サンレミ精神病院に入院したゴッホは多くの痙攣発作が起きた。当時の精神病の治療薬としてジギタリスが多用された。現代では心臓病の薬として使われるのがジギタリスの成分のジギトキシンだが、当時の精神病の癲癇や痙攣や躁病などに効果的とされて多く使われた。

ジギタリスの副作用の内芸術に関連するのは「黄視症」がある。視野全体が黄味がかって見える。また黄と青の色覚の不調和が出る。丁度黄色のフィルターを通したように見える。さらに滲んで見えたり、周りにハローという明るい光の周りにぼんやりとモヤが掛かって滲んで見える。このニューヨークの近代美術館(MoMA)の所蔵作品の「星月夜」だが、星たちが黄色で強調されている。さらに渦を巻いている。これは黄視症にハローやグレアー現象が出ている。ジギタリスの副作用として現れたものと思われる 見え方だ。黄色の星の周りが滲んで見えてもいる。また夕暮れの空を背景に、黄色と青と白を重ねた光輪で星を描いている。これらの表現方法はサンレミ病院時代にジギタリスを投与され始めた時から急に描き始めている。つまり、ジギタリスの副作用がゴッホの見え方を変えたのであり、また彼の芸術性を目覚めさせたともいえる。ゴッホ自身もジギタリス中毒による見え方の変化に気づいていた。彼は「宗教的幻覚を見た後に、幻想的なものを創造するために、目に見えるものを超えていくのだ、という感覚を強めている」と述べている。ゴッホ自身が、ものが黄色く見えることを感じ取っていて、これを「神の啓示」だとしたのだ。

当時のゴッホはヒマワリの表現色を、くすんだ色から黄色に描くようになっている。彼にとっては「神の啓示で、黄色の世界が目の前に現れ」て、それにゴッホ自身が魅了されたのである。

ゴッホは黄色い世界が目の前に現れたことについて述べている。「全く輝くばかりの強烈な夏の日だ。太陽、光、僕はただ黄色、青白い硫黄のような黄色、金色の青みがかったシトロンの黄色、なんと美しい色だ」まさに、ジギタリスの副作用がゴッホの芸術性を開花させたともいえる。しかし、ジギタリスの黄視症の副作用で誰もが芸術家になれるわけでは無い。ゴッホが本来持つ芸術性を開花させただけだ。(続く)