昨日は愛知までドライブで帰宅後は疲れて寝てしまい、今日もちょこちょこ仕事で映画三昧とはいかなかったけど、久々のマカロニウエスタンのレビューだけはしておこう。
マカロニウエスタン・バイブル「略奪編」から取り出したるは、日本未公開、初見のこいつだ!
傷だらけの用心棒 (1969年)
UNE CORDE, UN COLT(仏)/CIMITERO SENZA CROCI(伊)/CEMETERY WITHOUT CROSSES (英)
監督・脚本 : ロベール・オッセン 脚本 : ダリオ・アルジェント、クロード・ドザイー 撮影 : アンリ・ペルサン 美術 : ジャン・マダルー 編集 : マリー=ソフィ・ドゥヴ 音楽 : アンドレ・オッセン
出演 : ロベール・オッセン、ミシェール・メルシェ、リー・バートン、ダニエル・ヴァルガス、ベニート・ステファネッリ、ピエール・コレット、セルジュ・マルカン
監督・脚本、そして主演のロベール・オッセンをはじめ、主要なキャストやスタッフのほとんどがフランス人という奇妙なフランス・イタリア合作の異色マカロニウエスタンだ。
そのせいなのか、ある意味ギラギラとしたところがあるマカロニウエスタンの中でもかなり渇いたタッチ、そして極端にセリフも少なく、「ウエスタン・ノワール」と言ってもいいハードボイルド風味の一作だった。
冒頭、荒れた山間を大勢に追われる3人の男たち。2人は別の道に進むがアランは自らの家にたどり着くものの捕らえられ、妻の目の前で首を吊られてしまうという、ハードな出だし。
町を牛耳るケイン一家が彼らの土地を狙っての仕業で、殺された長兄アランの他、逃げた二人の弟たちウィルとラリーの家にも火をつけられる。
二人の弟たちはかろうじて守った金を兄嫁のマリアに渡して町を出ようと誘うが、マリアは硬い表情でこれを拒む。
マリアは、古びた街に出向き、夫の友人でもあるガンマン、マニュエルに夫の仇討ちを依頼する。
マリアに二日後に再びここに来るように言うと、マニュエルは酒場でケイン一家の息子が狙われていたのを助けることでケイン一家に近づき、彼の牧場の牧童頭としてもぐりこむ。そして一家の一人娘を誘拐し、約束通り来たマリアに娘を引き渡すのだった。
ケイン一家に恨みを持つ弟二人が娘を慰み者にしてしまったのは誤算だったが、マリアは娘と引き換えに殺された夫アランの葬式を出させることに成功する。
だが、解放した一人娘が戻ると、ケイン一家は彼らを許さず、兄弟を捕らえてリンチし、マニュエルとマリアの居所を吐かせ、反撃を開始するのだった・・・
50年代~60年代に知られた俳優で、その後も「愛と哀しみのボレロ」に出ていたりと名前だけは知っていたロベール・オッセンは「殺人者に墓はない」など、この作品の前にも監督作があるが、正直、自分はよく知らない。
本作は彼がセルジオ・レオーネのウェスタンに感動し、助言を求めながら作ったそうだが、なるほど「ウエスタン」の原案にも名を連ねていた、あのダリオ・アルジェントの名前が脚本にあるのも、レオーネが推薦したからなのだろうか。
ロベール・オッセンは一見優しげな顔立ちだが、クールなガンマンを好演していた。
特に銃が絡む場面になると、黒い皮手袋を取り出し右手に嵌めることで準備をするのだ。
そうするだけでマニュエルの腕を知る者たちは、緊迫し事を荒立てない方向にしようとするなど、なかなか効いた演出もあるのも好みだった。
彼は右手に手袋、左手に拳銃を握ってファニングをするのは中々カッコイイのだが、そのものずばりのガンアクションはあまり映っていないので、実際はそれほど銃の扱いがうまいわけではなかったかもしれないな(笑)。
以下ネタバレありです。
異色のハードボイルド風味と書いたが、ストーリーは思わぬ方向に進んでいく。
ケイン一家はマリアの家を急襲する。瀕死のマリアはかけつけたマニュエルに「あの時あなたが旅に出なければ、私はアランではなくあなたと…」と秘めていた想いを告げてこと切れる。
失意のマニュアルは、ケイン一家と対決して皆殺しにする。
しかし、彼もまた生き残った彼らの一人娘の銃弾に倒れるのだ。
なんとまあ…の、悲劇的なラスト。シェークスピアの悲劇を思わせるなんて評もあったが、フランス語原題「ロープとコルト」、イタリア語や英語原題「十字架なき墓場」とあるが、吊らされた夫の復讐に古くからの友人のガンマン、マニュエルに依頼するマリア、この二人の死に彩られた哀しい物語ともいえるのだ。
フランス人俳優主演でラストがアッという結末というと、セルジオ・コルブッチの「殺しが静かにやってくる」を嫌でも思い出す。以前の記事はこちら
声を出すことができない主人公サイレンス(ジャン・ルイ・トランティニアン)の復讐という背景と、何より敵役のクラウス・キンスキーの狂気という異常な雰囲気に支配されていた(でも傑作だけどね)あちらと比べると、本作は淡々としている分(本当にセリフは少ない)アクションも少なめで、地味なことは否めない。
思えばあちらもやはり夫の仇を依頼する未亡人とサイレンスが、傷を舐め合い寄り添うようにいい仲になってた。
悪辣とは言えケイン一家も別に異常でもなく(まあ欲しいものを手に入れるのに手段を選ばないのは充分異常だが(笑))、殺しても死なないようなしたたかなマカロニウエスタンの主役の中でも、マニュエルはマリアへの想いは胸に秘め、彼女の願いだから無理して叶えたのに、肝心の彼女が、その口から自分への想いを聞いた直後に死んでしまうなど、かなり哀しい運命なのだ。
二人が決して「古くからの友人」以上の関係性を持てぬまま、抱き合うことさえもなく、生涯を終えてしまうのは、荒野に生きる男女の哀しい運命としては、「殺しが静かにやってくる」より渇いて、悲劇的ともいえるのではないだろうか。
「傷だらけの用心棒」のタイトルも偽りありだが、身体的にはほとんど傷つかなかったマニュエルの、マリアを失った心の傷の方だったのか・・・と思えば納得だった。
などと柄にもなくしんみりとしながら堪能できた拾い物の一本であった。
ちなみに音楽はロベール・オッセンの父親の アンドレ・オッセン。ヨーロッパでは音楽家のアンドレの息子がロベール、と言われるくらい父親の方が有名だったようだ。
スコアは典型的なマカロニながら良い感じだった。
ちょっと捻った異色のマカロニ(半分フレンチ)ウエスタン。良かったらお試しを。
画質は悪いけど予告編をどーぞ!