ジャンゴ・・・優しくなれるさすらい人よ | B級パラダイス

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SUKIYAKI WESTERN ジャンゴ (2007)

 

監督:三池崇史   脚本:三池崇史 NAKA雅MURA 
撮影監督: 栗田豊通  美術: 佐々木尚  衣装: 北村道子  音楽: 遠藤浩二 


出演: 伊藤英明  佐藤浩市  伊勢谷友介  桃井かおり 香川照之 石橋貴明  安藤政信 

         木村佳乃  松重豊  塩見三省  石橋蓮司  堺雅人  小栗旬 クエンティン・タランティーノ

 

金曜夜仕事帰りに・・・と狙っていたのに果たせなかった鑑賞、どうにも諦めきれず

明けた土曜日、上映館変わって朝10:15からの1回の上映になってしまったのもものともせず、

「俺は行く!」とすがる家族に高らかに宣言して(笑) 何年ぶりか一人で映画館行ってきた。

 

あ、自分のHNにもしているこの「ジャンゴ」ってそもそも何だよっていう方は

まずは拙稿参照してください・・・って今読み直したけど、参考にならないか。ま、いいや(笑)

結論から言えばこれぞ男が一人で見るに相応しい映画。 映画館で観れて良かった!

「これが撮りたかったんだ」という想いが届く、ヤル気溢れるパワフルな映像つるべ打ち!

タランティーノの「キルビル」と通じる「んなアホな!」という数々のムチャな設定を

力技で納得させてくれる最高にゴキゲンな映画だった。

 

「続・荒野の用心棒」に「夕陽のガンマン」「燃えよドラゴン」に「タクシードライバー」まで

(なんだ俺みんなDVD持ってる・・・)マカロニウエスタンは当然のことながら

ペキンパー/ジョン・ウーを思い出させ、おまけに大友の「AKIRA」までネタに(笑)

「男の映画」的記憶の小技効かせながら、三池監督やってくれたぜ。天晴!

 

これだけの役者のパワーってなかなか感じられなかった、最近稀有な日本映画だと思う。

雨でスケジュールが押してしまっても皆調整してロケ地に残ったと聞いた。

原作も無く、ヒットの保証なんかまるでない監督の企画だけでスタートしたこんな「馬鹿映画」でも

「今までに無い面白いものを創る」という三池の想いにスタッフ・キャストの力が応えたって感じ。

マンガ原作、お涙頂戴小説原作、テレビの焼き直しばっかりの邦画に

このままじゃ日本映画はいかんのじゃないかという危機感を役者さんも持っていたのでは・・・

と三池監督のインタビューにもあったが、ほんとにそんな感じだった。

実際、日本の寒村にも西部劇のゴーストタウンにも見えるオープンセットが

非現実ながら存在感たっぷり。この非現実さに役者が染まりパワーになっていた気がする。

 

でも冒頭は銭湯のような富士山と太陽(吊ってるワイヤーまで見える(笑))の書割のバック!

何か文句あるか?と言いたげなこのセット前でタランティーノが語る「平家物語」で

すでに「異常な物語」だとバカでもわかる導入。

マカロニウエスタンお約束のチンピラ3人組(なんと孫悟空が出演してた(笑))をぶっ殺し

いきなり卵をかき混ぜスキヤキ食ってうまそうにタラが「アイアイア~!」と叫ぶと

(そのメロディはもしかして「続夕陽のガンマン」?)

カメラはスキヤキ鍋に突入!肉がシイタケが白菜がしらたきが浮遊する空間

最後に焼き豆腐が回転して飛んでくるとその裏にはドドーンとタイトル

「SUKIYAKI WESTERN DJANGO」の刻印が!(爆)

もー書いてもわけわからん(笑) すげー馬鹿!でも凄すぎてカッコイイ!!(笑)

 

そして「壇ノ浦合戦から数百年後」とテロップが出て、舞台はいずことも知れぬ村・・・

「湯田」(ユタ(笑))に流れ者のガンマン(伊藤英明)がたどりつくところから始まる。

村の入り口には首吊り死体がぶら下がる大鳥居。

新聞で神社関係からここにクレームついたという記事読んだけど

そんな不謹慎かつ異常な表現がまた似合う映画だ。

なんせタラ以外日本人俳優なのに西部劇、全編英語台詞&日本語字幕だし(笑)

 

