ブルース・リー/死亡の塔 | B級パラダイス

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いやあ、B級にすらならない酷い映画なのにBS放送していたのを録画保存してあったのを思い出し、
先日の「死亡的遊戯」の余波でついつい何度目かの鑑賞に突入してしまったのがこれ(笑)


ブルース・リー/死亡の塔 (1980)
死亡塔 TOWER OF DEATH (GAME OF DEATH II)

監督:ウー・スー・ユエン 
武術指導:ユエン・ウーピン
出演:ブルース・リー、タン・ロン、ウォン・チェンリー、ロイ・ホラン、ロイ・チャオ、ホー・リー・ヤン、カサノヴァ・ウォン、リー・ハイサン、タイガー・ヤン、ト・ワイ・ウォ、加藤大樹、ユン・ピョウ、ミランダ・オースチン

ロバートクローズ版「死亡遊戯」公開当時に「実は使っていないフィルムがいっぱいある」という情報はすでにあった。五重塔の各階にいる猛者を倒して進んで行くストーリーを活かして
「死亡搭」というもう1本の「死亡遊戯」が観られるのではないか!?と当時は期待したものだった。

しかし完成した「死亡搭」はどうやら「燃えよドラゴン」で使われなかったシーンがちょっぴり入っているだけのシロモノだとのことで、さすがに劇場まで行くことなく見送ったこいつ。
その後、テレビで放映されたのを観て「いやあ、行かなくて正解だった!」と安心したものだったな。

前の記事の「無頼」どころではない「ブルース・リー/死亡の塔」とは偽りありもいいところのタイトル。
なんせ彼の姿が拝めるのは「燃えよドラゴン」劇場公開時にカットされた、少林寺の高僧(ロイ・チャオ)と主人公リー(ブルース)が武術の奥義について語り合う場面と
ハンの要塞島に渡ったリーが、あてがわれた部屋に入る場面、そして6歳くらいと15歳くらいの子役時代の彼の出演映画が
父親との会話の中で「回想」シーンとして使われているくらいで、合計3分あるかないかってくらい。
まあ、貴重と言えば貴重だが、彼のファイトシーンを期待して劇場まで行ったら暴れていただろうなあ(笑)。
今だったらJAROに訴えられるとこだぜ。

しかも、映画の中でもブルース・リーが演じていることになってるビリー・ローは冒頭30分くらいで死んでしまい、その弟、ボビー・ロー(タン・ロン)が主役として後半は進んで行くのだ。

このタン・ロン、この芸名からして「ドラゴンへの道」でのブルース・リーの役名から戴いているくらいで
ブルース・リだのブルース・リィだのブルース・ローだの数あるバッタモンブルース・リーの中でも、リーのそっくりさん俳優としてゴールデン・ハーベストからお墨付きをもらっていたらしい。

だからと言って、そっくりどころか、顔はほとんど別人にしか見えないのだが(笑)。
ちょっとした角度から見たシルエットや、ブルース・リーが凄く好きなんだ!という気持ちが迸るその動きが、似てないことも無い、という微妙な俳優なのである。

当然ロバートクローズ版「死亡遊戯」でもメインのブルース・リーの代役をやっていて、我々をがっかりさせた張本人でもあるのだが
反面、サモ・ハン・キンポーの武術指導のもと、ブルースに似ているようで似てないものの、それを差し引けばキレのある様々なアクションを演じていたのは確かなのだ。
特に“ロッカールームの激闘”では、一瞬、え?ブルースが演じているの?と幸せな勘違いをさせてくれるくらい
燃えるアクションを魅せてくれた奴でもあるのは認めたいと思う。

もっともキメてくれたアクションの後に顔が映ると「やっぱニセモノかあ・・・」と、どうしてもブルース・リーじゃないという唯一にして最大のポイントで皆がガッカリするという、ある意味不幸な方でもあるのだ。

で、死亡の搭だ。上述のブルース・リーの出演フィルム以外のビリー(ブルース・リー)の代役もこのタン・ロンがやっている。
しかし髪型をブルースに合わせることさえしておらず、同じシーンでも正面は本物ブルース・リー、カットが変わった後ろ姿はタン・ロンてな場面でもいきなり髪が伸びているので、もはや誰が誰だか(笑)。

