序章 2011年01月のある日 | リアルタイム経済小説「極小企業」

序章 2011年01月のある日

僕は、電車の車内でチャイコフスキーヴァイオリン協奏曲を聴いている。

アバド&VPO、ソリストはミルシテイン。
超絶技巧を持つミルシテインがそれを見せびらかすのではなく叙情的に奏で、
それを見事に若き頃のアバド率いるバックが支えている非常に好感の持てる演奏だ。

僕は通勤の車内が好きだ。

何故だかわからない、わからないという事はきっと大きな意味もないのだ。
糞ころがしが糞を転がしている様なモノなのかもしれない。
わざわざ糞を転がさなくても彼らにだって転がす物はたくさんある。
でも、彼らは糞を転がす。そのようなモノだろう。


昨年末に会社を設立し、2月から始まる新しい事業に向け準備は佳境を迎えている。

創業メンバーは代表の森本、後藤、朝倉の20代3人組

ひょんな事から意気投合し、3人で夢を語らい共同で事業を起こす事になった。

僕は3匹の糞ころがしが、それぞれ思い思いの場所から
3つの糞を転がして1つの場所に集めているところを想像してみた。

うん、悪くない。人が集まるとはそういう事なのだろう。

そんなことを考えているともう降りる駅だ。

チィコフスキーも終盤を迎え、第1主題による華やかで熱狂的なフィナーレへと向かっている。

チャイコフスキーと3匹の糞ころがしに後ろ髪をひかれながらも僕は歩き出した。

会社は大阪の下町のとある単身者用マンションの1室にある。

廊下の照明は薄暗く、いつも梅雨時の様な不快感を感じさせてくれる建物だが以外と気に入っている。

エレベータを降り、ドアの前に立つ。

「さあ、今日も新しい世界をつくりだそう!」

そんな気持ちをで金属のキーを差し込みシリンダーを回した。