湯田は平家の落人が暮らす村。半年前そこに埋蔵金が隠されていると噂が立ち、

よそ者が押し寄せ村を荒らし回る。やがて村には、平清盛(佐藤浩市)率いる平家(赤軍)と、

後からやってきて、優勢の源義経(伊勢谷友介)率いる源氏(白軍)が反目しなが存在するという

黒澤の「用心棒」否、ここではレオーネの「荒野の用心棒」から何度も繰り返されたこの図式。

開巻いきなり間にガンマン挟んで赤と白が対峙するロングショットは

オープンセットの雰囲気の良さも手伝って一気に「物語」のなかに入り込める。

この対立をフォーマットにしながら、様々な映画的記憶を散りばめながら進む物語に

いつしか英語台詞&日本語字幕にもまったく違和感はなくなっていく。

 

やがて清盛に夫を殺され、今は子供をルリコに預け源氏に身を寄せる静(木村佳乃)の境遇を

酒場のババア、ルリコ(桃井かおり)から聞いてシンパシーを感じたガンマンが

彼女の救出に動き出すところから物語は加速をつけて動き出し、赤白の均衡もまた崩れていく。

(ちなみに木村佳乃、今まで一度も気にいったことなかったけど、黒い下着&ガーターベルトで

ガンマンに馬乗りになった瞬間に「お気に入り登録」完了でありました・・・(笑))

 

ジャンゴといえばこれだ!のガトリング銃と、ダイナマイトの爆煙の中の壮絶なガンファイト。

静の死とお約束の主人公がリンチにあうピンチ、敵の敵はやっぱり敵という「3つ巴の戦い」に

伝説のガンマン「ブラッディ弁天」の復活も加わり、

物語はどんどん突っ走りながらクライマックスに雪崩れ込んでいく。

 

マカロニウエスタンはアメリカ正調西部劇と異なりヒーローが正義とは限らない。

流れ者に賞金稼ぎならまだいい方で、ヘタすりゃ悪人そのものが主役だったりするが

このスキヤキウエスタンも負けてない。

伊藤英明ガンマンはハンサムで甘い顔、海猿なんで(笑)、観る前はどうかと思ったが

なかなかどうして、ふてぶてしさと過去の辛い記憶を内面に湛えてガンマンを予想以上に好演。

ロングコートなびかせてボウガンの矢を撃ち落とすその姿は

ジョン・ウー演出のごときスローモーションのカッコよさも相俟って最高にキマッていた。


マカロニと言えば狂気スレスレの強力な悪役出てきてなんぼ。

ここでも面構えがいい役者が活き活きと演じてる。

シェイクスピア読んで「今日から俺をヘンリーと呼べ」などと部下に強要し、

銃撃があるとすぐ誰かの影に隠れて弾をよけようとする卑怯な平清盛=佐藤浩市が実にいい!

一人だけ甲冑つけて弾から身を守ったりの臆病さセコさと、

弱い奴を徹底的にいたぶる凶暴さが無理なく同居して最高だった。

対するは「サムライ」ではなく「モノノフ」の精神性を重んじる源義経=伊勢谷。

感情を露にする佐藤清盛に対して、弱いことは罪だと部下に徹底させる冷徹さと

「考えるな!感じるんだ!」とリー師父の台詞!まで口にするストイックさ。

「戦い」を至上の喜びとする静かな狂気漂わせこれまた好演。

この二人、「夕陽のガンマン」のジャン・マリア・ボロンテが佐藤なら

「荒野の用心棒」のジャン・マリア・ボロンテが伊勢谷って感じ。

ってわかんない人には全然フォローできてない解説ですが、そんな感じです(笑)

 

この両軍ボスの対比も良いけど部下もまた良い面構え。

中でも最高なのが源氏の危ないボウガン男、与市=安藤政信。

これじゃ女性ファンが退くだろうってくらい眉毛は無いは

歯槽膿漏の歯をむき出すはで一際狂暴性を発揮してて良かった。

他にも石橋貴明や堺雅人、怪演香川照之ら悪役陣がキャラたってるんで飽きさせない。

面構えといえば最初ほんとのインディアンかと思った(笑)塩見三省が存在感ありすぎだった。

これだけ役者の顔が思い出せる日本映画ってのもほんと最近見てないな・・・。

 

 

すんません、以下ネタバレ多いので観にいくつもりの方は読み飛ばしてください。

 

でも誰よりも桃井かおり!! カッコ良さはピカイチ。最高でした。惚れ直した!

