老後2000万円赤字報告書がこんなにも大騒ぎになると思っていなかったのは、当の金融庁幹部であるに違いない。

参議院選を控えているとはいえ、いくら政局には無関係の金融庁でも政府・自民党を揺るがす問題になるなんて、全く思わなかっただろう。

彼らの思いは、

「証券会社や信託銀行が儲かるように、ちょっと応援したかっただけだよ。その手段、キャッチコピーとして「老後2000万円赤字」を使って国民を少しばかり脅しただけなのに。ああ、困った、困った、麻生大臣に大目玉、いや処分、左遷を喰らうかもしれないな」

というようなものだろう。中野剛志氏の言葉をもじっていえば、いわば「頭のいい馬鹿の金融庁」ということ。

 

そもそも「老後2000万円赤字」のフレーズの持つインパクトに金融庁は余りにも疎かった。金融庁は単に投資を促す脅し文句として使っただけだが、その意味は政府自民党のこれまでの政策を、頭から否定することになっている。まさに金融庁の管轄外の問題にしゃしゃり出て軽率に宣伝してしまった。

 

麻生大臣、ゲキ怒。

「老後の生活費が年金以外に30年間で約2千万円必要だと記した金融庁の報告書について、麻生太郎財務相兼金融担当相は11日の閣議後の記者会見で、「世間に著しい不安を与えている。政府の政策スタンスとも異なる。正式な報告書としては受け取らない」と述べた。報告書は金融庁の金融審議会の総会を経て麻生氏に提出されるものだが、事実上の撤回に追い込まれた。
報告書内の表現について、麻生氏は「極めて不適切」と述べた。報告書の公表後、野党などから猛反発を招いた上、自民党からも撤回を求められる事態となっていた。」(朝日新聞)

 

金融庁の報告書なんぞこれまでマスコミは見向きもしなかった。だから金融庁の役人は少しインパクトのあることばを使ったのだろう。

この報告書、金融庁の主催する金融審議会市場ワーキンググループで、委員に金融機関や学者などの識者を集めて、国民の安定的な資産形成を図るために、高齢社会における金融サービスのあり方について昨秋から今5月まで議論し「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を作成提出したわけだが、恐らく、報告書の中身はほぼ全て金融庁の若手役人が書いたに違いない。

 

 私は若いとき、会社から旧の経済企画庁に出向してある審議会の事務局を務めたことがあるが、議論のペーパーは全部役人が作り、審議会委員は単にそれにコメントするだけ。それが積み重なって最終報告書が作られた。

 恐らく今も同じことが行われているに違いない。つまり審議会は役人の隠れ蓑で、役人が全てを動かしていく。

しかし、最近の日本の中央官庁の役人の劣化は甚だしく、仕事中にコカインを吸引するくらいだから、この金融庁の杜撰な報告書もさもありなんということか。

 

 そもそもの目的は国民に投資行為を盛んにして、証券会社や銀行に商売をさせたかっただけなのだから、「老後2000万円赤字」なんぞという他人の畑を荒らさなくてもよかったのである。そういうことに気がつかないから、「頭のいい馬鹿の金融庁」といいたくなるのである。

 どうすればよかったのか。簡単なことだ。振り込め詐欺の皆さんに学べばよかったのである。

つまり、貧乏人に投資を勧めるのでなく、金持ちに投資を勧める。個人資産は1400兆円と言われて持っている奴はいくらでも持っているのだ。別にユニクロの柳井正や孫正義や前沢のことを言っているのではない。振り込め詐欺がターゲットにしているのは、そこらにいる金持ち爺さん、婆さんのことだ。息子のためなら、500万円や1000万円を簡単に差し出す金持ち老人のことだ。このご老人たち、500万円や1000万円を振り込め詐欺で取られても、その何倍もの金を持っているからいとも軽々と詐欺に引っかかる、つまり余裕があるから引っかかるのである。

 

金融庁はこういう隠れ資産家をターゲットにして、投資勧誘をすればよかったのである。もっと貯金をしろと貧乏人を脅かすのでなく、金持ちに箪笥預金や普通預金でなく、もっと投資で儲けて老後(もう十分老後だが)を豊かに安心して過ごそうとすべきだったのである。これなら、野党も文句はあるまい。辻元もれんぽうも出番がなかったはずなのだ。

金融庁よ、賢い振り込め詐欺集団に学べ。

 

 さて、辻元もれんぽう氏が俄然張り切りだした。これで参議院選の攻めの焦点が出来たと喜んでいる。これがなかったら、何をもって攻めたらよかったのか。今さら、「モリカケ問題」を蒸し返してもしようがない。攻めるテーマが何もなかったのだ。そこに飛んで火にいる夏の虫とばかりに、金融庁がおいしいテーマを作ってくれた。それも政府自民党のこれまでの政策を全否定してくれたのだから、こりゃ一粒で2度も3度も美味しいといったもんだ。

 

 しかし、ちょっと待ってほしい。国民はそう甘くはない。まあ「モリカケ問題」は政府をただ責めていればいいだけの話だった。対案を示す必要など全くなかった。しかし、今回の年金問題や老後の問題は、絶対に対案が必要なんである。国会では、さすがに安倍首相も立民党のれんぽうに「そんなに問題があるなら、対案を示せ」なんて言わない。言えない。だからそれをいいことに責めてばかりで、勝った勝ったと立民党は喜んでいいのか。

 

国民はバカではない。老後の年金問題は難しいということは誰でもわかっている。政府自民党を責めて、選挙を戦ったとしても、立民党や民民党に対案がなければ、国民は簡単に「じゃあ野党に任せよう」とはいわない。まさに「民主党政権の悪夢」を国民は十分味わっているからだ。

 

立民党と民民党は、「老後2000万円赤字」解決の対案を示すことができるのか。示すべきである。

私はこう責めたからといって、「だから自民党しかないじゃないか」なんて言わない。

日本のこの衰退、不景気は全て自民党の間違った政策にある。アベノミクスといって国民を騙した安倍晋三に責任がある。だから、対案を出せて、国民を説得できたら、自民党に大打撃を与えることができるのであ。

 

しかし、野党にはそれができない。それは自民党と政策は基本的には同じだからだ。緊縮財政、消費税増税、公共事業反対、構造改革、移民賛成等々野党の政策は自民党と全く同じだ。これでは「老後2000万円赤字」解決の対案を示すことはできない。国民はそれを知っている。国会のパフォーマンスに飽き飽きしている。

 

どうすればいいのか。ММTにその答えがある。それを知っているのは自民党の一部の議員とれいわ新選組の山本太郎だ。