きれいな本、というのが第一印象だった。ところどころに挟まれる町の風景写真、詩人であるという作者の使いこなす独特な表現、活版印刷を思わせる緻密な段組と古めかしい字体……それらすべてが相まって、本そのものが静かな美しさに満ちているように感じた。
だが読み進めていくうちに、その美しさはひとえに主人公をめぐる描写に起因するのではないだろうかと思い始めた。愛する妻を亡くした主人公ユーグが過ごす街・ブリュージュの描写は、彼の憂いそのものを表すように陰鬱として重い。だが彼が妻に瓜二つの女性・ジャーヌと出会ったことで、物語はしだいに明るさを帯びていく。ユーグがジャーヌに心惹かれていく描写は、生き生きとしていながらどこか苦しげだ。それは妻と生きていた過去の幻影の中でしかジャーヌを想うことができないからだろう。そんな憂いを帯びた彼の葛藤を、私は悲しく思うのと同時にとても美しいと感じた。
過去の日々にとらわれたまま生きる悲しみも、それでも誰かを想わずにはいられない苦しさも、圧倒的な「生」に満ちている。だからこそユーグの憂いは美しく輝く。「死都」というタイトルとはうらはらに、人の営みそのものを丁寧に描ききった作品だと感じた。特にラストのユーグの心理描写、そして最後の最後に鐘が鳴る場面は、生々しい絶望に満ちているのに詩的で美しく、久々に心が震えたように思う。