貴乃花の仕掛けた相撲協会への反乱・クーデタ・戦争は、弟子の貴公俊の殴打事件発生によりあっけなく潰え去った。これでようやく相撲界全体が平静さを取り戻すことだろう。

 昭和の青年将校が起こした2.26事件を彷彿とさせる貴乃花の反乱であるが、まさに2.26事件の収束の仕方と同様、同調者は全くの幻であり、付いてくるものは皆無で戦線が崩壊し、リーダー貴乃花の全面降伏により終わった。

 

 今後も貴乃花降伏に関する分析記事が出てくるだろうが、今時点で推測できることがいくつかある。というか疑問点がいくつかあると言ったほうがいい。

 

 それはなぜ貴乃花が突然戦意喪失して、相撲協会の軍門に下ってしまったのかということである。

当然きっかけは弟子の貴公俊の殴打事件ではあるが、単に監督不行き届き及び「お前が言うな」程度のことで、あの異常ともいえる貴乃花の不撓不屈精神(?)が崩れるはずがない。

 つまり、降伏理由は表向きは貴公俊の殴打事件にあるものの、それだけでは説明が不可能であり、もっと深い裏の理由があると見なければならない。

 

 私は相撲協会側の、貴乃花への断固として戦う意思、つまり最終処分を示したからだと考えている。

そのきっかけは、貴乃花による内閣府への告発状提出にあったと思われる。つまり、相撲協会も貴乃花のこの行為に堪忍袋の緒が切れたのだ!

 

 貴乃花の告発状は、元横綱日馬富士による傷害事件に関して、「相撲協会の調査は、公正中立な内容とは到底評価できないものであり、身内による全く不十分な調査をもって済ませようとしています」とか、 貴乃花自身が理事を解任されたことについて「法的には、解任事由に相当するような理事の職務義務違反になると認めることは困難なものです」として、公益認定等委員会に立ち入り検査や適切な是正措置などを行う勧告を求めたものだ。

 

 これは相撲協会にとっては、もう許すことのできない行為と取っただろう。相撲協会は貴乃花に対し、苦虫を潰しながら、貴乃花の理不尽な行動に耐えに耐えて、感情的になることなく、諸ルールに則って粛々と事に当たった。相撲協会側には瑕疵は全くないと自負していたはずだ。

それを貴乃花の嘘とデタラメによってでっち上げられた告発状を内閣府という公の元に提出されたということは、相撲協会の権威を傷つけ、相撲協会組織に全面的な敵対行為を仕掛けてきたことを意味する。

 

 恐らく、この告発状の作成は貴乃花ひとりの意志で出来ているものではないと相撲協会は考えたはずだ。貴乃花のようなバカで先のことなど考えない男が考えるはずがない。

つまり黒幕がいる。貴乃花の黒幕と言えば、ひとりは龍神総宮社の教祖だが、この男に今回のような組織的な対応能力があるとは到底思えない。

であれば、もう一つの黒幕、グループであるが、裏金顧問である小林慶彦元顧問、神山敏夫監事、宗像紀夫元外部理事の3人組であろう

 小林慶彦元顧問は現在地位確認の裁判で相撲協会と係争中。逆に協会から約1億6000万円の損害賠償請求訴訟を起こされ、資産の一部を凍結されている。日刊ゲンダイによると

「裏金顧問はもともと北の湖理事長の右腕として協会内部を牛耳っていた人物。自分にたてつく親方は、たとえ理事だろうと弱みを握って追放したり、理事候補選で落選させたりしてきた。北の湖理事長の容体が悪化すると、貴乃花親方支持に回ったのです」

 また、宗像紀夫元外部理事は月刊誌「WiLL」4月号に「法理にかなった貴乃花の『言い分』」という記事を寄稿、日馬富士暴行事件における危機管理委員会の調査や、貴乃花親方の解任はおかしいという主張に加えて、部屋で暴力事件のあった春日野親方に理事の資格はないとか、理事候補選の選挙方法に問題があるとか色々な注文を付けて貴乃花親方を援護している。

