
SPIRIT スピリット?(香港/アメリカ 2006) 原題:FEARLESS 霍元甲
監督: ロニー・ユー アクション監督: ユエン・ウーピン
製作: ビル・コン 脚本: クリスティン・トー クリス・チョウ
出演: ジェット・リー 中村獅童 スン・リー
原田眞人 ドン・ヨン コリン・チョウ ネイサン・ジョーンズ
いいっすねえ。1900年代初期の上海で数々の武勇伝を残した伝説の武闘家、
霍元甲(フォ・ユァンジア)の物語。主人公は、言わずと知れたジェット・リー!
実はこの霍元甲、知らない人には「ふ~ん」ってなもんですが
、清朝から今の中国に変わる混乱期の中国に実在した武術家です。
当時中国は、西欧や日本の列強各国に踏み込まれ、
「東亜病夫」(東亜細亜の病人)呼ばわりされ中国人はその誇りを失いつつあったのです。
中国武術は白蓮教系の秘密結社「義和団」によって世を乱すものとして卑しまれ、
武術家たちはその技を大道芸に落としたり、自ら封印して秘術を隠匿したりしていたため、
数千年の歴史を持つ中国武術は危機的状況にあったといいます。
しかし霍元甲は各地の武術家に呼びかけ、上海に「精武体育学校」を開き、
真性武術を復活させると共に、「単なる強さ」への追求だけでなく「智・徳・体」を育み、
中国人の精神的な自立の象徴を目指していったのです。
1910年、霍元甲は上海で日本の柔道家の挑戦を受けるもこれを退けた後、急死しています。
彼の死の影には日本人の謀略(毒殺など)が噂されていたのも事実のようです。
まあ、中国武術の歴史の中で非常に重要な人物、というわけであります。
余談ではありますが。そう、気づく人は気づくでしょう!「精武体育学校」=「精武門」
・・・つまりブルース・リーの「ドラゴン怒りの鉄拳」の原題っすね。(アリトくん以外知らねーよ(笑))
あれは師匠である霍元甲が死んでしまった後の弟子の物語だったのです!
故に日本人が悪役になっているのです。
おお、ブルース・リーの師匠を30年たってジェット・リーが演じるとは・・・!
ちなみにこの「精武門」=「ドラゴン怒りの鉄拳」の正式な続編「新・精武門」には
整形前のジャッキーチェンが主演してます。前にTVで見たけどこれはイマイチでしたなあ。
そして「怒りの鉄拳」のリメイク「フィスト・オブ・レジェンド/怒りの鉄拳」では
ジェット・リーがブルース・リーの演じた霍元甲の(架空の)愛弟子陳眞を演じていたりします。
(これで師匠と弟子、両方演じたわけですな)
で、本作は、強さに憧れ一度はそれに溺れ自分を見失い、家族さえも失った霍元甲が
放浪の後に再生し、武術は敵を倒すものではなく、自己を鍛え自分に打ち勝つものである、
という真の強さに目覚め、広い視野に立って「精武体育学校」を開き、
誇りを取り戻していく物語であります。
民衆のヒーローになった彼を貶めるために催された
世界初の「異種格闘技大会」をクライマックスに描くわけですが、
そこはそれ、「フレディVSジェイソン」の監督ロニー・ユーだけに、
地味な「伝記映画」にはしません。
巻頭からカンフーアクションのつるべ打ちで全く飽きさせず、
そこに霍元甲の成長を絡めて非常に清清しい出来になっています。
なんせ70年代のカンフーものと言ったらマカロニウエスタン同様に
復讐、報復、また復讐の陰惨な物語がほとんどを占めていただけに、隔世の感はありますな。
本作の霍元甲が復讐の念を捨て、放浪の果てに農村で暮らし、
彼のSPIRITが高潔なるものに変わっていくのは、その表情の変化とともに、
こういう真面目な展開も「読めるけど説得力あるなあ」って改めて思った次第。
ラスト、毒を盛られ死を覚悟しながらも試合に臨む彼に向け、「努力し向上せよ!」という
彼の起こした「精武体育学校」の精神を涙ながらに、でも高々と皆が叫びます。
達観した表情の霍元甲ジェット・リーと、武道家としてそれに応える安野=中村獅童との死闘。
その戦いを肉弾相打つ効果音を排して、音楽のみで描くことで
二人の戦いが神々しいまでに昇華され、大変良かったです。
ジェット・リーこの作品で武侠ものはもうやらない宣言したらしいですが、もったいないよなあ・・・
まだまだまだ動けるんだから。でも彼の「集大成」だとしたら、
それはそれで納得できる、アクションも物語も良い映画でありました。
「ラストサムライ」と同じようなヤナ奴の役で、また原田眞人監督が演じていたのも笑えましたが、
中村獅童は悪役かと思ったら意外においしい役。ただ獅童のアクションシーン、
吹き替えバレバレなのがどうにも落ち着かなかったのは減点でしたな(笑)。
メイキング観たら、彼、殺陣の覚え悪いんだよなあ。もっと体鍛えてから臨めよな(笑)
という細かいツッコミはありますが、総じて良かったです。
「ドラゴン怒りの鉄拳」と比べると、悪役じゃない日本人が出るだけましかな。
アメリカ資本も入ってワールドワイドの支持を狙ったってこともあるんでしょうねえ。
しかし「HERO」から始まり、「LOVERS」とか「PROMIS」とか続くこの英語一文字邦題、
そろそろ止めません?原題「FEARLESS」の方がよっぽど精神性を表してると思いましたぞ。