これは昨日の出来事。
娘が夫と浜辺に出掛けた隙に、私は一人優雅に滞在中のホテルの大浴場にて、由美かおるになりきり自慢の長い手足を丹念に磨いていた。
GWの人気ホテル、大浴場は人で溢れていた、が、私はそれもまた一興、としっかり泡立てた濃密石鹸で、体をパック状態にしていた、
が!その時!事態は一変した!
隣に巨体のおばちゃん、推定60歳、が勢いよく座り、おもむろにシャワーを最強モードにし体に浴びせ始めたのだ。
(この巨体のおばちゃんを和子、と呼ぶことにする。)
和子!水かかってるから!左右はおろか斜めにもかかってるから!
泡立てた濃密石鹸パックは無惨に流れ、排水溝に消えていった。むろん和子は気づきもしない。和子は和子の快楽に浸りきっていたのだから致し方あるまい。
ここで私に与えられたライフカードは二枚。
1 ひたすら我慢する
2 和子に注意する
どうする私!どうする!
ハッ!まさかこれは神が私に仕掛けたドッキリ!?対処能力が試されてる!?
ならば私が選択すべきは
3 この状況下を楽しむ
以外にとるべき道はない。
ステップ1 脳内チャンネルをアニマルプラネットに変換
ここはサバンナ。乾期がおわり、ようやくまちこがれた雨期がやってきた。私は乾期を生き残ったインパラ。ああ、水がなんて美味しいんだろう。隣にいるのは象さん。巨大な象さんが雨の恵みが嬉しくて、池ではしゃいでいるのだ。鼻から勢いよくでてくる水に、なんともいえない生命力を感じる。
そう思えば和子から降り注がれるシャワーが、ほら水浴びする象さんのちょっとしたやんちゃにしかみえず、むしろ楽しい気分に。
と思いきや冷水が来たー!つめたーい!どうやら和子は暑がりらしい。巨大ゆえにエネルギー発生量も多いのだろう。
ここは切り替えだ。切り替えが必要だ。
ステップ2 脳内チャンネルをお寺の一日に変換。ここは美しい山の中。私はとある修行僧。今行っているのは滝にうたれる、という精神統一の修行だ。これも立派な僧侶になるための鍛練、と思えば苦痛ではない。心頭滅却すれば火もまた涼し、の逆バージョンだ。
そう思えば和子から降り注がれる冷水が、霊験あらたかなものに感じられるではないか。ふむ、悪くない。
と思いきや高温来たー!あっつーい!どうやら和子は冷水で冷えたらしい。
ここは切り替えだ。切り替えが必要だ。
ステップ3 脳内チャンネルをいい旅夢気分に変換。この左上から降り注がれる温水は、新たな打たせ湯。人工打たせ湯。左側の血行がよくなったような気がするではないか。
そう思えば、わざわざ和子は私のために打たせ湯を流すかかりをかってでてくれているのだ、実にご苦労なことだ、と感謝の気持ちすらわいてくる始末。
そうこうしているうちに和子はノシノシとさっていき、私は怒ることもなく温泉を満喫し、脱衣所に戻った。和子のおかげで、いろんな体験ができ、お湯はしっとり滑らかで、私は至極ご満悦だった。
混み合う脱衣所。そこで私が目にしたものは‼
和子がこの人混みの中で、両手にドライヤーをもち、鏡の前を陣取り左右から二個のドライヤーで頭を乾かしていたのだ。
ダブルターボ搭載、、、ドライヤーのダブルス、、、
つい不覚にも口から出てしまった私の呟きを、そばにいた若い女の子二人組は聞き逃さずにキャッチ、いきなりわらいはじめた。むろんダブルターボ和子には聞こえるわけもない。
人はありきたりな日常の中で、時に想定外の災難にあうことがある。が、大事なのはパニックになったり、怒り狂うことではなく、己の発想を転換させ、いかにその逆境を楽しむかではなかろうか。
人生は一度しかない。怒ってる暇はないのだ。
楽しんだもんがち。
私は今日和子に出会えてよかった。いい笑いをありがとう和子。さようなら和子。