韓国の漁業指導船指導員の男が北朝鮮海上で射殺・焼却されたという重大事件について、文在寅大統領の対応がかなり遅れたという批判が韓国国内で起きていたが、な、なんと金正恩委員長自ら韓国側に謝罪したという。「南側の同胞たちに大きな失望感を与え、非常に申し訳ない」と。

金正恩の生死が不明の中ではあるが、まずは、金正恩が韓国に謝罪したのは前代未聞といえよう。

 

普通、共産国家は絶対に謝罪をしない。その北朝鮮が短時間で謝罪したということは、単に文在寅との信頼を崩したくない、という理由では誰も納得しないだろう。

そもそも、北は年がら年中韓国を、そして文在寅を罵ってきたのである。

例えば。

「脱北者人間のクズと文在寅のアホを、遅きに失したと後悔させる必要がある」

「対南ビラ散布だけでなく、分界線を一瞬で越えて行って、文在寅のヤツのくちばしに糞をひしゃくで注ぎ込んでやりたいが、そうしたところで憤怒はおさまらないだろう」

等々。

10年前には韓国哨戒艦天安が、朝鮮人民軍の魚雷攻撃で撃沈され、50名近くが死亡した事件も発生したが、北は謝罪などしていない。当時の大統領は李明博であった。

北の謝罪理由は何なのか、謝罪は弱腰姿勢そのものだが、その背景・深謀遠慮はなにか。そしてこれは北と南の今日の関係を示す大きな証拠といえよう。

 

それを考える前に、この韓国民を北が射殺・焼却した事件を時系列で追ってみよう。(「JBpress」より)

李正宣氏はその経緯についての韓国内の反応について報告している。

 

文在寅、自国民を銃殺・焼却されても北朝鮮に甘い顔

どれだけ北に虐げられても「南北関係改善」最優先を止める気なし

2020.9.25(金) 李 正宣(ジャーナリスト)

 韓国と北朝鮮との海洋境界線であるNLL(北方限界線)付近で、韓国男性が北朝鮮軍によって射殺され、遺体が焼却されるという衝撃的な事件が発生した。韓国国防部の発表と韓国メディアの報道を総合して事件の全貌と韓国政府の動きを時系列でまとめると次のようになる。

銃撃、そしてガソリンを撒いて遺体焼却

21日>
・午前1130分頃 西海上のNLL(北方限界線)以南に13キロ離れた海で業務遂行中だった漁業指導船の船員たちは、海洋水産部所属の公務員Aさん(47)が行方不明になった事実を確認。

・午後051分頃 同僚がAさんの失踪届を出す。その後、海軍と海洋警察などは20隻余りの船舶と2機の航空機を動員して精密捜索を行ったが、A氏を見つけることができず。

22日>
・午後330分頃 韓国軍は監視装置を通じて北朝鮮の船舶がA氏を発見したという状況を把握した。当時、A氏は救命胴衣を着て浮遊物に乗っていた。

・午後440分頃 北朝鮮船舶の乗組員がA氏から漂流の経緯を確認し、「越北」との陳述を聞いたものと推定。この時、A氏は海に浮かんだまま審問を受けた模様。

・午後636分頃 文大統領に書面でA氏事件を最初に報告。

・午後9時頃 北朝鮮の上部から銃撃指示が下されたことを韓国軍が把握。

・午後940分頃 北朝鮮の取締艇、海に浮かんでいるA氏を銃撃。

・午後10時頃 北朝鮮軍、防毒マスクと防護服を着用したまま遺体に接近、ガソリンを撒いて遺体を焼却。

・午後1030分頃 大統領府に「射殺」情報が入る。

・午後11時頃 徐旭国防部長官および大統領府危機管理センターが緊急会議を開く。

23日>
・午前1時~230分 大統領府で関係長官会議が召集される。徐薫大統領府安保室長、朴智元国情院長、李仁栄統一部長官、徐旭国防部長官などが出席。

・午前126分頃 文大統領、第75回の国連総会にて事前録画のビデオによる基調演説。
「朝鮮半島で戦争は完全に、そして永久的に終息しなければならない。その始まりは、平和に対する互いの意志が確認できる韓半島終戦宣言だ」

