていうのを止めて、ステイト、普通は国家と訳すけど『状態』という意味もある。現状のことをステイタス・クォーと言うでしょう、一応この現状を確定して、国境としてお互い覇権争いはあまりしないでおこうと、そういうことですね」

伊藤「そうそう。ウェストファリア条約から(ナポレオン戦争は例外として)相手の国をデモナイズしてはいけないと。もうひとつは宗教とイデオロギーを振り回して人を殺しちゃいけない。特に民間人を殺しちゃいけない。それから戦争に勝ったほうが戦争裁判とかみっともないことをやって、相手の国の歴史解釈にケチつけたり、お前たちは根性が悪い、最初から悪いことばかりやる国民だとか教えこんだりしちゃいけないということになった」

西部「第一次大戦でフランスとイギリスがドイツに対して、当時のドイツのGNPの20倍という法外な賠償を押し付けた。それは制裁というか、相手の生殺与奪の殺のほう、殺すぞと同じような賠償を要求した。そりゃヒトラーも出てくるわけですよ」

伊藤「ウェストファリア条約から第一次大戦までは戦争に負けた相手を徹底的に貶めてはいけない、辱めてはいけない、勝ったからといって相手の国の存在まで否定してはいけないというジェントルマンズルールみたいなのがあったんですよ。
 ところがアメリカは、ヨーロッパのバランス・オブ・パワーポリティクスを全く経験しないで1880年代に世界一の工業力を持つようになり、1919年に第一次大戦が終ったあとに突然パリに乗り込んできて、ベルサイユ体制を作ったわけです。その辺から国際政治が『勝った奴は負けたやつを徹底的に踏みにじる。イデオロギーを振りかざして相手をコテンパンにしていい』となってきた。

個人的な言い方ですが、外交史を読んでて1919年から後は楽しくないんです。それまではゲームの感覚があった」

西部「ゲームといって語弊があれば、騎士道精神、日本では武士道精神の名残があった」

伊藤「1815年のウィーン会議に出てきた連中はたしなみがあった。フランスがあんな酷い戦争をしたにも関わらず、フランスから領土を取っていない。戦争裁判もやらない。戦争犯罪者の追求、処罰も一切やっていない。あれだけの戦争やっておきながら、フランスを温存しているんです。
なぜかというとイギリスのキャッスルリー(カースルレー)外務大臣、オーストリアのメッテルニヒ、フランスのタレイランらはみんな17、18世紀の状態に戻したいと思っていた。ナポレオンみたいに、恥知らずみたいにイデオロギーを振り回してロシアまで出て行くようなことは二度とやりたくないと。それでウィーン体制を作った。その体制の平和は99年続いた。1815年から1914年。だからあの連中はたしなみと常識があった。

しかし第一次大戦後のベルサイユ体制にはたしなみと常識が全然ない。しかも第一次大戦が終ったあとにウィルソンが国際連盟という変な国際組織を作って、そこでおしゃべりして投票すれば全部解決すると言ったわけです。ウィルソンはそこでバランス・オブ・パワー外交を終わらせるんだと言ったわけです。フランス人はそんなのうまくいくわけないといって、イギリス人を説得して、英仏米で3国同盟をつくろうと提案した。そのモデルになってるのがウィーン会議でメッテルニヒが作った、ロシアとプロシアとオーストリアの3国同盟なわけです。3国同盟をがっちり固めてバランス・オブ・パワーが崩れないようにしようと考えた。
 アメリカでも3人賢いのがいて、それをやろうとした。3人というのはランシング国務長官、ウィルソンの補佐官のハウス大佐、それから連邦上院の外交委員会委員長のヘンリー・キャボット・ロッジ。この3人は1919年以降はアメリカ・イギリスフランスががっちり3国同盟を組めばドイツは出てこれないはずだと言った。しかしウィルソンは同盟を作ること自体がバランス・オブ・パワー外交に戻ることだと反対した」

西部「日本ではウィルソンとルーズベルトと言うと、世界を協調で普遍的にした、素晴らしいことを第一次大戦後にした人というふうに教えこまれている。しかしこの本を読むと、20世紀で言えばこの二人こそ今のアメリカのグローバリズムに繋がる過剰な空想主義、理想主義を唱えた元凶として指弾されている。しかし日本人は今でもすばらしい人たちと信じているんですよ」