タラにスキヤキ道を叩き込まれる若き姿はちょっと無理あったけど(笑)

目の前で父を殺されて言葉を失い、今度は母を失い目を閉じて何も見ようとしなくなる孫、平八に

「現実を見なさい。強く生きるんだ」と諭す深い愛情を滲ませつつ、

息子、嫁を殺された怒りを胸にもうやるしかないと、戦いに赴くその姿。

やっぱただの酒場のババアじゃ無かったんだ、とわかる瞬間のカッコ良さ!

黒づくめの衣装にでっかいスミス&ウエッソン モデル3 スコフィールドを振り回して

映画としての編集があったとは言え、予想以上に動ける体とその銃さばき。

血まみれ弁天の二つ名に違和感の無い姿はムチャクチャカッコ良かった!

 

そして・・・彼女に惚れていた幼馴染のトシオ=松重豊が

ガンマンでもないのに命がけで彼女をフォローした挙句撃たれる様。

「あたしは弁天だよ」という彼女に、それでも「ルリコ」と呼びかけるそんな一途な男の最期。

村で信頼できたのが彼だけだった弁天=ルリコの、彼に返す微笑みと深い理解。

互いに傷ついた体を泥だらけで這って求め合う、その指と指が届かない二人の最期。

このシーン、ちょっと不意打ち的に良くて・・・実は個人的には胸が詰まってしまいました・・・。

 

惹句通り「生き残れるのはただひとり」。最期の敵を倒したのはガンマン伊藤。

ルリコとトシオ、アキラと静の墓。たたずむルリコの孫=アキラと静の一人息子、平八。

彼は「平家」であるアキラと「源氏」である静との間に生まれた。

彼が育てる薔薇は赤と白の色が両方あるハイブリッド。

 

その名は「ラブ」。

 

この「希望の薔薇」を持っていこうとして逃げ遅れた静は殺されたのだ。

ガンマンも実は平八と同じように両親を失った過去があった。

それ故に静と平八のために立ち上がらずにはいられなかったのだ。

何もかも無くした平八だが、薔薇は残った。

生き続ける強さを持てと平八に言い残し去っていくガンマン。

 

彼は失った言葉を取り戻し再び「ラブ」と口にする。

 

ああ、ポスタービジュアルに薔薇があったのはこれだったのだ。

血まみれ泥まみれの物語の根底には

幾つもの形を変えた「愛」が横たわっていたのだった・・・

 

さて・・・ガンマンは棺桶引きずってなかったし、ガトリングも撃たなかった。

そもそも冒頭から馬にも乗ってるし、黒づくめじゃないし

どうも「ジャンゴ」っぽくないなと思ってたら最後まで名前無かったじゃないか!

彼か血まみれ弁天が「ジャンゴ」かと想っていたのに・・・

 

そしてラスト驚くべきナレーションが入る。

それによってこの物語が虚構と現実、時空を越えて繋がってしまうオチ。

ここだけは書きません。その目で確かめてください。

ただ、言える事はそもそもの「DJANGO=続荒野の用心棒」を知らない人には

まったくわけわかんない内容でありますが・・・(笑)


流れ出す、高らかに哀愁たっぷりにサブちゃんが歌う「ジャンゴ~さすらい~」。

映画の内容を知ると歌詞が身に染みる。

 

ジャンゴ 乾いた風に

ジャンゴ 命の鼓動(おと)が
静かな目で 見据えている
そこは狼の道
 
ジャンゴ 孤独文字を
ジャンゴ 背負ったものは
迷いも無く 涙も無く
はぐれ月夜に吠える

 

燃え上がる空の果てに聴こえる
魂(こころ)の唄に抱かれて眠れば
ジャンゴ 優しくなれる
さすらい人よ

 

燃え上がる空の果てに聴こえる
魂(こころ)の唄に抱かれて眠れば

ジャンゴ 優しくなれる
さすらい人よ


OH ジャンゴ

OH ジャンゴ

OH ジャンゴ・・・


 もう何も言うことはない・・・(これだけ書けば当たり前だ(苦笑))。

誰も読まなくてもいいくらい、昔つけていた映画日記思い出したな。

ムチャな設定に愛がこもったこの一品。

本当は誰にも勧めず、自分だけの1本にしたい種類のものだった。

一人で映画館に通いつめた日々を思い出した。

 

そしてスクリーンが明るくなり・・・自分を含めて5人しか観客がいなかった映画館を

夢から覚めたように俺は後にしたのだった・・・。