「明日、ここを出て行くよ」
ハルはそう言った。

あまりに突然だったので、僕はかなり戸惑っていた。
僕達はずっと一緒だったから。
何を言っているのか、分からなかったから。

震えそうな声で、僕は言葉を必死で絞る。
「何で突然?今まで一言だって、そんなこと言わなかったじゃないか」
「だから今言ってるんじゃない。
 明日君の目が醒めて私の姿がなかったら心配するだろうし、
 君はきっと、悲しむだろうと思うから。」
「それにしたって急過ぎる。今日言って、明日なんて…」
「明日じゃなかったとして、それが一体何だって言うの?
 どちらにしろ、ずっと一緒に居られるわけではないしさ。」
ハルはこちらを見ようとはせず、ただひたすらに荷物を詰め込んでいく。
僕は何も言えなかった。

荷造りの動きは、決して機敏ではなく、むしろ緩慢だった。
箱が一つ増えるたびに太陽が傾いていく気がした。
止めようとすれば、止められるかもしれない。
けれどそれでも、僕は何も言えなかった。

ただゆっくりと日が沈み、ゆっくりと箱が増えていく。
「…短かったかな?それとも、長過ぎたのかな?」
彼女が尋ねてくる。

電気も消えたままの部屋で、
僕は彼女を見つめ続けて、
彼女は僕を見なかった。

「さぁ…どうだろう。ずっと、一緒だったしね。」
気付けば、そんな冷めた返答をしている自分。
短すぎる、そう言いたかった。
けれど、やっぱり、出来なかった。言えなかった。

しばらくして彼女は、「そうだね。」とだけ答えた。

それだけで、全部がどうにもならなくなった。
それだけで、分かってしまった。
だから、せめて黙っていることにした。

やがて日は完全に落ちて夜になったころ、彼女の荷造りは終わった。
彼女は椅子に腰掛け、
僕は壁に寄りかかっていた。
お互いに、話し掛けることをしない。

話す必要も、もうなかった。