レヴェナント 蘇えりし者 | B級パラダイス

B級パラダイス

健康優良不良中年が、映画、音楽、読書他好きなことを気まぐれに狭く深くいい加減に語り倒すブログであります。

本当はかみさんとGW中に観に行く予定だったけど果たせずで、昨日独りで観に行ったハシゴの1本目はこれ。

レヴェナント 蘇えりし者 (2015)  THE REVENANT

監督・脚本・製作:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 製作:アーノン・ミルチャン、スティーヴ・ゴリン、メアリー・ペアレント、デイヴィッド・カンタージェームズ・W・スコッチドーポル、キース・レドモン 脚本:マーク・L・スミス 原作:マイケル・パンク 撮影:エマニュエル・ルベツキ 編集:スティーヴン・ミリオン 音楽:坂本龍一、アルヴァ・ノト 
出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ、ドーナル・グリーソン、ウィル・ポールター、フォレスト・グッドラック、アーサー・レッドクラウド、グレイス・ドーヴ、ポール・アンダーソン、ルーカス・ハース、ブレンダン・フレッチャー

ずっしりと重く「映像に浸る映画」を久々観た気がする。過酷な自然。その自然と共に生きているネイティブアメリカンとの相容れない「文化」の違い。どちらも恐るべき壁として主人公グラスの前に立ち塞がる。しかし、本当の敵=息子の仇フィッツジェラルド(マッドマックスのトム・ハーディがあ!(笑))への復讐のために、ディカプリオ演ずるグラスが、生きて、生きて、生き抜いていく迫力に157分はあっという間だった。

「蘇えりし者」なんで、仮死状態なのに埋められてゾンビのごとく蘇えるのかと思っていたら、なんとまあ過酷な状況でのサバイバル。目の前で愛する息子を殺されるのを何もできない状況で観ているしかないグラス。その無念と激しい怒りが、文字通り傷だらけの身体を奮い立たせて長く苦しい追跡の旅に向かわせるのも納得だった。

極力自然光で撮影されたという画面は美しく、中でも度々インサートされる、仰角で映しだされた空が様々な表情を見せるのが印象的だった。時に蒼く、時に暗く、雲は風に流れ、吹雪く雪が美しくも恐ろしい。
何者も寄せ付けない大自然の厳しさ。郡山に来てから静岡にいる時より寒さや雪の冷たさが以前より実感を持って感じるだけに、とにかく寒さ、冷たさが画面を通じてこちらに迫って来るのだ。

そしてただでさえ過酷な自然に立ち向かう、グラスの傷の痛々しさ。その傷口を焼くシーン、生き抜くために生肉や生魚を食らいつくシーン、死んだ馬の腹を裂き、臓物を取り出した中に入って暖をとるシーン・・・どれもグロテスクを通り越し、生き抜く意思の強さを際立たせていた。

それにしても冒頭のアリカラ族襲撃シーンは凄かった。静から動、そして阿鼻叫喚の地獄図への流れ。まるで「プライベート・ライアン」のような臨場感で「有無を言わせぬ敵」としてのアリカラ族の恐ろしさをあの数分で見せきっていた
そしてグラスの傷の元になった熊の襲撃もまたしかり。こちらもまた「絶対話が通じない相手」故に殺るか殺られるかの極限状態。唸り声からブッシュをかきわけ突進してくる姿。玩具のように身体を転がされ、噛まれ、引き裂かれる。「野性の獣」の圧倒的な強さを嫌というほど見せつけるシーンだったが、まさか本物ではないだろうとは思ったが、レンズが曇る息の演出を含めCGだとしたら恐るべしだ。

この壮絶なサバイバルから帰還して、フィッツジェラルドへの復讐劇になっていくが、ここでもまた「痛さ」を充分感じられる刃物での闘い。しかしあの過酷な状況の後は何故か目的であったはずの「復讐」が「小さなこと」に感じられるから不思議な気分だった。
グラスもまたそう思ったのか、復讐を「神に委ねる」ことにするのだが。復讐に向かうその時、画面の奥で雪崩が起こるのもまた神懸かり的だった。演出なのかCGなのかわからないが、思わず息を飲んでしまった。

息と言えば、最初に聞こえ、最後も聞こえるのが「息遣い」。フラッシュバックでインサートされる「息をするんだ!諦めるな!と呼びかけるグラス。
息をする=生きること・生きていること。過酷な自然、命を落とすことがそこら中で口を開けていたあの時代故に、このシンプルな表現は強く印象的だった。

今年のアカデミー賞では監督賞、撮影賞に加え、鬼気迫る演技のレオナルド・ディカプリオの主演男優賞受賞も納得の1本。味わい深い良作でした。