・午前830分頃 北朝鮮軍による韓国人射殺事件を文大統領に対面報告。

・午後130分頃 国防部が初めてA氏の失踪事件をマスコミに公開。ただし、A氏の生存可否については確認が必要だと説明。

24日>
・午前8時頃 大統領が府関係長官会議を招集。

・午前9時頃 安保室長と秘書室長が文大統領に対面報告。

・午前11時頃、国防部が初の立場文を発表。
「北朝鮮の蛮行を強く糾弾し、これに対する北朝鮮の釈明と責任者処罰を強く求める」

・午後0時 徐薫室長の主催で大統領府NSC(国家安保会議)召集。会議後、「北朝鮮軍の行為は国際法と人道主義に反する行動であり、強く糾弾する」という声明発表。

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 国防部がA氏の位置を把握していながらも、6時間後に彼が銃殺されて燃やされるまで韓国政府や国防部が手をこまねいて見ていたことに、韓国世論は激しく憤った。政府当局はそれぞれ、「北朝鮮側海域で起きた事件」「射殺して燃やすとは想像できなかった」(国防部)、「北朝鮮との連絡チャンネルが切れた状態」「北朝鮮側と連絡する手段がない」(統一部)などと釈明したが、これがかえって国民の怒りに油を注いだ。

 大統領府の対応も疑問視されている。特に文大統領が最初に報告を受けたのが22日の午後635分で、その4時間後の1030分には「射殺情報」も受けながらも、23日未明の国連総会で「終戦宣言」を訴える演説を行ったことに批判が殺到しているのだ。

これに対して大統領府は、「演説は事前に録画されたもので内容を修正することはできなかった」と説明した。

 しかし、演説終了後の23日午前の時点になっても、文在寅大統領は自身のツイートで国連総会の記事をリツイートしつつ、「終戦宣言を通じて和解と繁栄の時代に前進できるよう国連と国際社会が力を集めてほしい」という内容の書き込みを相次いで掲載。その日の午後に行われた軍将官の進級申告式でも「平和の時代はまっすぐ進む道ではない。進展があったが、時には後退もあり、時には停止し、時には道が閉ざされたようにも見える」と述べ、一日中、やたらと平和を強調していたのだ。

 文大統領がようやくこの不幸な事件に対する立場を明らかにしたのは、射殺情報を入手してから43時間後の24日午後4時ごろだ。

「衝撃的な事件で非常に残念だ。いかなる理由であれ容認できない」というメッセージを出したが、遅すぎる大統領のメッセージは韓国国民の胸に届いたとはとても言えなかった。

 

大統領府関係者、遺体焼却を「火葬」と表現

 大統領府のブリーフィング過程でも記者たちとの衝突があった。

 大統領府関係者が、北朝鮮軍が遺体を燃やしたことを「火葬」と表現すると、記者から「火葬は文字通り葬儀手続き」「火葬と遺体の損傷、どちらの状況だと認識しているのか」という指摘があった。慌てた大統領府の関係者は「損傷と見なした」と言葉を訂正した。

 それでも終戦宣言に対する立場は変わらないかという質問には、「『事故』があったが、南北関係は持続し、堅持されなければならない関係だ」と述べた。そこでまた記者が「事故」というワーディングを指摘すると、「ただの事故ではなく、反人倫的な行為があった」と訂正するような始末だった。

 

 野党と一部のメディアは、事件を認知してから2日も過ぎてマスコミに公開した点を挙げ、「隠蔽疑惑」を提起している。23日の文大統領の国連演説が台無しにならないよう、政府が事件の公開時期を調整したという主張だ。24日の午前、国防部による背景事情説明のためのブリーフィングに出席した記者らも隠ぺいの疑惑を提起し、強く反発した。

(中略)

 これまで文在寅政権は、南北関係の改善という政権の「レガシー」のため、度重なる北朝鮮の挑発にただただ耐えてきた。17回のミサイル挑発、韓国人の税金170億ウォンが投入された南北連絡事務所の爆破、そして韓国の民間人を射殺および火刑した今回の事件があっても、「919南北軍事合意違反ではない」という立場をオウムのように繰り返している。こうした文在寅政権の「対北朝鮮屈従外交」に、韓国国民はいつまで忍耐することができるだろうか。」

 (引用終り)

 

事件を認知してから2日も過ぎてマスコミに公開したり、文在寅が事件にコメントしなかったりしたのは、直接的には野党が主張するように文在寅の「国連演説が台無しにならないよう」ということだろう。

しかし、それだけだったのだろうか。

この記事を書いた李正宣氏がいうように、文在寅政権の「対北朝鮮屈従外交」のため、北朝鮮を怒らせたくないということが一番重要事だったに違いない。つまり、自国民の命より北朝鮮ファーストが文在寅の方針なのである。

だから事件を公開しても、遺体焼却を「火葬」と表現したり、射殺を事故と言ったり最大限北朝鮮に配慮した態度、もう独立国家とは言えない北朝鮮の属国のような態度、自分が起こした事件ではないのに、北を怒らせたくないというビクついた態度は終始一貫しているのである。

 

しかし、それは今の文在寅大統領には「やり過ぎ」であり、少し反省したのではなかったか。

なぜなら、今文在寅を取り巻く国内状況はすこぶる厳しいものがある。

慰安婦支援団体不正、住宅価格高騰の不動産政策失敗の経済面やいくつものスキャンダル、タマネギ女と言われる秋美愛法務部長官疑惑追及、ソウル市長自殺事件(これは文在寅派の謀略ではないかと私は見ている)又つい最近文在寅自身の私邸に対する投機疑惑まで出てきたのである。それやこれやで大統領支持率は下がるばかりだ。

