どうも。死刑の犯罪抑止力は軽微な犯罪であれば有効です。「万引きしたら死刑」ならば万引き(窃盗犯)は減少するでしょう。しかし、重大な犯罪である殺人の場合、「どうせ死刑ならば何人でも殺す」や「死刑になりたいから、たくさん殺す」という凶悪犯罪の動機付けになり得てしまうのです。
それはさておき、映画の感想文を書きます。今回は『続日本暴行暗黒史 暴虐魔』です。
青年、丸木戸義男は気弱な青年であり、目立たぬような地味な生活を送っている。しかし、丸木戸は深く大きな闇を秘めていた。女性を強姦し、殺しては死体を洞窟にコレクションしているのだった・・・(DIGレーベル公式サイトより引用)。1967年公開のピンク映画。監督は若松孝二で、出演は山下治、林美樹、弥生京子、小柳冷子、佐藤愚作、ガイラ・ジョンソン。
戦後間もない頃、実際にあった連続強姦殺人事件、いわゆる小平事件を基にしながら、独自の脚色を加えたフィクションです。同事件の犯人が小平「義雄」なので、本作の主人公は丸木戸「義男」です。
丸木戸役を演じる山下治はピンク映画の監督や脚本家を本業にしています。それでも、ほぼ全編一人芝居に近い難役を演じています。山下は秋田県出身であり、若松孝二作品の常連である山谷初男も同県出身です。宮城県出身の若松監督が東北人特有の陰(かげ)を感じたから起用したのではないかと想像してしまいます。
町のチンピラ役で出演しているガイラ・ジョンソンは、監督助手の小水一男です。後に小水が監督として活動するので、本作は映画監督が二人も出ている映画とも言えます。
実在の事件を基にして、二重人格者が殺めた死体を収集するという設定は、アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』と同じです。『サイコ』のノーマンが殺人鬼になったのは母親からの精神的抑圧(今で言うところの毒親)が原因であるのに対し、本作の丸木戸が殺人を繰り返す原因は、それと異なります。しかし、丸木戸が死体と共に生活した洞窟は彼にとって心の平穏を得られる子宮的空間であり、アダルトチルドレン的心理という点でノーマンと丸木戸は共通しています。
犯行が発覚した丸木戸は、事件の報道によって世間から「暴虐魔」と呼ばれて非難されるでしょう。しかし、本作を通して丸木戸の内面を知れば、その孤独感に少しでも共感してしまうかもしれません。そうなったら、犯罪とエロスを描いて世間で通用している法とモラルに異議を突き付ける若松監督の抵抗は成功しているのです。
★★★☆☆(2021年12月9日(木)DVD鑑賞)
にほんブログ村 映画評論・レビューに参加しています(よろしければクリックを!)