勤めを辞めてから、故郷に長逗留することが多くなった。
田舎の生活は、都会ほど退屈しない。
やることは一杯ある。
まず庭やお墓等の、草刈りをしなければならない。
驚くほど伸びた木の枝を切らなければ、ジャングルのようになってしまう。
普段は空き家になっているので、湿った畳をあげて干してやらなければならない。
等など。
くたびれたら、庭に椅子を持ち出して、飛んでくる小鳥や、川向こうの神社の
森に住みついた雉を、双眼鏡で眺めたりする。
故郷の山川に包まれ、陽の光は暖かく心地よい。
古の中国の詩に
紅顔の少年の頃、兵隊にとられ
彼方此方転戦し
髪も髭も真っ白になってから
ようやく除隊を許された
故郷にかえってみると、
生家は樹木に覆われて
誰もいなかった
とある。
18歳で故郷を出て行き、五十有余年、
年に一二度しか帰省せず。それも、一週間とは滞在しなかった。
兄弟達も、同級生達もみんな故郷を離れ、
異郷に出て行った。
そうして、古希を迎え自由な身になってから、ようやく故郷に帰って来られたような
気がするのである。
中国の詩のなかの、兵士と同じようなことではなかろうか。
この後、生を終えた時、私の魂魄は恙なく、
故郷の父母の元に戻れるだろうか。