強烈なインフレにスリランカの民衆の暴動は激化し大統領官邸に乱入。ラジャパクサ大統領が国外脱出し、スリランカという国は国家破綻を宣言した。

 

「中国が借金漬けにした結果、『債務の罠』にハマって国家破綻した」という「中国悪者論」が主流になっているようだが、最近、脱炭素批判や電気自動車批判で舌鋒鋭い杉山大志氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)が、スリランカの経済危機の最大の要因は、農業の崩壊にあり、根本にあるのは、過剰なまでに環境に配慮した「良い」国家を目指したことにある」と指摘している。

 

もちろん、スリランカの国家破綻の原因が「農業政策の失敗」ひとつにあると言っているのではない。

新型コロナ感染拡大によるロックダウンでスリランカの観光産業が大きな打撃を受けたことや世界的な資源高騰・物価高、また中国への3900億円ともいわれる巨額な債務の返済、ラジャパクサ一族の支配と腐敗構造等々が考えられるのだが、「農業政策の失敗」について触れたものはほとんどないのである。

 

「農業政策の失敗」の失敗とは何か。

杉山氏は次のように指摘をする。

「スリランカ経済崩壊の理由には、無謀な借金による投資拡大の他に、コロナウイルスの蔓延による観光業の壊滅、ウクライナの戦争によって引き起こされた世界的なエネルギー危機などの要因もあった。

 だがもっとも根本的な問題は、有機農業の強行による農業の破滅だった。スリランカは、窒素酸化物による公害や温室効果を削減するために、環境に優しい農法を実施する取り組みの一環として、2021年4月から化学肥料を禁止した。

だがこれにより作物の収穫量は激減し、農業が崩壊し、スリランカは主要な輸出作物を失って貿易収支にも大打撃となった。

 スリランカの農家の90%は化学肥料を使用していた。彼らは当然、これがなければ作物の収量が激減することは分かっていた。2021年の化学肥料禁止に伴い、米の生産量は2019年に比べて43%減少した。

スリランカの人口2200万人のうち70%は、直接的または間接的に農業に依存している。このため農業への激しい悪影響は、社会全体に深刻な影響を与えた。

化学肥料禁止令は、その恐ろしい影響が明らかになった2021年11月に撤回されたが、時すでに遅かった

深刻な打撃を受けたのは、主食の米だけではない。重要な換金作物で輸出商品の主力である茶やゴムなども打撃を受けた。国連人道問題調整事務所による6月9日付の報告書では、2021-2022年シーズンの作物生産量は前年度から40%から50%も減少した。」

杉山大志「中国より恐ろしい「ESGの罠」、大統領が逃亡した破産宣言スリランカの誤算-化学肥料禁止で農業生産が激減した「グリーン優等生」の結末」2022.7.17

 

収穫の増大に重要な窒素を中心とした化学肥料を禁止したら、当然生産量は落ちるに決まっているのだが、大統領にとっては、それよりも窒素の削減のほうが重要なことだと判断したのだ。

それは、今オランダで広範囲に起きている農民反乱を思い起こさせる

 

スリランカでなぜ化学肥料を禁止したのか。杉山氏は続ける。

化学肥料を用いない、有機農業の国――スリランカの指導層が目指したのは、国際機関のグリーン・エリートが喜ぶような、環境に配慮した「良い」国家である。

 マヒンダ・アマウィーラ環境大臣は、2020年に「誤った技術の利用、貪欲さ、利己主義」から地球を救うための政府構想を宣言した。

 ワールドエコノミクスのデータによると、スリランカのESGスコアは98.1とほぼ満点である。比較のため例を挙げると、スウェーデンは96.1、米国は58.7にとどまっている。

環境イデオロギーが引き起こした危機

 だがスリランカの危機は、まさにこのような環境イデオロギーによって引き起こされたものだ。スリランカの政治家たちは、熱狂的な有機農業運動を受け入れてきた。世界経済フォーラムに集ういくつもの大企業も、スリランカでの有機農業を推進してきた。