冒頭からしばらく、ビリー(本物ブルース)は武術の師匠と語らったり、とにかく不真面目な弟ボビーを心配する真面目な武道家として話が進むのだが、ブルース本人のアクションは、無い(笑)。

ここまででも既に「ううむ…」と言う状態なのだが、そのうち親友の武術家チン・クー(ウォン・チェンリー→ジャッキー・チェンの酔拳の悪役の人)が急死したという知らせを聞き、ビリー(ここからはほぼタン・ロン)が日本に向かうあたりから
本物ブルースが出てこなくなるのに比例して、映画のトンデモ具合が増していくのだ(笑)。


まずチンの養女メイに会うために彼女が歌手をしているという銀座のクラブを訪ねるのだが、これがどう見ても新宿歌舞伎町(笑)。
メイの歌のシーンでは日本の歌謡曲がフルコーラス使われているけど、あれ、誰のなんて言う曲なんでしょうね?

で、百恵ちゃんのポスターが貼ってあるメイの楽屋にビリーが訪れ、メイがチンから預かったフィルムを受け取るや否や悪い奴が続々と乱入。
さらに表に出ての乱闘シーンは屋外なのにいきなりセットになったりするのだが、もう「映画としての整合性」はこの時代の香港映画には望むべくもなく、ひたすらアクションを楽しむしかないのである(笑)。

その後ビリーはチンの葬儀に参列するが、これがまた怪しい外国人大集合で、ロケ地である増上寺、よくOK出したなあと変なところで感心させられる。
坊主は役者かもしれないけど、寺の中までカメラが入っているのは驚き。こんな映画に撮影協力するとは増上寺一生の不覚ですな(笑)。

で、葬儀後なぜか土葬するべく墓地に運ばれたチンの棺は、突如現れたヘリコプターに奪われる。
それを阻止しようとしたビリーはヘリに飛びつくものの、上空でヘリから放たれた矢を受けて落下、あっさりと死んでしまうのである(涙)。

ビリーの葬儀場面には、「死亡遊戯」同様ブルース本人の葬儀の模様の実写フィルムが使われている。
このあたりが当時の香港映画界の恐ろしいところで、商売になるなら何でもアリという漢民族と、我々の感覚の違いを痛感するのである。
というところで、名実ともにブルース・リーは物語から退場。ここまでで約30分。おいおいおい…(笑)。

まあ、想像通りのトンデモ映画なのだが、ビリーが死んでからはボビーであるところのタン・ロン単独の話となり、「ブルース代役タン・ロン」へのモヤモヤだけは解消されるのだが、トンデモ具合は加速していくのだ(笑)

で、兄の死の真相を探るべく日本にやってきたボビーは、ビリーが遺したフィルムに写っていたチンの弟子の白人ルイスが怪しいと睨んで接触。
彼の住む「死の宮殿」を訪ねると車に乗せられ「どうだ俺の飼っているライオンは。ワハハ」と、
ライオンがいっぱいのサファリパークロケを「彼の宮殿の庭」ということにしてしまうという、強引かつあまり意味の無いシーンをはさみ
ルイスへの挑戦者の卑怯な手を止めたせいか、ボビーは何気に気に入られて滞在することに。

まあ、ルイスは挑戦者をあっさり葬るなどやりたい放題だから怪しいのは確か。
真相を探るべく夜ボビーは夜全身黒ずくめで肩から白い紐がついた袋を下げて表に出るが仮面の男に邪魔をされる。
この場面は「燃えよドラゴン」でハンの島を探索するブルースの格好と同じ。彼が望んだのか監督の指示なのかわからないが、
もう単独主演パートなんだから安っぽいコピーにしかならないのことしなきゃいいのに。哀しいところなんだよなあ(笑)。

そうこうするうちに寝込みをライオンに襲われる。ええ、ライオンです。サファリパークロケはここの伏線だったのか!と思いもよらない唐突さ(笑)。もちろんライオンはどう見ても気ぐるみなのだ(笑)。
最初観た時は、ライオンと見間違えてる演出か?それとも獣人系の凄い奴の設定か?と思ったが、
やはりあれは本物のライオンとして観なくてはいけなかったんだろうなあ(笑)。

