今年の7月の出来事だが、今頃報道された。市の決定が遅いからか。

 

市立小でプールへの給水止め忘れ、校長ら3人に132万円請求へ…料金の半額相当

12/25(土) 読売新聞

 高知市立初月小で7月、約1週間にわたりプールへの給水を止め忘れ、例年より270万円余り多い下水道料金が生じた問題で、市は24日までに、過失責任があるとして校長と教頭、担当教諭の3人に、ほぼ半額相当の計132万円の支払いを求めることを決めた。

 市教委によると、過失割合は校長と教頭が各25%、担当教諭が50%で、請求金額と合わせて他の自治体での同様事例や裁判の判例などを参考にした。

 

 

これと同様の案件、プールへの給水止め忘れで水道料金の高額請求が発生し、ミスした教諭に支払わせたというニュースは過去に結構発生している。またかよ、という感じだ。

 

例えば、千葉の小学校では、プールの栓を閉め忘れ、18日間出しっ放しで、水道料金請求が440万円にもなり、校長ら3人が全額を返済したという。神奈川県綾瀬市の小学校では116万円の水道料金請求が発生し、関係者7人で分担した。

また、プールではないが、神戸市では庁舎地下にある受水槽の排水弁を閉め忘れてしまい、神戸市水道局が指摘するまでの1カ月間、水は流れ続け、水道代が約600万円も余計にかかったという。

県庁は職員に対し、約300万円の賠償を求め、すでに支払い済みだという。

 

これは水道に関わる社員・職員はたまったものじゃない。下手すりゃ破産、離婚の危機も。保険に入らないと危なくてしようがないというもんだ。

もちろん担当者のミスで損害が発生したのだから単に謝れば済むというわけではなく、処分も当然だろうが、余りの高額賠償金を職員のみに負担させていいものだろうか。

 

弁護士ドットコムニュースでも指摘している。

「業務中のミスで発生した損害について、使用者が労働者(被用者)に対して賠償を求められる(=求償)のかという点では、「茨石事件(最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決)」という有名な判例がある。タンクローリーで衝突事故を起こした運転手に、働いていた会社が損害賠償を求めた事件だ。

この中で最高裁は、事業の規模や性格、業務内容や労働条件などの諸事情に照らしたうえで、「信義則上相当と認められる限度」で請求が認められるとしている。

ただし、実務上は求償が認められるケースはそんなに多くはない。たとえば、居酒屋店員が店の皿を割ったなどというレベルでは、賠償の必要はないと考えられる。

 

なお、民間と公務員では違いもある。行政法の研究者でもある平裕介弁護士は、「公務員の場合は、軽過失だと求償権が条文上否定されています」と説明する。

国家賠償法1条2項では、公務員が求償されることがある場合について、故意または重過失があるときとしているのだ。これは萎縮せずに公務に当たれるようにするなどの趣旨だと解されている。

ただ、バルブの閉め忘れによる大量の水流出は、「重大な過失」として扱われうるようだ。

 

「今回の県庁のケースは、公権力の行使に当る公務員が自治体以外の他人に損害を加えた場合(国家賠償法1条1項)ではなく、同条2項が適用されるわけではありません。

とはいえ、公務員に賠償責任を負わせると酷であり公務執行の円滑を損なうおそれがあるため、今回のような場合にも同項の趣旨は妥当しうると考えられます。

ですから、今回のケースにおいても同項の趣旨を全く考慮しないというのは妥当ではなく、公務員の賠償責任の範囲については慎重な検討がなされるべきでしょう」(平弁護士)

●行政側の体制の不備も考慮される

さて、今回のケースについては、職員に請求するのは酷だという声もあがっている。

「裁判にまでなるケースがほとんどないため、必ずしも実態は分かりませんが、裁判例の中には、重過失のあった公務員への8割の求償を認めたものもあります(浦和地裁判決)。

ただし、事実関係(特に賠償額)によっては公務員に酷だろうと思います。今回のケースも、公務員が求償される場合と概ね同様に、自治体は、損害の公平の分担という見地から信義則上相当と認められる限度で公務員に賠償請求をすることができると考えられます。(後略)」(平弁護士)

求償の割合については、行政側の確認体制(本件では例えばダブルチェックの体制)の不備なども考慮される。たとえば、ミスを予防する仕組みがないなども含まれる場合があるという。

なお、求償されたり、裁判を起こされたりした場合などに備えて、共済組合や民間が提供する「公務員賠償責任保険」というものもある。」

 