伊藤「それは先生もいらした東大の駒場の教養学部の連中がウィルソニアンで、ルーズベルトは素晴らしいと。本間長世先生とか」

西部「つい先だって亡くなったから。いいんだ大きい声で言っても」

伊藤「ともかく東大の教養学部のアメリカ学科が酷かった。僕は、あの連中が間違ってることにワシントン行って初めて気がついたわけ。日本にいるとわからないですよ」

西部「ジョセフ・ナイ。日本の紹介では、世界を協調主義的にソフトパワーでみんなでお互いに意見を出し合い、相談し合うと言っている人だとあちこち書いてあるから、そんなもんかと思ってたけど、この本を読むと表面上はそうだけど、裏ではアメリカの一極支配や覇権主義を断固として信じた上で、それをいかに上手くやるかという手練手管としてソフトパワーを使おうと言っているだけの人物だと書いてあって、そりゃそうだとえらく納得がいった」

伊藤「本当にバランス・オブ・パワーを支持する、ウォルツ、ミアシャイマー、ウォルト、ハンティントンという連中はジョセフ・ナイのこと嫌いなんですよ。

面白いことに2003年の国際法違反のイラク戦争にジョセフ・ナイは賛成するわけです。ところがウォルト、ウォルツ、ミアシャイマー、ハンティントンはみんな反対するわけですよ。あれでナイの本性がバレたと僕は思います。口先でリベラルなキレイ事を言いながら、ブッシュのバカ息子がバーっと戦争にいくと賛成したアメリカ人は、自分がオポチュニストであることの馬脚をあらわしたと思います」

西部「ウォルツを読んだことがあって、彼が日本の核武装を薦めているかどうかはともかく、日本が核武装をしないことのほうが不思議であると言っている。そこだけピックアップされて、日本の外交国際政治において、ウォルツ一派は軍国主義的なミリタリストであると悪い宣伝がされている。

ところがこの本を読むと、彼が日本に核武装を容認、むしろ推奨しているのは一種のバランス・オブ・パワーとしてですね。つまりアメリカの一極支配、自国中心主義、それでアメリカ自身が滅びるという懸念から、核の時代なんだから力を持っている国は適当に核を持ってもらって、お互いにバランスを取るほうが健全な世界秩序が来るということもこの本でよく分かるのね」

伊藤「現在の米国による世界支配体制は1945年にできたわけですが、その時アメリカのGDPは世界の50%あったわけです。アイゼンハワーの時はGDPは世界の40%、ニクソン・ショックの時1971年はGDPは世界の30%、ブッシュの息子の時はGDPは世界の20%になって、現在はIMFによるとアメリカの実質経済規模は世界経済のGDP18%になってるんです。

1945年に世界のGDP50%の規模を持っていた時には、アメリカがユーラシア大陸を全部支配するんだ、ユーラシア大陸でいちばん重要なのは西ヨーロッパと中東と東アジアだからこの3つを軍隊を配備して絶対に離さないとアメリカがやっても世界経済の5割だからリーズナブルだと。ところが現在はGDPは世界の18%で、大借金国で他の国に毎年の赤字国債の半分を買ってもらわないといけないのに(トラ注)、1945年の世界支配体制をそのまま続けたいわけですよね」
(トラ注 これはMMT的には間違っていると思う。米国債(日本国債も)は外国に買ってもらう必要は全くない。伊藤氏ですらこの国債の基本を理解していないようだ。まあ10年前にはMMT理論は皆知らなかったからやむを得ないかも。)
 

西部「小さい声でいうと、盗人猛々しい」

伊藤「これはおかしいわけですよ。ワシントンに住んでいておかしいと思うのは軍事外交関係のエキスパートと言われる人とマクロ経済を運用しているエキスパートが実際には口を聞いていないわけ。マクロ経済のエキスパートはこれってちょっと無理なんじゃないかと。今のアメリカの軍事費は世界の軍事費の45%くらい出してるんですが、それに加えてスパイ関係費だけでなんと850億ドル使ってるんです。他の国から情報を盗んで分析するだけで自衛隊の2倍の使っているんです。