そのうちてっきりボスかと思われたルイスも、腹心の部下の片腕男(邪魔した仮面の男)に殺されてしまう。
ボビーは黒幕を探るべく、ルイスから宮殿近くの寺の地下にあると聞いた「死亡の塔」を目指すが、この片腕男が立ちふさがる。実は両腕があったこいつ(ルイス他、誰かもっと早く気づけよ)をやっつけ、
いよいよ逆死亡の搭に潜入。本家とは逆に地下に潜っていくのだが、エレベーターなんだよね(笑)。

ウィーンと着いた場所は「燃えよドラゴン」に出てくるハンの地下要塞のバッタモン(笑)。
ここで雑魚を相手に一暴れ。さらに一階層潜るのかと思ったら向こうから原始人のようなヒョウ柄の服を着た怪力男がやってくるんでこいつもやっつける。
今度こそ一階層潜るのかと思いきやヒョウ柄男がやってきた通路を殺人光線(笑)を避けて進んじゃう。

そこには奪われたチンの棺が。その前には赤い衣を纏った僧がいるのだが、
この僧、ヒョウ柄の男とボビーの戦いも通路の向こうで観ているはずなのにボビーが近づいてもまったく動かない。
でも棺に近づいた途端に襲いかかってくるのも何だか良く分からない設定で。それなら殺人光線通路を通る前に邪魔しろよって感じなのだ(笑)。

こいつを倒すと、死んだはずのチンが登場。武道家でありながら金に目のくらんだ彼こそが黒幕。麻薬密売組織のボスにおさまり、警察の眼をそらすために死んだことにして棺も奪わせて文字通り地下に潜っていたのだ。

兄の親友であったチンとの闘いは容易には勝てず、途中息を吹き返した赤の僧が気を失っているふりをして、ボビーの足を掴んでチンの手助けをするつもりが、なかなか掴めず、そのうち倒れたチンの下敷きになってふたたび気絶するという、笑わせたいのか判然としない無駄なシーンもはさみ(笑)
ボビーは兄ビリーが残してくれた自著の教本を思い出し「そうだ截拳道[ジークンドー]で闘うんだ」と戦い方をチェンジ。

おまえ、冒頭から今まで全然鍛練しているシーン無かったぞ!というこちらのツッコミも届く間もなく、
タン・ロンは再びブルースリーっぽい動きをしだし(でも全然ジークンドーっぽくない)なんとか勝利するのである。

ああ、いかんツッコミどころ満載でほぼストーリーを書いてしまった(笑)。

まあ読んでいただいたとおり、志もストーリーも演出も間違いなく酷い映画ではあります。
ただのカンフー映画としてなら「ひでーなあ」と笑って済ませられるのに、
ブルース・リーの冠と、その存在にリスペクトが感じられない、あまりに無神経な使い方に怒りを買ってしまった本作。

ただ、それまで影の存在だったタン・ロンが「表の存在」としてその顔を堂々と晒し、その名前のまま出てこれたという意味では価値があると思うのだ。

加えて「死亡遊戯」でカットされた、ブルース代役のタン・ロンVSカサノヴァ・ウォンとの〝温室の激闘”が、ビリーの闘いの一つとして挿入されていているってのはちょっとポイント高くなるところだったりするのである。

どうも製作側でも次はタン・ロンを売り出そうとして、つぎはぎだらけの「死亡遊戯」とは同じにしない、という意思も働いたようだ。
現にこの映画はタン・ロンの祖国韓国ではブルース・リーのシーンをカットして、タン・ロン主演映画として公開されたそうだ。


そんな彼もすでに鬼籍に入られたとのこと。
自分も含め当時世界中にごまんといたであろうブルースが大好きだという男たち。
その中で、誰もが憧れた「彼になれた」数少ない男。
そしてほとんどの人に「彼になったこと」を拒否された男でもあったのが
少し哀しく感じるのであります。

しかし、映画としては酷いこんな映画を「ガンマン無頼」の後にこれを観出して、明るくなった土曜の朝を迎えるってのはいかがなものなのだろうと、ボンクラ中年は少し反省するのであった(笑)。