日本一有名なカップルは誰か、について真剣に考察したいと思う。
天皇皇后両陛下か?ちがう、幼稚園児たちはおふたりをよく理解していない。では誰か。
地下鉄に乗りながらじっくり考えてみる。まわりを見渡すとあらゆるカップルが、あるものは互いを見つめ、またあるものは二人でいるのに重さ数百グラムの文明の利器に見入っている。否、魅入っている。かなしきかな文明。
途中なんちゃら駅についた。乗ってくる人達の中にイケメンを見つけた。思わず口角があがる。イケメンはまわりの女性の表情筋トレーニングにも役立つのか。新たな発見だ。イケメンセラピーと名付けよう。
ふとイケメンの背後をみると、、、
いたー!いたー!あの人達だ!あの二人こそ日本一有名なカポーだ!老若男女誰もが知ってる、日本はおろか世界から注目されつづけている二人だ。
トイレのマーク。肩幅の広い頼りになりそうな彼氏と、顔を大抵赤らめひっそり佇む彼女。お似合い極まりない二人。彼らこそが紛れもなく日本一有名なカップルに違いない。
が、よくよくトイレットカップルについて追求してみると、昭和初期の清い男女交際に思わず涙がでそうになる。男女7歳にして席を同じくせず。まさにその通り。(6歳だったかもしれないがそこの記憶は定かではないがまあ数えか数えじゃないかの差だ、どのみち対した違いはあるまい。)
彼らは手も繋がない。長年連れ添っていつも寄り添っているが、決して互いに触れ合いことはなく、言葉も交わさない、視線も交わさない。ただただひっそり寄り添いまっすぐ前を向いている。もちろん彼らも人間だ、たまには一人になりたいときもあるのだろう。プライベートは大切だからな。しかし彼らは別離する瞬間ですら近距離だ。部屋は違えど壁一枚隔てただけで、互いを感じ取れる距離から離れることはない。そしてまたかならず二人は互いに歩み寄りまたいつもの距離感で雛人形のように佇むのだ。
我々人類は長らく彼らを見守ってきた。どこへいっても自然と彼らの姿を探し、見当たらない心配と不安で冷や汗ものになるほどに。
彼らの存在は我々に確かな安心感をくれる。それこそ真実の愛ではないだろうか。揺るぎない愛。現代人が何処かに忘れてきてしまった、言葉をかわさずとも連絡をとりあわなくても互いを心から信頼しあう、平凡だけれど確かな愛。
ああ、さっきのイケメンが斜め前の席に座った。ウォークマンから音が漏れている。トイレットの紳士ならそんな迷惑な真似はすまいに。残念かなイケメン。上がった口角がもどり口がへの字になる。は!これも表情筋トレーニングの一環か!恐るべしイケメンセラピー。
爽やかな車掌さんの声がする。いい声だ。まるでいい旅夢気分だ。ありがとう車掌さん。彼の情報によると、どうやら次が我が目的地らしい。さらばイケメン。ありがとうイケメン!
追記
目的地につき顔をあげたら、やはりすぐにあのトイレットのお二人がいらっしゃった。思わず目が細まったのは、近眼の影響だけではないと私は思った。歩き出す靴のかかとの音がいつもより心地いいのは、真実の愛に触れたからかもしれない。
初春の風が私の頬を優しく撫でた。春が近くまできているのだ。


