なるほどメモ㉒

「清潔症候群って」
「皮膚は、<わたし>と<わたしでないもの>とを分かつもっともベーシックな境界面でもあり、だからそこには身体の無意識といったものがストレートに表出されることになるのです。その皮膚が、この十年ほどのあいだ、強迫的ともいえる一つの観念に覆われてきたような気がします。<清潔>という観念です。

清潔とは、要するに汚染度ゼロということです。つまり混じりけのない状態。清潔という強迫観念は、「純愛」症候群や口腔神経症といった現象とたぶん無縁ではないのです。清潔というとすぐに身体の衛生学的な状態が思い浮かびますが、ほんとうは他の人間との関わりという次元のほうが問題なのだと思います。
 じぶんというものを他者から徹底して隔離しておこうという意識、そこには<わたし>というものの同一性の衰弱が映し出されているようにみえます。自他の境界を揺るぎないかたちで確認しておこうとしても、その免疫力が弱いところでは、自分以外のものを消去し、無化するという仕方で自己のバリアを防御するしか手がありません。つまり、異物をたえず摘発しつづけないではじぶんを保持できないような状態のことなのです。そうした純粋さをわたしたちは即物的に実現しようとします。異質なものを一種のウイルスとしてとらえ、身体の内部から、身体の表面から、そうした毒性をもった存在を徹底的に排除していこうとするわけです。清潔症候群と呼ばれる現象も、そういう心性に根ざしているのではないかと思います。」
(鷲田清一「ひとはなぜ服を着るのか」(HKライブラリー)より)


 皮膚という身体性と自己と他者をめぐる不安な関係。うまくコントロールできないと「病」として発現してしまうやっかいな関係。人間の無意識のうちの身体と精神の関係。それが個人にとどまらず社会へと広がっていく現代。難しいもんですねぇ。

(昔書いた「なるほどメモ」終り)

 

今の日本はコロナによって、部分的であったはずの清潔症候群が全国民規模に拡大してしまった。

「じぶんというものを他者から徹底して隔離しておこうという意識、そこには<わたし>というものの同一性の衰弱が映し出されているようにみえます。自他の境界を揺るぎないかたちで確認しておこうとしても、その免疫力が弱いところでは、自分以外のものを消去し、無化するという仕方で自己のバリアを防御するしか手がありません。つまり、異物をたえず摘発しつづけないではじぶんを保持できないような状態のことなのです。」

 

国家が率先して「異物をたえず摘発」する社会になってしまった。しかもその摘発に後ろめたさも感じずに、しゃかりきになって。ワクチンパスポートがその最たるもの。いつになったら正常に戻るのか。

尾身はこういうことを考えたことあるんだろうか。