 

そんな中での韓国民を北が射殺・焼却した事件についての公開の遅れだ。これは国民にセウォル号沈没事故の際の朴槿恵大統領の「空白の7時間」を思い出させる。国民の怒りが国の最高リーダー不信に目が向けられる。

何事にも呑気、のんびり、我関せず、を常に装っていた文在寅としても、この北による射殺・焼却事件への批判の大きさに戸惑ったのではないか。

 

そこでいつもの私の妄想(仮説)が始まる。

つまり、困った文在寅は、北朝鮮の金正恩に泣きついたのではないか。助けてくれ、と。

金正恩は死亡又は寝たきりの可能性があるのだが、妹与正は、ある条件の下に文在寅の望みをかなえてやろうと考えた。北はコロナと台風被害とこれまでの経済制裁で瀕死の状態にある。そのため、北への経済援助(監視を逃れながらで難しいが)を文在寅に約束させたのではないか。

文在寅はいつものことで、出来ないことも簡単に約束をする。制裁逃れは国際監視が強まっていてかなり困難なはずだが、そんなことはお構いなしで北の援助を安請け合いした。金と物資を。

北の文在寅への助け船は、前代未聞の謝罪である。

「南側の同胞たちに大きな失望感を与え、非常に申し訳ない」と。

この謝罪は金正恩、与正にとって、危うい選択のはずだ。

北が悪いのでなく、韓国の奴が悪いんだと思っているのに、謝罪するとは弱腰すぎる!と北の軍部強硬派は当然怒るだろう。

だから、この程度の事件で謝罪など絶対にあり得ないのだ。

しかし、謝罪をした!あの罵倒をくり返した文在寅に対してである。

そこで考えられるのは、謝罪などしたくないが、背に腹は代えられぬという北の切羽詰まった事情である。これは軍部強硬派でさえ認めるしかないほど北の国内は窮乏しているのであろう。

だから、文在寅の依頼を涙を呑んで謝罪したのではないか。

 

しかしである。先にも書いたように、制裁逃れは国際監視が強まっていて、特に韓国が制裁逃れを頻繁にやっているのは国連も米国も周知の事実なのである。そう簡単に瀬取りなどは成功しないだろう。

だから、文在寅の約束は恐らく反故にされるはずだ。

そこで約束を破った文在寅に北の怒りは更に大きくなってぶつけられるだろう。

 

といっても、別に北と文在寅の間で謝罪の取引の事実があったというわけではない。みんな私の妄想にすぎない。しかし、そう考えるしか理由が考えられないような北の前代未聞の謝罪なのである。

 

さて、9月24日発表の文在寅の支持率は、前週より2.2ポイント下落の44.2%だった。不支持率は1.6ポイント上がった51.7%で、3週続けて50%台となった。

 

文在寅にとっては、政策失敗と疑惑だらけの四面楚歌のようであるが、国内的にはそれでも無敵なのである。北による射殺・焼却した事件への対応が遅れて批判が高まろうと、実は文在寅にとっては痛くも痒くもないのである。

というのは、文在寅の政権は盤石で独裁政権は完成したのであるから。

つまり、いくら大統領支持率が下がり、与党支持率が下がっても、選挙では必ず勝つことができる。

それは前回の総選挙で不正が大成功し、全く咎められなかったからだ。いくら支持率が低くて、何百万のデモがあっても次も選挙で不正をやればいいだけの話だ。

 

そして、反対派は全部逮捕し、全部有罪にできる。検察は検事総長を除き全て文在寅派の検事に挿げ替えてしまった。裁判所も最高裁長官から下位の裁判官まで全部文在寅派で揃えた。

韓国では軍部が反政権派になる可能性が高いが、軍部も全て左派軍人にしてしまった。そして、情報機関である国家情報院も全て左翼の文在寅派にすげ替えは終わっている。つまり、三権は分立どころか国家権力は全て文在寅への集中は終わっているのである。

だから一部マスコミや保守野党が騒いでも、危険水域に至れば全て逮捕すればいいのである。

 

しかし、経済面で成功すればいいが、経済音痴の文在寅にはなにも出来ない。そして国民の不満が高まり、文在寅の独裁を国民が目の当たりにした時、日本と異なり、必ず国民は暴発するだろう。想像するに、私はそういう状況は必ず来ると思っている。

そのとき、文在寅は国民を中国天安門事件のように弾圧しまくるのか。北朝鮮はどう出るのか。それはあと数年経ってみないと分からない。

日本は知らん顔しているのが一番である。