大正時代の作品ということで、読む前からいかにもな古めかしい物語が展開するのだろうかと身構えていた。題名が『友情』という点にもやや気後れしていた。正直説教くさいというか、友情の素晴らしさだの美しさだのを説くいかにもな青春小説なのではないかと勝手に想像していた。

けれど読み進めるうちに、その予想は見事に裏切られていった。文体はやや硬い印象だったが、当時の若者たちの言葉遣いの独特さが随所に散りばめられており、何気ない会話までも丁寧に描かれている。文章全体からいかにも「その時を生きていた若者の文体」という雰囲気が漂っていて、まるで私小説を読んでいるような後ろめたさを味わえた。そして『友情』という題名にもかかわらず主人公が親友に想い人を奪われる、という展開はかなり衝撃的だった。けれど確かにこれは「恋」ではなく「友情」の話なのだろうと思う。

人は恋と友情どちらを選ぶのか、という問いは現代でも取りざたされる普遍的なものだろう。その中で恋を信じ、友情も信じた主人公・野島は想い人・杉子の抱える想いが自分に向くことがないと見抜けなかった。その時点で彼は、杉子を本当の意味では愛せていなかったのではないだろうか。自分に都合のいい、理想の杉子しか受け入れられなかったのではないだろうか。それは恋でも愛でもなくただのエゴだろうと私は思う。だから彼が失ったのは愛する女性ではなく、あくまでも自分にとって最良の関係を築いていた親友・大宮だけなのだろうと。

友情も恋も選び損ねた野島は恋とも呼べぬ執着心の終わりを迎えるが、友情は失われたわけではないはずだ。「君よ、仕事の上で決闘しよう」ーー生まれ変わった2人の関係性は、これまでとは大きく形を変えつつもより互いを高め合う最上のものになるだろうと私は思う。それは恋の相手を見つけるよりも、得難く幸福なことなのだろうとも。