それとは別にホームランドセキュリティという国土防衛の省があって、これが1000億ドル使っているわけです。それからベテランズ・アフェアという退役軍人年金、全部合わせると世界の安全保障関係費の6割使ってるんです。

問題は毎年借金ばっかりしてて、自分の国の国債さえ半分しか消化できない国が世界の安全保障関係費の6割使って、中東を支配するんだ、東アジアを支配するんだと頑張っているわけでしょ。それで一極構造を作るんだと。マクロ経済を少しでも分かってたら、これは無理じゃないかと思うわけでしょ。ジョンズ・ホプキンス大学にマンデルバウムという教授がいて、彼は10数年前はイケイケドンドンで一極主義者だったんですよ。でも最近2,3年すごく弱気になっていて、アメリカにはそれをやるお金がない、経済力がない、それにもかかわらず、民主党のエスタブリッシュメントも共和党のエスタブリッシュメントも世界を一極構造にするんだというテーマから動こうとしないと。マンデルバウムは、これは外交政策、軍事政策のエスタブリッシュメントが世界を一極構造にするという戦略から動かない以上、エクスターナルショックがないと目が覚めないと。目覚めるにはやっぱりドル危機だろう。ドルクライシスで、ドルが国際基軸通貨というシステムが数年以内に、いつかわからないが壊れるだろうと。スティグリッツとかアイケングリーン、ワシントンのフレッドバーグステンとかIMFは10年以内にアメリカがドル危機を起こすと。今のアメリカの財政状態でドルが国際基軸通貨として使われてること自体がすごく不自然なんですよ」

西部「アメリカがドルを刷って決済しようとしてもアジアはドル使いませんよということになるってことね」

伊藤「今のアメリカが貯金が全然なくて、貯蓄率がゼロで、財政状態が真っ赤っ赤なのに、世界中を支配する軍事力を維持できるのはドルを刷りまくって、それを世界中でむりやり使わせてるから借金し放題なんですよ。ドルが国際基軸通貨で亡くなった途端にアメリカは自分たちの発行する国債を自分たちで処理しないといけない。そうなった途端にペンタゴンの予算はバサッと切られるわけです。スティグリッツにしてもIMFにしても10年以内にそういうことが起きますよと言っているわけです」


(トラ注 米国批判する保守派はみんなこういう間違いを平気で言っているのは何故なのか。それは米国覇権のぜい弱さを指摘するのに一番分かりやすい理屈と安易に考えているからではないか?MMT理論が言われだした後でもこういう見方が多いのはやはり勉強不足というしかない。


西部「ドルショックを起こしちゃいけないとアメリカをサポートするのは世界広しといえども日本くらいでしょうな」

伊藤「日本がなんでそれをするかというと、ひとつはアメリカに守ってもらわないと日本人は生きていけないと。もう一つはアメリカに命令されると考えもせずに盲従するんですよ。盲目的服従。見ていると外務省の局長とか事務次官とか、財務省もそうですが、アメリカ政府がこうこうやるから日本人はこれやればいいとか、日本人はそれをやる必要がないとかいうとイエッサー、イエッサーって感じで全部従っちゃうんですね」

西部「僕の博多の先祖も百姓だから胸が痛むけど、あの時の百姓は悪辣な代官には逆らうのね。それで大東亜戦争みたいなことやるわけさ。たいがい負ける。大負けすると新しい代官がくる。来ると『お代官様』と盲目的忠誠心を発揮する。嫌なのは日本人の心のどこかにこれがある。平成昭和に始まったことじゃない歴史的な遺伝子みたいなのが大多数にはそれがある。武士道華やかなりし頃は、かくてはならじという人もいたらしいけど、そういう人の大部分が大東亜戦争の先頭に立って死んでいったものなんだね。戦争で死なないですんだのは優秀な女性。そしたら盲目的忠誠心をもっていない我々は戦後で言うとひょっとしたら女性に多いんじゃないかと。かつて鬼畜米英と叫ぶ勇気があった男性が腰を抜かし、しがみつき、こうなったら日本の男子たちには、小さい声で言うよ、年寄りとしてはいささか絶望するということで、次の回は、不可能でしょうが、希望ある話を無理やりにでもお願いします」

(後編に続く)