 宗像紀夫は元東京地検特捜部長で恐らく貴乃花の知恵袋だろう。内閣府のさる関係者によれば、その中身は「貴乃花親方が提出した告発状にそっくり」だそうだ。

 神山監事は裏金疑惑で真っ黒な顧問とともに、貴乃花理事を次期理事長に担ごうとしている人物だが、今回退任した。

 

 これら未だ蠢く黒幕に操られた貴乃花の告発状提出に対しては、ここに至っては売られた戦争を受けて立つしかないと相撲協会は考えたに違いない。

 その直後に起きた貴公俊の殴打事件。全くの推測だが相撲協会はこれを奇貨として、貴乃花に戦争を仕掛けた。武器は二つだ。

 

 一つは親方衆の動きの貴乃花への通告。もう一つは、殴打事件処分案の通告だ。この二つが貴乃花を全面降伏に追いやったのだ。

 

一般に言われるような、困ったときは頭を下げても面従腹背で反省なんかしていないと貴乃花の行動を指摘するものがあるが、今回だけはそんな甘い動きには見えない。豹変した貴乃花の言葉の端々をよく聞けば、いつもの不遜な貴乃花のトーンが全くないことに気付くはずだ。

 

一つ目(親方衆)を見てみよう。

マスコミはほとんど貴乃花のありもしないいわゆる相撲協会の改革を信じて支援している。その際必ず言われるのが、若手の親方衆の多くが貴乃花を支持していると。これは貴乃花自身も信じていたのではないか。しかし、実際は全く違っていた。

日刊ゲンダイの記事を見てみよう。

「協会を混乱させ続けた貴乃花親方に対して、親方衆のハラワタは煮えくりかえっている。結果として自分たちの職場をかき回され、生活圏を脅かされたからに他ならない。それこそ「決を取って、理事会に解雇処分案を提出しよう」なんて声も一部では出ていたほどだ。

ある親方はこう話す。
「昨年の日馬富士暴行事件以降の言動や対応を見れば一目瞭然です。角界を本気で変えたい、よいものにしたいと本気で思っているなら、協会からの連絡を無視とか調査に協力しないとかではなしに、もっと建設的なやり方があったはず。しかも理事会では『別に』『特に』などと言うだけなのに、言い分は自分にとって都合のよいメディアを通じて一方的に発信した。その中身にしてもウソや言いがかりがほとんどですからね。そうやって、いたずらに組織を混乱させたのが貴乃花親方です。我々にとって、相撲協会は大切な職場。つまり貴乃花親方は我々の生活の基盤を私利私欲でおびやかし、荒らすだけ荒らしたのです。『すみません』で済む問題じゃないでしょう」

 

「親方衆は生半可な処分じゃ納得しない。解雇すべきという意見がほとんどというか、極端にいえば、101人の親方のうち貴乃花を除いたほぼ全員がクビにするのがベストと考えているんじゃないか。それだけに多数決を取るだけじゃなく、貴乃花を解雇すべきという旨の連判状をしたためて理事会に提出したらどうかという動きまである。中でも貴乃花に対する怒りがすさまじいのは山響親方(47=元前頭巌雄)と阿武松親方(56=元関脇益荒雄)。貴乃花一門やかつての同志ですら、自分たちを貴乃花と一緒にされてはかなわないと怒り心頭さ」

(引用終り)

 

 年寄会というものがあること自体知らなかったが、この会は管理職労働組合のようで、相撲協会への提言などもできるようで力を持っているように思われた。

 その親方衆の多くが貴乃花を批判していたとは全くの驚きだ。如何にマスコミの報道が偏っており、(モリカケばかりでなく)また相撲記者会友と呼ばれる大隅とか山崎とかの老害コメンテーターが如何にいい加減なことを言ってきたか、日刊ゲンダイの記事を読むとよく分かる。

