photo:01


ベランダにいると懐かしい香りがする。
負けず嫌いで甘え下手で素っ気ないがとても愛おしい。

大好きだったシクラメン。
僕は窓辺にそれを飾り、寂しげに微笑む一輪の花に、毎日毎日少しずつ水を灌ぐ。
さんさんと降り注ぐ太陽光に目を掠め「おはよう」と呟く時、水の滴る花弁が音も立てず、すーっと地面に落ちる。
あの哀しそうな笑顔と風でなびく癖っ毛の髪が僕の目の前を一瞬で通り過ぎて行く。
「ああなんだ、全て幻だったんだね。」と顔を真っ赤にして涙を堪えながら精一杯の声でひとりごちる。
もうここに君は居ない。


空の中を気まぐれに流れる雲達が僕を何処かへ誘っているかのようだ。
僕は静かに目を瞑りそれに吸い込まれるように新しい一歩を踏み出した。