「疲れるんだよね…」                         
                   

たった一言で、身がちぢまると感じた、あの人の言葉…。
たいして気にはしていないふりをしても、私のことじゃないと、心の中でつぶやいてみても、どうにも消せないものがある。
    
不安・・・。


「…。またまた~!」

今日も同じ対応がつづく。
不安なのに、何も気にしていないフリ。

私の想いとはうらはらに、社会が回っていることがある。
めまぐるしく時は過ぎる。
お金持ちの人も、そうでない人も、幸せな人も、不幸な人も、平等なもの…。


時間。


同じ時を刻んでいるのに、なぜなんだろう。
いつもあの人の周りの時間だけが、違って見える。
私がマイペ―スでいるせいもあるんだろうか?ううん、きっとリズムが違うんだろうな。
でも、もし、少しでも私とあの人とのリズムがそろったら、この気持ちも取り除けるのだろうか。



残業帰り、どういうわけだか、三田さんと一緒になった。
久しぶりに夜の街を二人で歩く。

「今まで仕事?」
「はい、やっぱり月末は忙しくて。残業だったんです」

三田さんは営業の帰りだったと、機嫌があまりよくないのかブツブツとつぶやく。
仕事での愚痴をこぼすのはめずらしい。
何をするにしても、一生懸命の人だから、時には自分を追い詰めてしまう事もある。
まぁ、本人はそれを楽しんでいるようなんだけど。
いろいろ言ってあげたい事はあるけど、私はあえて言わない。

「・・・・。大変ですね」
「・・・まぁ、な」



ふっと優しい笑顔になる。
私の好きな顔。


・・・・・ス・・キ・・・・。


「そういや、パソコンはじめたんだって?」
誰に聞いたのかなと思いながら、返事をする

「あんまりハマルなよ」
「三田さんこそ、はまってるって聞きましたよ~」

何気に私も知ってるんですよって信号を送る。
「今度メール送るよ」
三田さん、それって社交辞令?それとも・・・。

会話ってやっぱり、『大切』だ。
あんなに不安だった気持ちが、うそのように消えていく。
そして、安心する。

ドキドキする。
    

心のリズムが合う瞬間。

「あっ、満月…」
「ほんとだ」
「そういえば、みんなでした花火の時もでてましたよね」
「あぁ!出てた、出てた」



ビルの間から見える月は遠くて、何も語らなかったけど、あの時と同じ月なんだ。


「あの月も花火見てたんですよね~」
「なんだよそれ~」


あなたの周りの時間は速くて、私はあなたに追いつけないけれど、でも、一緒に歩いていこう。
私はあなたの安心する場所になりたい。
あなたがが私ににあたえてくれるように。



大きな月が、教えてくれた気がした。
                                              

                                                END


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月を見るとなぜかドキドキする。
もしかすると、違う所であの人も同じ月を見ているかもしれない。
なんて乙女チックな事を考えながら書いた最初の小説です。
月って、ずっと見守っている感じがしませんか?