 

 昨日の年寄会臨時総会には、貴乃花を呼びつけてつるし上げた。

「 そんな空気を察知したのだろう。貴乃花親方は総会の冒頭でいきなり、「本日、弁護士の先生が、内閣府に出した告発状の取り下げ状を提出しました」と言ったという。

総会に出席した親方衆の話を総合すると、彼らが何よりアタマにきているのは、この告発状に関してらしい。提出のタイミングは、3月場所直前の年寄総会を欠席したその日。まさに「本場所潰し」だと受け取られても仕方がない。だからこそ貴乃花親方は、先んじて取り下げ状の存在を明かすことで、予防線を張ったのかもしれない。総会ではまず6つの一門の代表者が質問。その後は親方たちによる個別質問という形式だった。

(中略)

抱いていた疑問を次々にぶつける親方衆。怒声が飛び交う中、貴乃花親方は神妙な表情で、「すいません」と平謝りだったという。
 だが、謝罪はしても、説明は一切なし。壊れたテープレコーダーのごとく、「すいません」と繰り返した。二所ノ関一門の代表者として質問を行った高田川親方(元関脇安芸乃島)が言う。
質問に対する答えがないんですよ。何を聞いても、返答は『すいません』『申し訳ありません』『心を入れ替えます』の3つくらいしかなかった。そもそも貴乃花親方は契約解除に値することを、6つも7つもしているんです。7回クビになっていてもおかしくないんです。まあ、それだけ(違反行為を)やれば、(自分が何をやったかも)忘れちゃうでしょ(苦笑い)。ある親方は『すべて私が悪い、と言ったところで、口だけでは信用できない。(誓約書など)何か形に残るものを……』と話していました」

(引用終り)

 このような親方衆全体が貴乃花に批判的だったことを相撲協会は事前に察知していて、強気で貴乃花にその動きを伝えたことだろう。

つまり、「お前には援軍はないぞ」と。

 

昭和の226事件では第1師団歩兵第1連隊、歩兵第3連隊等を動かし、蹶起軍は当初「諸子ノ行動ハ国体顕現ノ至情ニ基クモノト認ム」と評価された。

つまり、貴乃花の行動も相撲協会の改革という「至情ニ基クモノト認ム」と評価されたのだが、評価していたのはデタラメ報道を旨とするマスコミだけであった。

 反乱軍は天皇の逆鱗に触れ、暴徒徹底鎮圧の指示が出された。「兵に告ぐ」を見てみよう。

「(中略)

正しいことをしていると信じていたのに、それが間違って居ったと知ったならば、徒らに今迄の行がかりや、義理上からいつまでも反抗的態度をとって天皇陛下にそむき奉り、逆賊としての汚名を永久に受ける樣なことがあってはならない。

 今からでも決して遅くはないから直ちに抵抗をやめて軍旗の下に復帰する樣にせよ。

そうしたら今迄の罪も許されるのである。

お前達の父兄は勿論のこと、国民全体もそれを心から祈っているのである。

 速かに現在の位置を棄てて帰って来い。

 戒厳司令官 香椎中将   」

 

何だか貴乃花の乱もその動きとよく似ている。貴乃花の乱も誰も付いてくるものがいなかったのだ。そして貴乃花に対して、相撲協会より「兵に告ぐ」と同様な中身が伝えられたことだろう。

年寄会の親方衆がお前をどう見ているか知れ。つまり、貴乃花の乱についてくるものは誰もいない。反乱は失敗に終わったという意味をかみしめよと。

 

 しかし、それだけでは貴乃花は猪突猛進するだけだ。そのため、具体的な罰を通告したものと思われる。それは、「廃業の通告」だったに違いない。

 貴乃花に仲間が多くいるなら、廃業されたら殉教者となって第2相撲協会を設立することが可能だ。マスコミも応援してくれるはずだ。

しかし、誰も付いてこないとなれば、廃業とは、貴乃花の死を意味する。大義があろうが、それを訴える場がなくなれば元も子もなくなる。

 

