年を重ねるごとに、寡黙になって行く男とは打って変わって、自分が輝いていた
時代を目の前の出来事のように幾度となく話をする。
その過去の栄光を引きずり、それに翻弄されいつしか周囲に誰もいなくなるとい
う栄光からそれこそ場末の年寄りと相成る流転の人生を送ったボクサーの物語
が、この「レイジング・ブル」である。
http://jp.youtube.com/watch?v=YiVOwxsa4OM
「レイジング・ブル」 八十年公開作
実在の世界ミドル級チャンピオンにまで上り詰めたボクサー、ジェイク・ラモッタ
の自伝を「タクシードライバー」のスタッフが映画化したもので、主演はデ・ニーロ
で役者魂の塊りは、二十五キロ程度の減量いや増量か、をこなし現役当時とその
後の流転の人生を好演している。
ここでのボクシング・シーンは「ロッキー」のダンスではなく、リアルな場面として昔
のボクシング・スタイルが拝めるものになっている。
モノクロ手法は、うそ臭い演技をカバーしているとも取れる出来で、カメラワークの
秀逸さも手伝い、臨場感がある。
そして興行として格闘技につき物の、裏社会の暗躍なども絡みと、試合をするボク
サーさえ、金儲けの道具以外の発想のない人々も絡むと、「ブロンクスの牡牛」と
そのボクシング・スタイルの猛烈ささえも、形無しの暗闘が「八百長」を嗾ける。
と、昔のスタイルには、この負のイメージが付きまとい、また貧困からの脱出という
アメリカン・ドリームもありと、熱狂する観客の裏でボクサー本人の悲哀が存分に描
かれている。何より本人の猜疑心が仇となり、好意的人間が離れていっても、それに
気付かず、「過去の栄光」に酔うセリフには、しがみ付く哀しみが溢れていた。
映画としての出来は秀逸だし、モノクロとカラー、この手法も懐かしい、パートカラーと
は、とはいえ日本のパートカラーは金がないから、であちらはより印象的手法としての
パートカラーと、その発想は雲泥の差、いやいや予算のないポルノの映画で、よりよき
ものを作り出す知恵は凄い・・・、と、横道にそれながら、ついでにこの映画を見て思い
出すボクサーのお話しを・・・。
日本にもレイジング・ブルと呼べる猛牛並みの馬力とハードパンチで世界チャンピオン
になった男がいた。名を藤猛といい、日系二世でたどたどしい日本語で「岡山のおばぁ
ちゃん」とか「大和魂」で人気になった選手である。
ただこちらもご多望に漏れず、ボクサーでは勇猛で観客を熱狂させるスタイルであった
が、その後を知る人は少ない。
で、このジェイクも自分で店を構えても法律違反を犯して逮捕とか、場末でのどさ廻り役
者とかと、その後の人生はどちらかというと、周囲に恵まれなくなる。
その原因は勿論自分の性格にある猜疑心なのだが、こちらの藤猛もその性格がよく似て
いるように思う。一度会って話をした時、こちらにすればリアルタイムでその強烈なパンチ
を見ている者にとって、一種の憧憬を抱く選手である。
しかるに話しに出てくるのは「金」だけである。
ファイトマネーを試合をする会場に用意させ、その金を自分の目で確かめてからリングに
上がったものだ。そうタイトルマッチで、である。
それをとうとうと一度騙されてただで試合をとしたからと、試合の度、いつも金を用意させた
と、その後も苦労した話の間も全て「金」マネーの話に終始して、聞いているうちにこちらは
萎む憧憬で暗くなった。騙され続けた人生かどうか、それは分からないが、そのボクシング
スタイルに憧れにも似た気持ちを長年持ち続けていたこちらは、それでこの映画を見れば、
なんとも重なり合う人生に過去の栄光の「哀しみ」が、うっすら理解出来る・・・。
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- Amazon.co.jp といったところで、またのお越しを・・・。