このことは、2021年10月31日英国スコットランド・グラスゴーで開催された国連気候会議COP26でのゴタバヤ・ラジャパクサ大統領のスピーチを読めばわかる。以下抄訳しよう。

 

・気候変動は現在、世界が直面している最大の危機の一つです。その際、スリランカや他のいくつかの国々が当然注目する重要な問題のひとつが、持続可能な窒素管理の問題です。2019年10月、14カ国が「持続可能な管理に関するコロンボ宣言」に参加しました。この重要な宣言は、2030年までに窒素排出を半減させることを目指し、各国が持続可能な窒素管理のための国家ロードマップを作成することを奨励するものです。・・・

窒素は、すべての生物の生存に不可欠な豊富な元素です。しかし、人間の活動によって発生し、生態系に放出される反応性窒素は、気候変動を悪化させます。特に肥料に含まれる窒素の過剰使用は、土壌、水、大気、そして人間の健康に悪影響を及ぼします。・・

このような背景から、私の政府は化学肥料の輸入を削減し、有機農業を強く奨励するための確固たる措置をとりました。この措置は広く評価されていますが、一方で批判や抵抗もあります。化学肥料のロビー団体に加え、安易な収量増加の手段として肥料を過剰に使用することに慣れた農家からの抵抗です。

これは、スリランカの豊かな農業遺産を考えると、特に残念なことです。スリランカは歴史上、東洋の穀倉地帯として知られていました。・・・
 私たちは、持続可能性を核とした新たな農業革命を必要としているのです。・・・私たちの政策の枠組みは、持続可能性を重視しています。このことは、スリランカの国連気候変動枠組み条約(UNFCC)メカニズムに対する野心的な目標に反映されています。その中には、2030年までに再生可能エネルギーの割合を国全体の需要の70%に引き上げること、2050年までにカーボンニュートラルを達成すること、石炭火力発電の新規案件をこれ以上増やさないことなどが含まれています。スリランカは、「新規石炭発電ゼロのためのエネルギー協定」の共同リーダーであることを誇りに思っています。・・・

スリランカの環境に関する先進的なアジェンダは、発展途上国として直面する資源の制約にもかかわらず、実現されています。・・・

今生きている私たちは皆、未来の世代のためにこの地球を守っているのです。
(引用終り)

 

地球を守るために、大統領はバカげた地球温暖化対策を真面目に実行した結果、スリランカの国民を貧困に陥れ、経済を滅茶苦茶にし、挙句に追放されてしまった。なかなか教訓的な物語である。

しかし、こんな炭素とか窒素という人間というか自然に取って必要な元素を下らない間違った地球温暖化説によって否定して、全くキチガイじみた思考と判断であることを、横っ面をひっぱたかれるまで気が付かないのである。

 

もう少し、杉山氏の文を引用する。

「だが、有機農業というのは、一部の余裕のある人々のための贅沢に過ぎないのだ。

 過去、世界の作物の生産性は上がり続けてきた。これは化学肥料、特に窒素肥料の賜物だった。それは大気中に豊富に存在する窒素から、高温・高圧の化学反応プロセスを経てアンモニアを合成するという「ハーバー・ボッシュ法」によってもたらされたものだ。

 その他にも、品種改良、農薬、機械化、灌漑など、さまざまな技術によって生産性は上がり、世界人口は増加したにも関わらず、世界の人々に栄養状態は劇的に改善した。化学肥料の禁止は、この成果を台無しにするものだった。

 スリランカの破綻は、科学的知見と一般の人々の本当のニーズではなく、エリートの願望や偏見に従って政策が形成された場合に、いかに悲惨なことが起きるのかをまざまざと教えている。 