 それでも突っ走るほど貴乃花はアホではなかった。だから、貴乃花は「これからは一兵卒としてやっていく」「すべてをゼロにしてスタートする」などと発言したのである。これがムチの結果である。これが大いに効いたのである。だから、告発状も取り下げたのである。

 

何故取り下げたのかという質問に貴乃花は答えることができなかった。当然である。改革とか相撲協会が不当であるとかは暴力事件で雲散霧消するものではない。暴力事件を理由に取り下げたとは辻褄が合わないのだ。

 

 貴乃花としては言えないが、理由は一つ。黒幕との決別である。相撲協会に全面屈服したということは、黒幕3人組とも決別したということを意味するのである。だからこんなことは記者に言うことはできないのだ。

(貴乃花が黒幕3人組と決別したかどうかの証拠はないが、相撲協会の許しを得るには決別しかないと考える。たた、貴乃花が金正恩様のようにしたたかであればまた数年後に蠢き始めるかもしれない。しかし、民主党政権のデタラメさを国民が学び記憶に強烈に残している限り復活がありえないのと同様、貴乃花の異常性も親方衆の記憶に深く刻まれたとすれば、黒幕3人組の出る幕はないのではないかと考える。)

 

 下された処分はヒラの年寄への降格だ。これに貴乃花は不満を表さない。余程脅しが効いているに違いない。

ある親方が言う。
「どんな事情があれ、さすがに貴乃花をクビにするのはマズいという判断が上層部で働いたんじゃないか。つまり理事会に解任動議を持ち込まないでくれ、ということでしょう。いまはともかく、現役時代は絶大な人気と知名度を誇った大横綱。クビにすれば、ファンや世間の反発を招きかねない。それに協会から追放してしまったら、貴乃花親方は何をしでかすか分からない。これまでも貴乃花親方はテレビや週刊誌などで散々、協会を批判してきた。失うものがなくなったら、それこそ手段を選ばないだろうからね。」(日刊ゲンダイ)

 

 私の推測からは、この親方の見込みが如何に大甘で間違っているかが分かるだろう。

「それに協会から追放してしまったら、貴乃花親方は何をしでかすか分からない。」という言い方は、まだ何らかの力を貴乃花が有しているときに言うものである。親方衆から見放され、相撲協会から否定されたら、貴乃花の生きていく場は全くないのである。

相撲協会は「クビにすれば、ファンや世間の反発を招きかねない。」も覚悟の上なのだ。戦争をしているのだ。どちらが潰れるのかの戦争なのだ。

貴乃花の異常性は皆が知ってしまったのだ。貴乃花ひとりでは何もできない。20年後にTBSの爆報フライデーで「今貴乃花は!」に出るのがせいぜいなのだ。

 

 そして軍門に下った貴乃花に対しては、余裕で貴乃花にアメを与えた。それが貴佳俊の甘い処分だ。これは、全面降伏した貴乃花への「お礼」ともいえるものだ。

 

 貴乃花へは審判部と指導普及部の配属となったが、これはある意味監視のための処置だ。場外で勝手なことをさせないためだ。日刊ゲンダイもそれに気付いている。

「八角理事長は本場所の土俵下で審判を務めることになった貴乃花親方について、「人気というものがある。お客さんに仕事ぶりを見てほしい」と言った。職場が土俵下なら、さすがに25秒でトンズラというわけにはいかない。

あれだけ協会に刃を向けながら、クビが危うくなった途端、ペコペコと頭を下げ、醜態をファンにさらし続けることになった。」

 

 これでようやく相撲協会も安定した運営ができることだろう。相撲それ自体を楽しむことができるだろう。しかし、稀勢の里問題という相撲本来の問題は解決していない。