私たち家族は今海辺のホテルに来ている。
海を見ながら五歳児に、
ねえ一日だけ人魚になりたくない?ママと一緒に!ママなりたいなぁー
え、あんよなくなるの?こまるよぅーごはん食べに行けないじゃん!今日はごちそうでしょ!
あ、じゃあこうゆうのはどう?腰から上がマグロで腰から下が足なの。
えっ?アリエルみたいじゃなくて?あんよで泳げる?
大丈夫たよ!ヒレあるもん!
あ、そっか!いいねえそれ。なりたい。なりたいねぇ。
このあたりで近くにいた見知らぬおじいちゃんおばあちゃんがめっちゃ笑っている。さっきまでなにやら言い争っていた二人が笑っている。仕方ない、此処はもう一肌脱ぐか。世界の平和のために。
ねえ、海ってどうして日によって満ちたりひいたりするかわかる?
あーミチヒキ、ってゆうやつ?絵本にでてきたやつだねママ!
そう、なんでだかわかる?
んー気分かなっ
違うよ。秘密なんだけどね、ママが海の栓たまに抜いちゃうんだ。こっそりとね。
え!悪いねママ!つかまるよ!
だから秘密だよ?
うん、わかった!おまわりさんにドナドナされちゃこまるもんね!
見ると老夫妻は完全にこっちを向いて百点の笑顔。笑顔の黒酢のCMにでてきそうな笑顔。
嘘も方便、とはよくいったもので、このような優しい嘘は人の心を暖める。固い心を揉みほぐす。
ああ、今日もいいことしたなぁ。さすが私。さすが天使。
ちなみに、五歳児は枕等から抜けた羽毛は、ママの天使の羽のもげたやつ、と今だに信じている。
設定は、ママは昔天使だったんだけどドアに引っ掛かって羽がもげたんだ。でもたまにその名残がからだからでてくる、というもの。肩凝りは、もげたとこが痛い、とゆう解釈。五歳児は優しく揉んでくれたり叩いてくれたりする。
便利極まりない。まさに嘘も方便。