夜のピクニック | B級パラダイス

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健康優良不良中年が、映画、音楽、読書他好きなことを気まぐれに狭く深くいい加減に語り倒すブログであります。

 

 

恩田陸/著   新潮文庫

 

このブログを覗いてくれる、特に同年代の方々はなんとなく皆「いい子」で育った気がする。

普通の親子の関係があり、決して裕福じゃないとしても食うに困るわけでもなく

日々小さな悩み事はあったとしても不幸せなことはそんなになかった、

「消去法で幸せ」だった・・・ごく普通の青春時代・・・。

「いい子」で成長しちゃったがために、今でこそなんとなく「悪いこと」に憧れちゃったりもするけど

その「悪いこと」は少なくともどっかのボクシング親子みたいなのはちょっと違うぞ

ありゃあ御免こうむるなあ・・・という価値観。

こんな育ち方した方が多いんじゃないかと思う。自分がそうだから勝手に思う(笑)。

そんな皆様に是非読んで欲しい一冊であります。

 

主人公甲田貴子と西脇融(とおる)の二人が通う北高の伝統行事「歩行祭」。

二人の高校生活の最後のイベントでもあるこの「歩行祭」は

全校生徒が一昼夜を費やして80キロ歩き通すだけ・・・という地味な催事。

貴子は密かな賭けをこの「歩行祭」で果たそうとする。

三年間、一度も話していない西脇融との関係にケリをつけるために・・・

 

物語は貴子と融のそれぞれの一人称で進む。

融と無二の友人の忍。貴子と同級生の千秋、梨香、そして親友の美和子。

二人とそれぞれの友たち、時に男女のグループが交差しての、仲間との語らいが

歩きながら疲れ果てながらも本当に心地よいリズムで進んでいく。

 

学校生活の思い出。クラスメートの噂。卒業後の夢。心に秘めた気持ち。友への感謝・・・

「みんなで、夜歩く。ただそれだけのことがどうしてこんなに特別なんだろう」

アメリカに戻ってしまい、今年の歩行祭に参加できなかった杏奈の言葉。

 

高校生の時でも、大学生の時でもいい。中学でも社会人になってからでもいい。

友と・・・仲間と夜を徹してくだらない話に笑い、なんだか急に真面目な話になったり

家族のこと、生き方のことを語り、そしてまた馬鹿笑いするような夜を、

こんな時間、もうないのかな・・・と思う、そんな一瞬を経験したことがある方、

それを思い出せる方、是非この「何も起こらない」物語に浸って欲しい。

 

恩田陸の描く主人公っていつも「普通にイイ子」だ。

実際よりちょっと上品で思慮深いけど、そんな奴らが周りにいっぱいいた。

同じくらい馬鹿な奴等もいたが、程度の差こそあれ皆「普通」だった。

その「普通さ」がなんだかとても懐かしくなる。

計算の無い学生時代の、若さ故の青臭さもひっくるめ

「ああ、こんなこと話したなあ」っていうノスタルジーに浸れる

そんな素敵な時間を与えてくれた一冊だった。

 

「コールドゲーム」で高校生の爽やかさを思い出したけど

この本で更に思い出し、失ったものの大きさも知りつつ

得てきたものの深さもまた実感できた気がする。

 

さすがにこの年になっちまったから、ちょっと逃げることや、

誤魔化すズルさと、諸々の「悪いこと」覚えちまったけど

チャットの仲間やブログの仲間と、この物語のような時間を追体験させてもらってるなって

改めて思った次第。なんだかありがたくなってくる。

「仲間と語る」この楽しさをこれからも大切にしていきたいな・・・と

カルメンマキ&OZ聴きながら想っています・・・(笑)

 

2006年に映画になったようだけど

この「何も起こらない(まあ、実際はあるけど)」故にキラキラと透明感溢れるこの物語

どんな青春映画になっているのか、ちょっと気になります。