実家の代金が信託専用口座に入金された後、口座のある銀行支店から一本の電話が入った。

 

担当者『額の大きな入金がございました。お間違いはありませんか?どのような理由でしょうか?』

 

隠すべきことは何も無いし、資産を預かってくれる銀行とは良い関係を築いていきたいので正確に答える。

 

自分「家族信託で実家を売却した代金になります。この口座は、公正証書にて家族信託契約の信託専用口座に指定しています。」

 

担当者『わかりました、少々お待ち下さい…』

 

しばし待つ。そして再び担当者が出る。

 

担当者『確認しました。家族信託ですと、信託口(しんたくぐち)口座でないと取り扱いができないことになっておりまして、この口座はお取り扱いができないことになります…』

 

 

えっ。

 

 

家族信託を結ぶ際、司法書士さんからは以下の2通りの口座管理を説明された。

 

①信託口口座

②信託専用の普通口座

 

このうち①は信託管理を主目的として“信託銀行”などが取り扱う口座の種類で、維持管理に手間とお金が掛かる。司法書士さんによれば、将来の相続人が1人しかいない我が家の場合は②を選択しても何ら問題なく、その方が手軽で良いとのことだったので、開設したのがこの口座だった。

 

その旨を明記した公正証書を作り、口座を作る際にも窓口でその内容を説明した。それなのに今さら『やっぱダメです』と言われても…

 

 

そもそも信託財産を入れる口座として認められない場合、司法書士さんの監修、公正証書の内容、それに基づいた家族信託登記、売却の契約等々…これまでやってきたことが全て根本から覆ってしまうことになる。現実にそんあことがあれば、この法治国家で司法が否定されることになりかねない。

 

自分「この取引が認められないのであれば、大変なことになります。改めてご確認いただけますでしょうか…」

 

動揺したが、落ち着きを失わないようにしながら銀行担当者に申し入れる。

 

担当者『確認いたします、少々お時間をください。』

 

一旦切電。

 

 

しばし待った後、再び担当者さんから電話が入る。

 

担当者『申し訳ございません、確認の結果、この運用で問題ないようでした。』

 

さらに『これまで当行で家族信託での運用の実績があまり無かったもので…。さらにこの事例は初めてだったため誤ったご案内をしてしまいました。』

 

とのことだった。

 

良かった。今までの手続きは間違っていなかった。専門家監修なので当たり前なのだが、改めてホッと安心する。

 

銀行も次から次へと変わっていく制度のなかで、対応を模索していながらやっているのだろう。つねに新しい情報を共有している取り組みはあると思うが、全てを網羅するのはかなり大変なことだと思う。情報が追い付かないのも無理はない。こちらも担当者さんに同情して、労いと感謝の言葉を掛けてやり取りを終えた。

 

 

この『家族信託』という制度。自分は当事者になるまで全く知ることが無かった。本やネットからの情報を集めて利用の検討に至ったけれども、当事者として追い詰められた状況でないかぎりその言葉を聞く機会さえ無いだろう。

 

銀行でさえ判断に迷う制度。まだまだ認知が進んでいないことを再認識した。

 

この制度で救われる家庭はたくさんあると思う。導入に手間とお金は掛かるけれども、その後に得られる効果はとても大きい。自分も新しい知識をアップデートしながら、いつでも人に薦められるようにしておきたいと改めて思う。