やはり重過失のある・なしが争点になるはずで、安易に職員に高額賠償させるのは問題がある。一般のブログもこの職員への賠償請求について書いている人がいる。

 

梅野弘之オフィシャルブログ 2021.12.28

…今どき、電気を点けたり消したり、水を出したり止めたり、何だって自動化でき、遠隔操作できるのだ。 プールの水栓の開け閉めがオートで出来ないはずがない。何ならそうした管理を外注(アウトソーシング)する手だってある。なぜ、そこに手を付けない。「市民の財産に大きな損害を与えた」というなら、何も手を打たないできた市や教育委員会も同罪だろう。

 現場は、特に小学校はマンパワーが圧倒的に不足していると思われる。何でもかんでもやらなきゃならないクソ忙しい小学校(中学校もそうだけど)の先生に、これ以上負担をかけてはいけない。
システムで防げることをいつまでも人力に頼ろうとするから、このようなことになる。

 ミスは自腹で埋めろ。これこそブラック企業そのものやり方で、こんなことでは教員希望者がさらに減って行くぞ。」

これはまさに正論ではないか。

 

もうひとつ他のブログ。

「…結局個別案件としての対処のみで、事後に対策してもそれを共有していこうと言う考え方も仕組みもないんでしょうね。そもそもヒューマンエラーは起こる前提で、仕組みをきちんと作って共有しなければ今後も同じ事案は起こり続けるでしょうにね・・
 現場の先生方にマンパワーの余裕がないのなら、こうした管理はアウトソーシングするとか考えていかないと駄目だと個人的には思います。

 なんでもかんでも教師が現場で対応しろ では、ブラック企業と変わらない発想。」

 

ミスは人間である限り誰でもある。ミスは当然よくないが、それを防ぐ手立ても考えていかないと同様なミスはなくならないのである。

 

さて、私の意見は次のようなものだ。

システムでミスを防げとか職員への高額請求はやり過ぎについては大賛成なのだが、ミスによる損害の大きさと職員の処遇はマッチしているのかという観点にも目を向けるべきではないかと考えるのである。

もちろん与えられた職務を完全に果たせるなら何の問題はない。

 

しかし、この世の中、なぜか理不尽に出来ていて、リスクの高い業務に付く人間とそうでない人間が必ずいる。

そして、少しの危険手当は払われるかもしないが、報酬はどちらもほぼ変わらない。むしろリスクの少ない業務のほうが報酬も評価も人事も高い場合すらある。

 

例えば、営業職と総務・人事・労務・経理職、現場の警官・消防士と内勤職員、最前線の部隊と参謀本部等々。

見てないが半沢直樹の銀行員物語や証券会社の営業マンの朝礼での不成績者への叱咤等々。

それが任務であり、それにより給料をもらっているとはいえ、フロントとバック、フロントとスタッフの業務の困難さ、リスクはそれ以外と比べて歴然としている。人事・経理部門が叱責されるシーンなど見たことが無い。

 

私も現役時代に法人営業や代理店営業を担当していたが、営業成績が芳しくないと経営企画部門なるものから、常に嫌味を言われたものだ。

その時腹の中では「やれるもんなら、お前がやってみろ」と毒づいた。腹の中だけなのが残念だが。

 

現役時代の会社は、不思議に総務・人事・経理(総人労と呼ばれていた)系が出世をしていった。なぜって、売り上げ等目に見える評価指標がないから、失敗がない。いい加減で口先だけで上司に取り入って出世をしていくのだ。

リスクのある仕事をしても当たり前に見られて評価されず、リスクのない仕事をして威張る、出世をしていく理不尽。

 

軍部の現場部隊と参謀の関係も同様だ。

いつまでも参謀本部勤めのエリート軍人がいる。陸軍大学を優等の成績で卒業した、頭が切れる等々。

しかし、日本(だけではない)の軍部も参謀本部勤めから現場部隊に送られる軍人も多くいた。それは制度としてはいいのだが、いつもスタッフ部門が命令を下す立場になり、昨日まで参謀本部で現場に命令していた者がひとたび現場に出れば、昨日まで部下だった参謀の命令に従わなければならない。

 

どこでもフロントはリスクがある割に虐(しいた)げられる宿命にあるらしい。

プールの水道栓の締め忘れのミスで過剰な責任を問われる理不尽を、少し世の中に広げてみることも必要ではないか、と思った次第である。