巷ではマスクを付けていなければ、そこら中にいるひとり自警団なる「自粛警察」がすぐに出動して、注意、叱責果ては暴行にまで及ぶそうだが、正論爺さんが少し前に出現したが、正しいと思い込んだら日本人に似合わぬ行動力を発揮する「自粛警察」。コロナ現象の負の側面だ。

 

そんな「自粛警察」の厳格精神を発揮した裁判官まで現れた。「俺、コロナだよ」の営業妨害で10カ月の実刑判決とはちょっとやりすぎだろう。

 

「俺コロナ」と叫び営業妨害 男に実刑判決 名古屋地裁(NHKニュース)

2020626

ことし3月、名古屋市の家電量販店で「俺、コロナだよ」と叫び店の営業を妨害した罪に問われた男に、名古屋地方裁判所は「新型コロナウイルスの感染拡大が社会問題になっていたことからすると、発言が社会に及ぼした影響は大きい」として懲役10か月の実刑判決を言い渡しました

名古屋市中村区の派遣社員、岸野尚史被告(43)はことし3月、名古屋市中村区の家電量販店で、店員に「俺、コロナだよ」と叫び、消毒作業をさせるなど店の営業を妨害した罪に問われました。
裁判で、被告は「スマートフォンの契約手続きの待ち時間が長くていらだち、冗談のつもりで言った」と述べていました。
26日の判決で名古屋地方裁判所の田邊三保子裁判官は「酒に酔った状態で安易に発言したと考えられるが、当時、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な社会問題になっていたことからすると、被告の発言が店の営業のみならず社会に及ぼした影響は大きく、結果は重大だ」と述べ、懲役10か月の実刑を言い渡しました。
言い渡しのあと田邊裁判官は「起こしてしまったことは思っている以上に大きく、実刑はやむをえないと判断した」と被告に向かって述べました。

(引用終り)

 

最近は不起訴が多く、恐らく示談で金で解決していることが予想される。つまり、金持ちならあるいは逮捕されても(盗みや脱税)、払えばいいんだろう、とばかりに罪に問われない。また、殺人を犯しても、一人なら刑は思ったより軽く、数年の刑にしかならない。先日は覚醒剤を隠したスーツケースを成田空港に持ち込み密輸したとして、覚醒剤取締法違反などの罪に問われたスロバキア国籍の男性被告に、千葉地裁は「同意も令状もなく手荷物の解体検査をしており、税関の検査には重大な違法性がある」として無罪判決を言い渡している。

総じて日本の裁判官の判決の刑は軽いのである。

 

しかし、今回の「俺コロナ」営業妨害判決、前科があるとはいえ、懲役10カ月の実刑とは、この被告に何の縁もゆかりもないけれど、常識的に考えて重すぎる判決といえないか。

 

おばさん裁判官は、コロナ禍で社会が騒然としていたことに、裁判官自身もその中に巻き込まれて裁判官の冷静さを失っていると思われる。

 

「酒に酔った状態で安易に発言したと考えられるが、当時、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な社会問題になっていたことからすると、被告の発言が店の営業のみならず社会に及ぼした影響は大きく、結果は重大だ」

 

店の営業を妨害したのは確かだが、器物損壊や人的外傷を負わせたわけでもない。自分の番が来るのが遅いことから、酒に酔った勢いで、つい余計なこと、特に今社会がピリピリしていることを口走った。それに店側はビックリしたのだが、コロナ陽性を認識した上での威嚇ではなかったのだから、常識的に考えれば冗談が過ぎた、で済まされるはずだ。

 

それを「当時、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な社会問題になっていたことからすると、被告の発言が店の営業のみならず社会に及ぼした影響は大きく、結果は重大だ」は全く大げさな言い分だ。

 

普通のおっさんが、自粛警察になぜ走るかというと、コロナへの不安から寛容の精神はどこかに飛んでしまい、ルールに外れている者は絶対に許せない、制裁を加えてやるとして自分の身を守ろうとしているのである。

それは「感染拡大が深刻な社会問題になっていた」からといって、冷静に考えればやりすぎだということがわかるだろう。そしてやりすぎ自体が社会を不安に陥れている。

 

この裁判官はまさにこの自粛警察員と同じような心性に陥っている。

被告の発言が店の営業のみならず社会に及ぼした影響は大きく、結果は重大だ」

なんていうのは、裁判官の不安の表れかつ妄想のたぐいだ。

 

「俺コロナ」が「社会に及ぼした影響は大きい」とはいえないだろう。それは一家電店内での出来事なんだから、警察が検束して何も外部に騒がなければ、何ら社会に影響は及ぼしていない。単にマスコミが面白がって扱ったから、社会がそれに怒ったに過ぎない。

 

「結果は重大だ」というが、デマと同じで、マスコミが騒いだから結果が大きくなっただけで、「俺コロナ」の言葉が大きく独り歩きして、社会に重大な影響を及ぼす、なんていう判断はまさに「自粛警察」そのものだ。

 

この裁判官は、一罰百戒を考えたのだろうが、被告のことは何も意識に登っていない。おそらく、前科者だからこの厳しい判決でガツンとやってやろうと思ったのではないか。

 

当時、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な社会問題になっていたことからすると、被告の発言が店の営業のみならず社会に及ぼした影響は大きく、結果は重大だ」という判決理由をみていると、韓国の国民情緒法または国民感情法を思い出す。(実際にはそんな法律はないのだけれど)

 

韓国では国民世論次第で刑罰が決まるようなのだが、wikiの説明を見ると、

「国民情緒法または国民感情法とは、国民世論次第で判決が決まるなど罪刑法定主義が崩れがちな韓国の社会風潮をマスメディアなどが皮肉った言葉である。国民情緒に合うという条件さえ満たせば、行政・立法・司法は実定法に拘束されない判断・判決を出せるという意味である。

皮肉を込めて「〇〇法」という名が付くが、韓国における法律の類ではなく、不文律であり、法律や条例、条約、大韓民国憲法さえも超越する法の軽視の風潮を揶揄した言葉である。一部の市民団体(圧力団体)や学者の私見によって具体化され、大衆世論によって成否が判断され、これを韓国メディアが後押しすることで、国民情緒法は(比喩的に言って)「制定」される。

法の支配や時効や法の不遡及といった近代法の原則すら時に無視され、国民情緒という揺らぎやすい世論に迎合して、いかなる裁定をも下すことができるとされる。」

(引用終り)

 

「国民世論次第で判決が決まり、国民情緒という揺らぎやすい世論に迎合して、いかなる裁定をも下すことができるとされる」韓国の国民情緒法。

 

日本の名古屋地裁のおばさん裁判官も、日本社会がコロナでイラついており、それに乗じて店従業員を冗談にも脅すなんて太い奴だ、許せん、と日本社会の情緒にまさに迎合したのである。

そういう意味では、「俺コロナ」といった男の発言の「結果は重大だ」というより、この自粛裁判官が、社会の情緒に合わせ、それに流された判決、つまり権力の乱用の方が余程「結果は重大だ」と言えないだろうか。