マッコウクジラが道?に迷ってしまったか、親とはぐれてしまったか、大阪・淀川河口に迷い込んでしまった。こういうとき、日本人はいつものように大騒ぎで、テレビまで「中継」するというバカ騒ぎだ。

平和といえば平和だ。ミサイルがいつ飛んでくるかと騒いでいるわけではないから。

 

さてクジラといえば「哺乳類」なんだが、なぜあの巨体が魚のように海に生息するようになったんだろうか。

「ホンマでっか!?TV」に出ている生物学者の池田清彦先生が「ぼくは虫ばかり採っていた」(青土社)という本の中で、進化論を説明する上でクジラについて書いている。

ネオダーウィニズム進化論を否定して、構造主義的進化論を主唱しているのだが、私は一番説得力がある進化論だと思っている。

 

「…同じ種のなかの小さな変異なら、ネオダーウィニズムで説明できるものもある。耐性菌なんかがそう。…これは完全に突然変異と自然選択で説明できる。

だけど大きな進化を、ネオダーウィニズムは説明できない。たとえばクジラは、5000万年ぐらい前まで脚があったんですよ。ネオダーウィニズムの考えだと、海に棲んでいるうちに泳ぎのうまいクジラがその環境に適応していって、徐々に脚がなくなったことになるけど、そんなのウソだって。

四肢動物だったクジラが最初から海に棲んでいたわけがない。2001年の「ネイチャー」誌に、パキケトゥスっていう約5000万年前のクジラの祖先の化石が載ったけれど、オオカミぐらいの大きさでちゃんとした脚があった。それがなぜクジラだと言えるかというと、頭の骨から解剖学的にわかった。

DNAで系統を調べると、クジラはカバに一番近い。カバとかブタ、シカ、ウシは偶蹄類で、クジラは偶蹄類の内群なんだよ。

ところがクジラの祖先は、遺伝子発現システムが変わって脚が短くなったことで走るのが苦手になり、陸上で生活していると他の生物に喰われてしまう。そこで沼地に移動してワニのような生活を送っているうちに、さらに脚が短くなり、海中へ生活場所を移した。

海に入ったクジラは、小さいと捕食者に喰われてしまうので、どんどん大きくなっていった。海に入ってからは自然選択というダーウィニズムの考え方が有効になる。自然選択は進化の原因じゃなく、結果なんだよ。まず形が変わったことで、自ら快適な環境へと移動したわけ。どんな動物もそうですよ。

(後略)」

「…足のあるクジラというのも変な言い方だけど、いろいろな解析によると確かにクジラになる直近の先祖です。陸を歩いていたのが海に入って泳ぐほどになるには大変な変化が必要ですが、この変化は急激に生じたのです。

構造主義生物学では、この問題を、足がなくなったので、海に入るしか生き延びる方法がなくなったと考えます。ネオダーウィニズムは、環境への適応によって、形が徐々に変わり、結果的に大きな形態変化が起きると考えます。確かに、こういったプロセスでも進化は起きるでしょうが、我々はむしろ、クジラが陸から海に入ったというような重要な変化は、形の変化が先行し、生き延びられる環境への移行を通して、結果的に適応現象が生ずる場合も多いと思っています。(後略)」

 

「…一個の遺伝子が形をつくるわけじゃなく、カスケードといってメジャーな遺伝子にポンとスイッチが入ると次々にほかの遺伝子にスイッチが入ったり、切れたりしてタンパク質をつくる反応が起き、その結果としてある形ができあがるということが最近分かってきた。

…遺伝子たちの働く場所を変更することをヘテロトピー(異所性)と言うんだけど、ヘテロトピーによって遺伝子はほとんど同じでも、つくり出す形を大きく変えることができる。つまり、進化にとって一番重要なのは、突然変異と自然選択じゃなく、形態形成システムの変更なんだよね。(後略)」

(引用終り)

 

何だかわけが分からなくなったけど、大きな進化は徐々に起きたのではなく、「急激に」「形から変化」したことによって進化をしたのではないかと主張しているのだ。今西錦司の進化論にも通じると思われるが、徐々に進化をしたとすれば、進化途中の形態の動物は最も環境に適応していないということになる。だから、急激に変化したと考える方が合理的なのである。

爬虫類から鳥類に進化するのに、爬虫類から一気に羽が生えて鳥になったのだと。

 

池田さんは遺伝子が変化(突然変異)したり、自然選択という環境適応に勝利したとき進化していくという説を否定して、遺伝子やたんぱく質やそれら全体のシステムの何らかの構造変化が進化をもたらすと言おうとしている。

この辺は難しいから説明できないので、池田清彦氏の著作を読んでほしいが、難しいけどとても知的興奮を覚える説明をしている。構造主義的進化論を引き継いでいる人は余りいないようだけど、これが正しいんじゃないかと思う。

 

池田清彦氏の進化論関係著作

・「構造主義科学論の冒険」講談社学術文庫

・「さよならダーウィニズム」講談社選書メチエ

・「進化論を書き換える」新潮文庫

・「科学教の迷信」洋泉社

・「初歩から学ぶ生物学」角川選書