FB:さらば、哀しみの優勝投手-2 | スポーツを語ろう-ZE!!

FB:さらば、哀しみの優勝投手-2

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翌84年センバツに向けて、石田の周囲がにわかに騒がしくなった。前年秋の関東大会を制してセンバツ行きの切符を確実に手中にしたばかりでなくエース石田自身が大会ナンバーワン投手としての評価をほしいままにしだしたからである。

前年まで、その存在を知っていながら実際にその投球を目にすることができなかっただけに私自身にとっても日に日に評判をあげていく石田の実戦登板が楽しみになってきた。関東大会で優勝したということは翌春のセンバツ出場は当確である。
彼の投球についての基本的なデータはあっても投げている写真すらみたことがなかった…だがそれも雑誌を立ち読みすることで叶った。
表情には逞しさが増し、一コマだけながら初めてみた投球フォームには力強さが漲っている。ますます甲子園での彼の投球が楽しみになったものである。

ところが、この頃から私は子供心にも彼に悲運な運命を感じていた。
父から聞いた。「取手のエース、肩痛でセンバツ投げられないらしい」―なんという不運か―
二年次から甲子園にでていたとはいえ、さぁこれからというときのこのアクシデント…
私の楽しみもこれで一つかすんでしまった…
もちろんこの年も石田以外の要注目ポイントはあった。桑田・清原のPLのKKコンビをはじめ都城・田口らもいたにはいた。しかし前年が粒揃いだったせいもあってか質量ともにボリュームダウンの感は否めなかったからその意味でも石田の故障には痛いものがあった。

大会が始まった。取手二高の1回戦の相手は愛媛・松山商。
強豪揃いの愛媛もこの時期は低迷していた。しかも松山商の2年生エース酒井光次郎(元日本ハム他)の調子がよくない。取手ペースの試合になるのにそう時間はかからなかったように思う。
しかし一方で、外野を守る石田にかわり先発マウンドを任された190センチの長身サイドハンドの岡田もピリッとしなかった。確か一時かなり追い上げられたように覚えているのだが、この危機から小柄な左の技巧派・柏葉が完璧なリリーフでチームを救った。
ところが今度はその柏葉が練習中にボールを側頭部にあて欠場を余儀なくされてしまう。
石田の頃の取手二はまさに試練続きだったのである。

そんな中、2回戦の徳島商戦でついに石田が登板。
そのピッチングスタイルを見て私が改めて彼に惚れ込んだのはいうまでもない。オーソドックスながら力感満点のフォーム。写真でみたとおりだ…
通常、オーソドックスなフォームほどその特徴のなさがゆえかこじんまりとまとまったフォームに見えがちだ。
だが石田のそれは違った。体全体をいっぱいいっぱい使った躍動感に満ちたものだ。つくづくこのピッチャーに期待したかいがあったと思うほど惚れ惚れした。これは好投手のピッチングスタイルだ。
一方の徳島商・黒上真人の投球もいまだ私の中で強く印象に残っている。石田ほどの凄みはないが、もし当時私がチームを持っていればプロからスカウトもなかっただけに間違いなく入団を勧誘しただろう。こちらもなかなかいいピッチング・ビジョンを有している。
試合は期待に違わぬ好ゲームとなった。
下田和彦のバントのサインを見落として打った「アホなホームラン(木内監督―当時、談)」で決着がつき4-2で取手二が準々決勝進出。取手二高の試合といえばPLとの決勝ばかりがクローズアップされがちだが、案外この試合こそがこの頃の取手二高のベストゲームかもしれない…

準々決勝の取手の相手は初出場の東京・岩倉だが、さて…