どうも。東京から地方に活動拠点を移したローカルタレントを「都落ち」とバカにする者は、「東京の方が格上」という卑屈なコンプレックスを抱えた田舎者根性丸出しのバカです。
それはさておき、映画の感想文を書きます。今回は『ツィゴイネルワイゼン』です。
大学教授の青地と友人の中砂は、旅先の宿で小稲という芸者と出会う。1年後、中砂から結婚の知らせをうけた青地は中砂家を訪れるが、新妻の園は小稲に瓜二つだった(映画.comより引用)。1980年公開作品。監督は鈴木清順で、出演は原田芳雄、大谷直子、藤田敏八、大楠道代、麿赤兒、樹木希林、真喜志きさ子。
鈴木清順監督の「大正浪漫三部作」の第1作です。昨年公開された4Kデジタル完全修復版を再鑑賞しました。
『殺しの烙印』で日活を解雇されてから13年後の作品ですが、原田芳雄と藤田敏八というキャスティングは日活っぽいです。また演者をバストアップで撮って一人語りさせる演出は小津安二郎作品を思わせ、日活移籍前の古巣である松竹テイストを匂わせます。
ロケーションもセットも色彩溢れる映像美で眼福です。説明的ナレーションを最小限にして、それらの美術や衣装によって時間の変化を表現しています。登場人物が会食するシーンでは、鰻、すき焼き、天ぷら、そば、寿司という江戸っ子的な粋さを示す品揃えにするこだわりを見せます。
注目すべきは、演者が視線を合わすことなく会話することです。向かい合って話すシーンでも、視線を交わしていません(一方が目をつぶることもあります)。だから各々の登場人物は双方向的なコミュニケーションではなく、各々の見た世界を一人語りしていることになります。
彼ら個人の世界は独立しているにもかかわらず、他人の世界に侵蝕され、存立が揺らぐことがあります。青地(藤田敏八)の世界は義妹の妄想によって揺らぎ、死後の中砂(原田芳雄)からの声によっても揺らぎます。自分を自分たらしめている世界が揺らぐのは、不安や恐怖の感情を生じさせます。この感情が表現されるから、本作は怪談なのです。
本作の登場人物だけでなく、それを観ている私たちも自分の世界を現実だと信じ、他人の世界など見えてはいません。誰もが本作における盲人の旅芸人一行と変わりないのです。
★★★★☆(2024年8月22日(木)秋田県大館市・御成座「座・御成座映画祭」で鑑賞)
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