三十九
公開討論会は一度“延期”とされたが、町役場内部の一部職員が産業側の圧力に疑問を抱き、
内部告発に近い形で情報が流出したことで、世論が一気に動いた。
「産業側が討論会を潰したらしい」
「行政まで巻き込んで若者を黙らせるのか」
SNSでは怒りの声が広がり、町は世論の圧力に耐えられなくなった。
ついに、討論会は“再開”されることになった。
雄大は会場の控室で深呼吸をした。
産業側は行政・警察まで動かした。
その力が、今日の討論会にも必ず影響する。
だが、雄大はもう怯えていなかった。
「ここで負けたら、全部終わる。
でも、勝てば……制度改革の道が開く」
彼は静かに目を閉じた。
四十
会場は満席だった。
町民、記者、大学教授、学生。
そして、産業側の幹部たちが最前列に座っていた。
壇上には二つの席。
左に雄大、右に産業側代表の大企業幹部・三枝。
司会者が開会を宣言すると、
三枝はすぐに雄大を攻撃し始めた。
「武田君は、食肉産業を敵視し、社会を混乱させている。
彼の行動は危険思想であり、町の治安を乱す可能性がある」
会場がざわついた。
雄大は静かにマイクを握った。
「僕は、産業を敵視していません。
ただ、制度の歪みを議論したいだけです。
それを産業側が“危険思想”として捏造したんです」
三枝は鼻で笑った。
「証拠はあるのかね?」
雄大はゆっくりと頷いた。
四十一
雄大の弁護士が立ち上がり、スクリーンに資料を映し出した。
〈産業側内部文書:反対派若者の信用失墜計画〉
〈SNS操作指示〉
〈行政への働きかけ〉
会場が一気に静まり返った。
さらに、音声データが流れた。
〈あの若者を危険人物として印象づけろ〉
〈編集した映像を流せ。世論を動かすんだ〉
三枝の顔が強張った。
会場からどよめきが起こる。
「これが、産業側の“本当の姿”です。
僕を危険人物に仕立て上げ、制度改革の議論を潰そうとした」
雄大の声は震えていなかった。
むしろ、静かで強かった。
四十二
三枝は反論しようとしたが、
会場の空気はすでに雄大の側へ傾いていた。
記者が次々と質問を投げかける。
「この内部文書は本物ですか?」
「行政への圧力は事実ですか?」
「若者を危険人物として捏造した理由は?」
三枝は汗を拭いながら答えようとしたが、
言葉はどれも曖昧で、逃げるようなものだった。
雄大は静かに言った。
「僕はただ、制度を議論したいだけです。
産業側が恐れているのは、議論そのものなんです」
その瞬間、会場の空気が完全に変わった。
雄大は“危険思想の若者”ではなく、
“制度改革を求める正当な声”として認識された。
四十三
討論会の最後、司会者がまとめの言葉を述べた。
「本日の討論を通じて、産業側の情報操作と圧力が明らかになりました。
制度改革の議論は、町としても避けては通れない問題です」
会場から拍手が起こった。
雄大は深く頭を下げた。
産業側の幹部たちは無言で席を立ち、
会場を後にした。
その背中は、敗北を認めた者のように見えた。
四十四
討論会が終わった後、雄大は外に出た。
夕暮れの空が赤く染まり、
町の人々が雄大に声をかけた。
「よく言った」
「あなたの言葉は届いたよ」
「制度改革、応援する」
雄大は胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……これが、逆転だ」
彼は静かに呟いた。
産業側の強硬手段は、
逆に“真実を暴く舞台”となり、
雄大の声はついに町全体へ届いた。
制度改革の道は、ここから本格的に開かれていく。
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