この有害な環境政策の悲惨な結果は、多くのスリランカ人にとって、世界的な機関や世界的な決定によって外部から押し付けられたものと感じられるだろう。

 スリランカの苦しみは、温暖化対策のためにCO2や亜酸化窒素などの温室効果ガスの排出をゼロにするという「ネット・ゼロ」を目指すという政府の目標によって、さらに悪化したことも疑いようがない。

(引用終り)

 

このスリランカの失敗を今オランダもしようとしているのである。そして国民から総スカンを喰らっているのだが、政府は頭をやられてしまっているから、正しいことをやっていると思いこんで、反省する気はない。

 

畜産国オランダでは、肥料や家畜のふんから温室効果ガスの一種の窒素が放出されるからこれを削減しないといけない、とオランダ政府は考えた。

2019年10月に「窒素排出量削減」のため、なんとオランダを代表する産業である畜産農家に対して規模縮小を図る方針を打ち出したのである。農業が温暖化の犯人だと決めつけた。

 

オランダは日本の九州ほどの面積しかない一方、農産品輸出額がアメリカに次ぐ第2位の農業大国であり家畜の飼育頭数も多い国のようだ。

1750万人が住み小国ながら人口密度の高いオランダは、家畜の飼育密度も高い。牛約400万頭、豚約1200万頭、鶏約1億羽が飼育されているという。米国に次ぐ世界第2位の農産物輸出国であり、農業は国内の温室ガス排出量の16パーセントを占める。

 

 政府は農家の経営多角化や事業転換、技術革新などを推進する他、農地が自然保護区に近い場合は移転も支援するという。ただ、要請に応じない農民に対しては、土地の没収などの非常に厳しい手段を講じる可能性もあると警告している。

他にもう選択肢がないというのが政府の主張だ。こういう言い方がそもそも狂っている証拠なのだ。スリランカのように国家破綻する可能性が大いにあるが、国家破綻しても地球温暖化防止のほうが彼らにとって大事なのである。

 

この「窒素排出量削減」のための畜産農家規模縮小(家畜頭数を削減)方針を受けて、オランダの酪農家を含む何千人もの農家たちが、大規模なデモを起こした。

このデモで全国の畜産農業者たちは、政府に抗議をするため、国会のあるハーグにトラクターで乗り付けたり、全国の高速道路をトラクターで実質占拠し、オランダ史上最長となる合計1000km以上の大交通渋滞を引き起こしたのである。

しかし、ヨーロッパ各国はオランダ農民反乱に大きな理解を示しているという。これは救いだ。

 

昔、地球温暖化の原因は何かと言われていた頃、炭素だけでなく窒素やメタンガスも挙げられていた。

その当時は牛などのゲップに含まれるメタンガスも地球温暖化への影響があるから、牛もみんな殺さなくてはと冗談にしていたが、それが冗談ではなくなってきたのである。それは地球温暖化に切羽詰まったというより、人間のというか特に政治家の頭が壊れてきた証明なのであろう。

牛のゲップの話をしていたころ、いやCO2を一番出すのは人間の吐く息だろう。人間が一番CO2を出しているんだから、人間も削減しないといけない、なんて笑い話をしていたが、コロナワクチンその他人間減少化計画が本気で進められているのだ。

 

しかも、このスリランカやオランダの窒素削減計画は、世界中に狂った政治家が沢山いるから、このキチガイ政策は世界中に伝搬していくに違いない。当然日本も化学肥料は使うのは止めようと言いだすに違いない。だから、日本のマスコミは、化学肥料削減の失敗例であるスリランカとオランダ農民反乱について、全く報じようとしないのである。

 

そして、この窒素削減計画は、「彼ら」の頭の中では、地球温暖化防止ばかりでなく、世界の農業を衰退させて、人工的に食糧危機を起こし、世界の人口削減を考えているのである。

戦争、パンデミック、食糧危機、これらはみな世界の人口削減につながる。これは陰謀論なのだろうか。