第二次大戦の戦争映画、それも地上での特殊任務が二本続いたが、今度は空からの
敵国陣地への爆撃指令というものに挑む若者群像に焦点をあてた映画「メンフィス・ベル」
この映画、「メンフィス・ベル」の最後の出撃にスポットを当て、そこに使命と生還という相反
するかのような状況におかれた若者達の諍いと連帯感・・・。
http://www.youtube.com/watch?v=lxUO0cvE1eA&feature=related
「メンフィス・ベル」 九十年公開作
この映画の主役は「好運の爆撃機」と呼ばれるB-17爆撃機の一機に付けられた
愛称が映画の題名になっていて、その乗組員十人の性格の違いとか、危機に陥ったときの
対処の違い、そしてこれがラスト・アタックであるという思いとが交錯して、これまでの勇猛果敢
とかでない戦争を戦う人間ドラマとして、それも若者達という普遍な青春時代を争いで過ごさな
ければならなかった者達の、悲哀と歓喜を織り交ぜた航空機映画では、出色の出来の映画である。
この映画の二年前「ブルースが聞こえる」という第二次大戦の徴収されてきた若者達の訓練所での
様子を活写した映画があったが、あの映画は訓練を終えても戦場へ行くことなく終わって、それでも
訓練所での仲間達との諍いとか心の通じ合いとか、あまりいい思い出がないが過ぎてみれば、すべ
てが懐かしい取り返せない時間の愛おしさが・・・、ってな、ニール・サイモンらしいストーリーだったが、
こちらの映画はその愛しい時間を生死をかけた戦闘時間においてあるから、その表情は数倍悲壮感が
漂うし、何より友軍機が次々打ち落とされるのを、じっと見、次は自分かの緊張は、訓練所の諍いの比
ではない。ゆえに「ブルースが聞こえる」もそれなりに良かった映画だが、こちらの乗組員の必死さに比
べてしまったら・・・、「ヌル湯の我儘」とも映ってしまう。
特に遼機の自分が撃墜した敵機の破片で、切断される場面は目を覆いたくなる悲惨さであった。
その墜落していく機の無線から聞こえる断末魔の叫びは、耳を塞ぎたくなる・・・。
と、前半のそれぞれのキャラクターを引き出す設定に続き、後半は戦闘場面でのそれらの対応と凄まじ
い空戦を通して「死ぬか、生きて帰るんだ、それも負傷した者も一緒に」とミッションをやり遂げ、ふらふらに
なりながら帰還を果たすまでを「一蓮托生」の狭い空間で確かめ合う戦争という場面での人間、それも青年
達の生きるか死ぬかの体験を通して、一応は戦争の悲惨さも伝えている。
と、ここまでは評価する内容だが、ただこれがB-17でなく、B-29のお話しであったなら、「嘘つくな」、戦闘が
そんなに正々堂々行なわれるはずもなく、誤爆を避けたくて昼間飛んだなんてのが信じられるか、になる。
まぁ、映画を作る人が自虐的に描くのは日本人くらいで、いくら年代が過ぎても、ここには差がありすぎる。
ただ、この映画、実在した「メンフィス・べル」の幸運をドラマ仕立てにしているだけってな側面もあるのだ。
何しろモデルの機長は、このミッションの後B-29にて、あの東京空襲に出撃しているのである。
九十年代に入るとノスタルジックな雰囲気がだんだん出てくるのか「ダニー・ボーイ」の旋律には、少しうるっ
とする郷愁がある。
にしても、この機体の「落書き」に自分の彼女の名を記すところには、余裕も感じられ・・・。
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