LA郊外のサンフェルナンド・バレーで結成されたグループ、Styles Of Beyondのファーストアルバム。メンバーはMCのRyuとTak (Takbir)、DJ/プロデューサーのCheapshot、プロデューサーのVin Skully。本作では大半の楽曲をVin Skully、2曲をCheapshotがプロデュースしており、メンバー外ではNYからDivine Styler、Takの実兄であるBilal Bashir、更にはExileもプロデューサーとして参加している。また、同郷のMike Shinodaがデザインを手掛けている。
近未来を想起させるジャケット(Divine Styler作)とは裏腹に、アルバム全編を通じてそれまでの時代の王道的なサウンドが展開されている。その理由の一つとして、この作品が彼らのデビューアルバムであることが挙げられると思う。デビューして自分達のファンを獲得するには、まずはリスナーの興味関心を向けさせたり、信頼を勝ち取る必要がある。自分達がどれだけヒップホップを理解しているかという部分を、ライブや音源を通じてリスナーにアピールすることは、彼らの興味や信頼を得る常套手段である。"Intro"でのSkull Snaps "It's A New Day" (1973) 使いがまさに象徴的だし、2回あるインタールードで、ヒューマンビートボクサー(Click Tha Supah Latin)とターンテーブリスト(DJ Rhettmatic)をそれぞれ全面的にフィーチャーしているのも、全方位的にリスナーを取り込もうとする彼らの姿勢の表れと言えるだろう。
またもう一つの理由として、当時のヒップホップシーン全体におけるアンダーグラウンドヒップホップの立ち位置が考えられる。教科書的な説明で申し訳ないが、90年代半ばを過ぎたあたりからTimbalandやSwizz Beatzのような、今までのビート感とは全く異なるサウンドが急速に台頭し、それらが主にメインストリームで受け入れられた。その頃のアンダーグラウンドヒップホップは、そうしたサウンドに馴染めないリスナーの受け皿としての、ある意味で「保守的」な役割も果たしていたと思う。この作品の核となっているサンプリングを軸に据えたビートや、過去のヒップホップクラシックからの声ネタの引用などに、そのような時代背景を強く感じる。もちろん、当時からメインストリームと同様、あるいはそれ以上に革新的なサウンドを追求するアーティストも数多くいたし、これは全てに当てはまる話ではない。むしろ多様性や自由さがアンダーグラウンドヒップホップの醍醐味だ。
そのようなヒップホップへの並々ならぬ愛情と西海岸特有のタイトなサウンドの融合こそが、この作品の魅力だと思う。また、Dilated PeoplesのデビューアルバムThe Platform (2000) の2年前、Rascoのデビュー作Time Waits For No Man (1998) とほぼ同タイミングというリリース時期も、本作やStyles Of Beyondが西海岸のアンダーグラウンドヒップホップにおいて存在感を得るのに絶好のタイミングだったかもしれない。
Styles Of Beyond - Spies Like Us feat. Emcee 007 (1998) prod. by Vin Skully
Styles Of Beyond - Gollaxowelcome (1998) prod. by Divine Styler
Styles Of Beyond - 2000 Fold (1998) prod. by Bilal Bashir